”僕の薔薇を受け取りにおいで”
花みたいに想いもいつか開けばいい
「-----爆君!!!」 いきなりの店内呼び出しに、爆はぎょ、となる。その声の主にも、だ。 ”あの国”に行く時は、出会わないように、最新の注意を払う……が、此処はその国とは対極に位置する国。 認めたくないが……油断した、のだ。 まさか来るとも思わなかったし。 ともかく、古き良き伝統が受け継がれるこの国で、相手は目立ちすぎる。そんな相手に呼ばれた自分もまた目立つ。 人の注目をむやみに浴びるのははっきり言って御免だ。 「爆君!爆君!!あぁ、会いたかった!!もうどれだけ会えなかったんだろう!数えると途中で寂しさに押しつぶされるからいつも止めちゃって詳しい日数は解らないけど、絶対長かった!それは間違いない!! でもね、爆君、僕はちゃぁぁんとその間ずっと君の事を」 ゴズ。 「……騒いだな。失礼」 迷惑代込みの代金を払い、爆は店を後にした。 空いてた椅子で黙らせた、雹を引き摺り。
「……………んー…… は!爆君!!」 「ここだ」 此処は何処だ、と言う前に自分の名前を出した雹に、呆れながら言う。 「わーい、僕の側に居てくれたの?」 「そうでないと、また貴様オレの名前叫びながら探すんだろう」 「うん」 「………………」 一体、どれだけそんな真似をしたのだろう…… 浮かんでしまった恐ろしい考えを、爆は慌てて消した。 過ぎた事は、もう戻らないのだから…… 「爆君?どうしたの、遠い目をして」 「別に」 遠い目をしたまま、爆は答えた。 そんな表情でも、やっぱり爆君は可愛いなぁ、とまた暴力沙汰は必須な事を雹は思う。 「……ここはいい所だね。街と自然がいい具合のバランスで」 上にも下にも、勿論何処までも横に続くパノラマ。 青々とした葉の色に、吹く風が緑色に思える。 「この世界に来た時は此処に来る」 「だったら、爆君のお気に入りの場所なんだ?」 「そう……だな」 爆はいつも通りを装っているつもりだが、隠せないものは隠せない。 「…………だって!貴様があんな風に騒ぐから!あそこにはもう居られんだろうが!!」 「爆君て、可愛いなぁvvv」 「言うな-----!!!」 顔を真っ赤にした爆から必殺拳が飛ぶ。それを受けながらも雹は幸せそうだ(変態め) 「だいたい貴様!何の用だ!」 「あ、そうそう」 鼻血を出したままむくっと起き上がる。不気味だ。 「渡すものがあってね……」 雹は少し後ろを向き、持ってきたそれを、爆の眼前に翳した。 「………薔薇?」 「うん、薔薇。綺麗に咲いてるでしょ?」 「……あぁ」 戸惑いながらも、爆は頷く。 確かに、出された薔薇は綺麗に咲いている。色や形もさる事ながら、生命の尊い息吹もなんだか感じられる。 「…………」 「それだけ」 他にはないのか、というニュアンスを漂わす爆の視線に、雹が答えた。 薔薇のブーケを抱え、状況が飲み込めない爆をそのままに、雹は続ける。 「僕が育てた薔薇が、とても綺麗に咲いてね。 どうしても爆君に見せたくなったんだ。 ………良かった。散る前に出会えて」 自分の再会を心から喜ぶ雹に、爆はなんだか避けていた事にちくりと罪悪感を覚える。 避けていた理由は、何も鬱陶しいからというだけの理由ではなかったが。 元より、そうそう滅多に会う事もない。 自分に雹が執着しているのを知っているから。 望んでいるのは、自分が側に居ること。 けど、どうやってもそれを叶える事は出来ない。 だったら……下手に期待はさせない。 「本当に、綺麗に咲いたんだ」 雹はそんな爆に気づいているのか、いないのか、一人で勝手に話を続ける。 「……植物ってさ、人の心に敏感なんだよね。 誰かを憎んでいる人が育てたら、色もなんだか濁るし。 僕はずっと、薔薇の赤は血の色だと思ってたよ」 え、と爆は持たされた薔薇を見る。 血だなんて、とんでもない。 こんな綺麗な色、装飾品としても立派に役目を果たすだろう。 「……爆君。 僕はどうやら、君や僕が思うより、ずっと前向きになっていたみたいだよ?」 にっこりとした雹の微笑みは、後ろの背景ととてもよく会った。 「だから、たまには、会いに、来て?」 「…………」 「ね?」 それだけ言うと、雹は立ち上がり、ついた草を払って帰る準備をした。 その背に降りかかる声。 「待て。こんな物はいらん」 「…………え」 ぼす、とやや乱暴に、自分の胸へと押し付けられる。 拒絶、された? 不安になる雹に、爆はそっぽ向いたまま言った。 「………オレは、咲いている所を見るがいい。こんな、一部分じゃなくて」 「……………」 それは………つまり…… あぁ、そうか。 今の自分だから、何も来るのをじっと待つ必要なんかないんだ。 「じゃぁ……家に招待するよ」 ブーケごと抱き締めて。
その髪に優しくキスをした。
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