”たまに逢えたのに刺激が無いのは やっぱ物足りない”
日にちは夏休み突入2日目。
時刻はスケジュール上では宿題の時間の午後4時。
「おい、ウスラトンカチ。行くぞ」
オレは、してもいない予定を組まされた。
だいたい、行くぞって何なんだってばよ!
目的と場所をまず言え!その前にそういう事を当日に言うなー!!
正論ばかり言うオレを煩そうに眺めた後、さっさと支度しろ、とサスケは言いやがった。
こいつ、性格悪ぃ。
出会ってから何度目かも解らない事を、心で呟く。
そんな誘われ方したってのに、付いて行くオレって、意外とお人よしなのかなぁ。
ごめん、イルカ先生。貰った夏休みの軍資金、早速大活躍だってばよ。
促されるままの道を自転車で漕いで、着いた先は駅。
駅……って事は、電車に乗るんだよな……
訳の解らないサスケの行動に、オレの思考回路も訳が解らなくなる。
てんでサスケの意図が読めなかったけど、駅に着いた事でそれは判明した。
今日は、何処かの市で祭りが行われるみたいだ。特別の切符の販売所が設けられて、往復切符が売られている。
「なぁ、祭りに行くんか?」
と、問えばサスケが吃驚したような顔を向けた。
「付いて来るから、解っていたと思っていた」
「………………」
ンな訳ねーだろ!事の出だしを忘れたんかオメーはよー!!!
人が込んで居る事もあり、その怒りはそっと押し込んだ。あぁ、オレってばとってもオトナ。
がたごとと電車に揺れて駅3つめ。あと、2つ。
立った場所がクーラー直撃の所で、最初は良かったけど、いい加減寒くなってきた。
でも、結構込んでるから、移動は出来ねぇなー……
とか思っていたら、冷風が突然止んだ。
違う。サスケが立ち位置ずらして、風が遮られてんだ。
「そこ、立ったら寒いってば?」
「別に」
と、ぶっきらぼうに答えた。
サスケって、性格悪い上にぶっきらぼうで、更に鈍感なんだ………
完全無欠、ってサクラちゃん達はサスケの事、そう呼んでるけど、何だかオレには欠点ばかりしか見えないってばよ。
駅を降りて、オレはここ最近一番の感動に襲われた。
「……スッゲ---------!!!街が全部祭りだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うるせーぞ、ドベ」
お前こそ煩い!でも、今はそんな事は後回しだ!
今まで、イルカ先生やらじっちゃんやらエロ仙人に連れて行って貰った祭りは、神社や寺の境内とか、町内会で催される公園や、商店街の一角だった。
でも、目の前のはそれとスケールが違う!!
街が一個、てのは言いすぎなのかもしんねーけど、1つの町は確実に祭りのスペースになってるってばよ!!
スゲー、スゲー!!
まるで、味噌ラーメンと炒飯と餃子を一度に頼んだよりも、もっと豪華な感じだ!!それにジュースをつけても敵わない!
「なぁなぁ、サスケ!これって、どこまで祭りしてんだ!?」
「さぁな」
なんとも気の無い返事だってばよ。
うー、端から端まで堪能したい!でも多分無理っぽい!!
は!それだったら、こんな所でぐずぐずしてらんないってばよ!
「サスケ!行こうぜ!!」
「っ、おい………!!」
急に腕を引っ張られて、サスケが何か文句行ったけど、綺麗に無視!
だって、祭りなんだから!!
駅は高い所にあって、そこから横断歩道が中心を丸く、カニの足みたいにあちこちに道を繋げていた。
初めての所だから、適当に降りていく。なにより、何処に降りてもそこで祭りは行われていた。
「うひゃぁ〜〜〜」
降りて、感動再び。
どこまでも続く屋台。浴衣の女の人に、タンクトップの子供。近くの駐車場で、祭りの衣装を着た人たちが休んでいた。
うーん、超・祭り!って感じだ!!
「あぁ、もう、何処から行こう〜!!!」
お金も時間も絶対足りないってば!!
「少し落ち着け」
「ぅひゃ!?」
そんなサスケの声と一緒に来た、頬にとっても冷たい感触。
「何!……ラムネ?」
デコボコとした特徴のあるボトル。中のビー玉が泡を纏わりつかせる。
「それでも飲んで、ちったぁ頭冷やせ」
うわ、めっちゃムカつく!
でも、喉が渇いていたし(興奮しっぱなしだったし、ここまで自転車だったし)。
してもらって嬉しい事をしてもらったら、ちゃんと礼は言わねーとな。
「サンキュ。で、これいくら?」
200円内だと助かるんだけど。
「……奢りだ」
と、そう言って自分の分のラムネを一気飲みするサスケ。
「えー、お前って、そんな金持ち?」
「いや、友達と祭り楽しんで来い、って親から小遣い貰った」
「えー!いいなぁー。オレなんて、夏休みの臨時収入手に入れる為に2時間も頼み込んで期末テストで平均70点キープして」
本当は80点とか言われたけど、そんなん無理!ってマジ泣きしたら、仕方ないなぁ、って点下げしてもらった。
「……そうじゃ、ない」
ぼそ、とサスケは呟いた。
「だから、この金は……誕生日プレゼントなんだ」
「え」
「もうこの歳で、ブリキのオモチャやらクマのヌイグルミとかあげても何だから、て。
あと、お金の使い方も覚えなさいとか言われた」
家族の事を話すのが照れ臭いのか、ぼそぼそと言う。顔は……赤い?
でも、何か、サスケの両親って、結構いい親なんじゃねぇかな、って思うな、オレは。
それはそうと。
「………じゃ、サスケ、今まで貰ってたんだ。ブリキのオモチャやクマのヌイグルミ」
「……………」
「あ、やっぱり貰ってたんだ。やっぱり。ブリキのオモチャやクマのヌイグルミ」
「……オモチャオモチャうるせぇな!ラムネ返しやがれ!!」
「だめ!もうこれはオレのもん〜♪」
ラムネ持ちながら走って。
そうして、祭りの雑踏に入り込む。
よく見たら、夜店だけじゃなくて、元々そこにあるお店が店外販売をしている所も、結構あった。
例えば、和菓子店。
例えば、ケーキ屋さん。
例えば。
「おわ、サスケ!ペットが売られてるってばよ」
「そうだな」
そこはペットショップの前だった。て事は、この店のヤツだな。
「あは、ウサギやハムスターも出されてるってば。
昔は、色のついたヒヨコも売ってたんだよなー」
「……お前、古いこと知ってるな……」
「エロ仙人やじっちゃんが話してくれるってば。
エロ仙人と祭りに行くと、「昔の方が風情があって良かったのぅ」とかばっか言ってんの」
その割には、オレより楽しんでんの、エロ仙人ぽいけども。
「そういや、お前去年そいつと祭り行ったんだよな」
「? うん」
此処で何をいきなり、って思ったけど、頷いた。本当の事だし。
「今年は?」
「今年は、まだだってばよ」
そもそもエロ仙人に連絡つかねーし(早く来ないと、来た時じーちゃんが噴火しそうだってばよ)。
「そうか」
あれ、何だかサスケ嬉しそう。
ま、今日は祭りだもんな。
仏頂面も、休めなくっちゃ。
<続く>
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