愛しのバービーガール






”プラスティックの世界で戯れる”




 人間なんてろくなものではない
 今までのこの価値観はこれからずっと続いていく筈だった
 むしろ
 そうでなければならない筈だったのだが
 運命と言ってしまえばそれまでだが、ただそれに対して自分は感謝すべきか恨みべきかが決着つかない
 相手は極普通の人間の子供で、符の力を吸収してしまったのだから、”普通”と称するのは可笑しいのかもしれないが
 それでも、夢に向かって直向で、夜にはこんな風に無防備に寝てしまう
 ……”普通”であればまだ良かった
 こいつの魂は極上過ぎる
 それを食らって生きるのではない自分も、手に入れたいとすら願う
 ……そういう性質の妖怪達ならば、それは尚更だろう
 ”最悪”が足音を立てて近づいてくる
 触れたら、この肢体はこんなに温かくて優しいのに、それが自分の血に溺れて冷たくなってしまう未来の事
 そうはさせないと断言できる自分ではなかった
 力が欲しい
 けれどその為には離れなくてはいけない
 ……その間、身を誰に預けようか
 真っ先に浮かぶのは、天馬と出合った時に括った飛天夜叉王
 この中では、最も強い力を誇っているのだから、それが妥当だろう

 …………
 嫌だ

 軋む本音が主張する
 誰も近づけさせたくない
 自分で自分を護ってもらうのが一番いい
 しかし天馬にそれが出来るだろうか?
 無理だろう
 誰かが助かるのならば、命すら差し出してしまうから……

 でも、天馬
 僕は何より貴様に生きて欲しい

 自分で自分を護らせるには、まず疑う事を覚えて貰わないとならないだろう
 裏切られる事も知って欲しい
 最後に頼れるのは自分だけ
 ………そうだ
 例えば
 今、自分が
 天馬を殺そうとしたなら
 そうしたら、今まで”いいヤツ”だと信じ込んでいた相手に殺されかけたら
 少しは
 それとも、また、太陽みたいに微笑んで
 だったら仕方ないよな、とでも言って、受け入れてしまうんだろうか
 嫌だ嫌だ
 どうして貴様は思い通りになってくれない
 あぁ、もし自分に牙さえあれば
 この柔らかい身体なんか、あっという間に喰らい尽くしてしまって腹に閉じ込めて
 もう何者にも傷付けさせないように、出来るのに
 それとも攫ってしまって、閉じ込めて
 外にはもう出さないで
 自分が与える物だけで命を繋ぎとめて
 そんな風に人形みたいにしてしまえば、天馬は憤るか哀しい目しか見せてはくれなくなるのだろうけど
 それでも

 死んでしまうよりは遥かにマシなんだ

「………ん………」
 まるで生きているのを確認するみたいに、何度も頬を摩っていたせいか、その感触の為天馬が身じろぐ
 触っていた手を引っ込めて、さっきまでの自分を深い所に押し込んだ
「……どうかしたか」
 薄くぼんやりと目を開けて、綴じ様としない天馬にそう言った
 何もないからお前は寝ていろ、という意味だ
 最小限の覚醒をしている天馬は、夢現に呟いた
「……ミッチー……泣いてる………?」
 右手----自分の居る側の手が動く
 おそらくは、流しているのかもしれない涙を拭おうとした為だろうけど
「何を馬鹿な。僕が何に泣く事がある」
 その手をやんわり制したのは、再び寝るのを促すのもあったが
 本当に涙が出ているのかもしれない、と自分で思ったからだった
「………そー……だよな………」
 どうやら実際には涙は出てはいなかったようだ
 何故そんな風に思ってしまったのだろう、と訝る天馬も、それを解消させる事無く夢の世界へ堕ちて行く
 それを見て、帝月もまた夢へ沈んでしまいたかった
 こんな、いつ愛しい人を亡くすかもしれない現実は、忘れてしまって
 ………もしも、何処か遠く、2人だけでただ暮らせる世界があったら
 何を捨ててでも、手を引いて其処へ行ってしまえるのに
 其処へ行ったら、自分たちは抱き合っていればいい
 生きている事を、ただただ確認してればいい

 そんな場所は何処にも無いのはよく解っているから
 当初の通り、あの腹立たしい天狗に自分の留守中の天馬の護衛を頼もう

 こうやって煩う自分は、まるで人間のようだと
 僅かな自嘲を浮かべながら








ホントはね、寝ているてっちんにミッチーがちゅーをする筈だったんだけどね
……帝天馬を書き始めてはや1年……未だ何もありません………(ある意味凄いよ)
ちなみにマイ・パソは”みかてん”で”帝天馬”と変換できるように設定しました☆
いいだろう!!(無意味にえばったり)