冬樹はキャンプで1泊2日。
て事はその間、ボケガエルと2人(?)きりかぁ、ぞっとしないな。
なんて夏美は思うが、本当にぞっとしないというかぞっとするのはケロロの方だし、そもとも2人きりではない。厳密に言えば。
今日もいつものように部活の誘いの手を断り、スーパーで食材を買って帰る。ちょっと違うのは、その量がすこし少ない事だ。そのすこしが、やけに大きい。
これから、家に帰って一息ついて、夕食を作る。
それが今までの日常なのだが、今はその一息の時間がかなり取れるようになった。
まぁ妙なきっかけで妙な経緯になったけど、なんだかんだで枯れ木も山の賑わいってやつよね。
強ち間違いでもないような事を思い、精算を済ませた。
帰宅。
キッチンの机に、スーパーの袋を置く。
「ボケガエルー!冷蔵庫に入れるヤツ、入れといてー」
アタシ着替えて来るから、と続ける。
しかし、返事が無い。
「…………?」
ついでに、何処かへ隠れるような気配も無ければ、その際に起きた音も無い。
って事はまだ自室に篭ってんのかしら。あのニートガエル。
このセリフをケロロが聞いたらこう言うだろう「だって我輩の仕事(地球征服)夏美殿がしちゃだめって言ったじゃん」。そして次の瞬間壁にめり込んでいるだろう。
とりあえず掃除や洗濯はしてあるみたいだが、残念な事にそれが本人がしたという確たる証拠が無い以上、信用も出来ないのだった。
足音荒く部屋へ向かう。
しかし、その後ドアを蹴散らして優雅に自分の趣味を満喫しているケロロをサンドバッグみたいに叩く必要は無くなった。
ケロロは縁側に座っていたのだった。微動だせず……というのは誤りだ。なんだか、揺らめいてる。
て事は。
そろりそろりと足音を殺して近寄る。
んでもって。
「わッッッッ!!!!」
耳(があると思われるような位置)で叫んだ。
「ふごほぉっ!?敵襲!!?敵襲でありますか!!?各自配置について厳戒態勢を怠るなぁ----------!!!!」
「寝惚けるな」
その頭にずび、と手刀を落とせば、我に返ったケロロ。
「おや夏美殿。どうしたでありますか?」
「いや、セリフ先取らないでよ。何、こんな所で昼寝……ってもう夕寝か。してんのよ」
壁の時計を見て、夏美が言う。
「いいい、いやいや我輩寝てないよ?ただちょっと星が見えたから故郷に思いを馳せていただけで」
なんだか寝ていた事を咎められるみたいに必死だ。それくらいなら別にどうにもしないのに、と思う。
「故郷って、まだ星見えないじゃない」
そろそろ陽に色が着こうかという時刻だ。星の瞬きはまだ見えない。
「いや、夜でも見えんのでありますよ。遠すぎる上、自身が発光している星でもないのでありますから。
でも、この位置真っ直ぐには、確かにあるであります」
ぴし、と一点を指す。そこには、ただ空が広がるだけなのだが。
夏美は、ふぅんと呟いて同じ方向を見る。驚かした時から、隣に腰掛けていた。
「皆元気でありますかなぁ……時折手紙は貰うでありますけど、やはり顔が見たいものであります」
「……帰りたいの?」
ふと、訊いてみる。なんだか、妙に緊張して言った。
「そうでありますなぁ……はやり年の瀬と夏の真ん中には親戚一同で顔を見せ合い、その無事を確認したいでありますし、先祖の供養も果たさなければ」
「前から思ってたんだけどさ、あんたら宇宙人じゃなくて地球のカエルの特別変異じゃない?」
「あぁ、みんなに会いたいなぁ……」
と、言って呑気にしか見えない双眸を、故郷のあるのだろう方向へと向ける。
眼で見えるのはこの空だけけど、ケロロの見ているものは、違うのだろう。
「…………
ねぇ、ケロロ」
呼んでみた。
「なんでありますか?」
視線を移すケロロ。
「………やっぱ、何でもない」
「? 変な夏美殿でありますな」
「変?変とか言うのはこの口かな?んん?」
「ひはい!ひはいではひはふほー!!!」
怒りながら微笑む夏美(すげぇ怖い)に頬をこれでもかと抓られたケロロ。
「あとちょっとしたら夕飯作るんだから、手伝ないなさいよ。あんたの好きなおかずにしてあげたから」
「ヒャッホゥ〜イ!☆夏美殿冴えてるゥ!」
パチン!と指を鳴らして、ケロロは喜んだ。思いっきり昭和のリアクションに、やっぱり逆輸入なんじゃないだろうか、とますます疑う夏美であった。
本当は、あの後、
ねぇ、ケロロ。
自分の星に帰った後でも、ココの事を思い出してくれる?
今みたいに、空を見上げて、同じように。
と、言おうとしたんだけど。
それはまるで別れの言葉みたいだから、今は言わない。
だから。
いつかきっと、言う事になるんだろう。
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