シトリンとオニキスの睦言・番外編3





「え、え。えぇぇえぇぇ!?」
 ガコーンと無情に仕舞ったドアに、天馬はただ混乱する。
 此処に来たのは、そうだ。静流が部活で使うものを一緒に探して欲しいと頼まれて連れて来られたからだ。なのに、何故自分だけが此処に閉じ込められてしまうのか。
「ちょ、静流?」
 外に居るだろう、そしてドアを閉めた本人だろう静流に問いかける。
 鉄板の向うの静流は、悪びれずに言った。
『あんたらねー、傍で見て解りやっすい仲たがいなんてしてんじゃねーわよ。帝月の不機嫌オーラ、誰が浴びてるかって同じクラスのあたしなんだからね!って事でここでゆーっくり誤解を解きなさいねv』
 そんじゃーねーと明るく軽い声を残し、静流は去って行った。去ってしまった。
「………………」
 ここは校舎の裏の体育倉庫。使わなくなった物を入れているので、本当に倉庫だ。人は滅多にこなくて静流の言う通りに確かにゆっくり出来るだろうけど。
「やられたな。てっきりいつもの我侭だと思っていたんだが」
 帝月の声に大げさに肩が撥ねた。
「………ぅー」
「……天馬。そんな顔してないで、こっちに来い」
「そんな顔ってどんなんだよ。てか、別に行かなくてもいーじゃん……」
 いつも元気沢山、意気揚々と喋る天馬なのに、今は尻すぼみだ。つくづく、嘘のつけない性分だ。
「天馬」
 別に叱ったつもりでないのは、天馬も勿論承知だが、何だか怒られてるみたいだ。
「何を、拗ねている」
「…………」
 きゅ、と唇を噛み締め、俯いてしまった。
 実は、おおそよの見当はついていたりする。
「この前、貰ったラブレターの返事をしに行ったからか………?」
「っ、」
 やっぱり、と帝月は心で呟く。
 しかし、あれは。
「……ミッチーは、悪くねぇもん。行けって言ったの、オレなんだから」
 天馬が言う。ぽつりぽつりと。
「でもさ、ミッチーが行った後、オレ待っててさ。そしたらミッチーに会えない時間が出来ちゃって、何か………」
「………」
「だから、ミッチーは悪ねぇの。オレも、もう少し経てば、今は変だけどいつも通り-----っ!?」
 ぐい、と腕を引かれ、帝月の胸に抱きとめられる。
「な、なに!」
「俺もお前も悪くない。が、触れさせなかったのは、それはお前の落ち度だ」
「ミッチー?」
 何だか身の危険を感じて逃れようとしたが、腕も身体もびくともしない。出会った時は、まだ解せたのに。
 いつのまにか、こんなに逞しくなって、さらに端整な顔つきになった。選ばれた事が、まだ時々、夢みたいだと思ってしまう。
「ミッチー……?」
 困ったように、恐る恐る見上げれば、帝月とまともに目がかち合う。
(う、あ………)
 帝月もメデューサみたいに視線に魔力があるんじゃないか、と思う。かぁーっと身体が熱くなって、動けなくなる。
「そういうのは言って貰った方が嬉しいんだと、まだ解らないか?」
「う、」
 いや、そんな事は知っている。でも、素直にそう言ってしまうと。
「僕が、どんなにお前を好きか……何度でも教えてやる」
 やっぱりこうなったぁぁぁ〜〜と半泣きになる天馬。
「いい!もう治ったから!!」
「明日が祝日で良かったな。日曜の分も取り返せる」
「ミッチー!」
 ぎゅ、と密着した状態なのに、間に滑り込んだ帝月の手は器用にボタンを外していく。
「こ、ここですんの!?」
 ぎょ、と青ざめながら天馬は慌てる。
「少し、な」
「す、少しって……あっ!」
 見れば、胸元が開いてしまっている。膨らみを楽しむかのように、顔を埋めた帝月の唇が滑る。
「や、ぅ……!誰か、来るって……!!」
「誰も来ない」
「そんな、わ、けっ……!!」
 無いだろう、という声が散っていく。
 ちょっと触れて無かっただけなのに、乾いたスポンジに水が染み入るように感じてしまう。それはそうだろう。拒んだけど、本当は欲しかったのだから。
「んん………!」
 ブラジャーをずらされ、ぷっくりした突起を軽く食まれる。
 下肢も反応しているのが解る。湿った感覚が、する。
「ミ、ミッチー、やだぁ……」
 ひく、と喉を震わせて言う。
 帝月は顔を上げ、子供をあやす時のようなものとは程遠い仕草で髪を撫でる。
「ここまで来たら、もう止められないだろう?」
「う、くっ………」
「そんな顔で、外に出る訳にはいかないからな……」
 蕩けた双眸、熱に浮かされたような表情。水気を含んだような唇も、どれも男を誘うもの。天馬の場合、娼婦のようなあてつけがましい作り物ではない分、より一層魅了されてしまうだろう。
 本当は、こうやってずっと抱いていて、他の誰かを好きになる可能性を潰してしまいたいのだが。
「ふ、ぁ……あぁ……!」
「っ、キツいか……?」
 いつもとは違い、横にさせてじっくり慣らす事が出来ない。自身を埋め込めた時、傷ついて無いとは思うが。
「ん、………平気、」
「……そうか」
 薄っすら汗の滲んだ額に、労わるように何度も何度もキスをする。
「動くぞ」
 耳元で言うと、それに応えるようにしがみ付く手に力を込めた。
「んぁ……っ、きゃ、あっ!!」
 不安定な姿勢で、いつもとは違う箇所に当たる。初めて受ける刺激に身体が戦く。
「あぁっ……!あうぅ…っ」
「痛い、か?」
 縋り付くような天馬の様子に、そんな事を思う。
「ちが、声、……ん、おっきくなっちゃ……ふぁ、」
 だったらこうすればいい、と唇を重ねる帝月。声を塞ぐ為だとしても、僅かな動きにでも離すまいと顔の角度を変える天馬の仕草が、何とも愛しい。
「ん、くっ……んん、んっ……んんん---------!!!」
「っ、………、」
 耳の遠くで、学校のチャイムの音と、天馬の嬌声を、聞いた。




 さすがに埃っぽい……いや、埃まみれと言った方が余程いい場所でしたせいか、天馬はジャージに着替えた。今日、体育があったのが幸いした。
「…………」
 天馬は、剥れている。正真正銘、剥れている。これ以上ないというくらい、剥れている。
「……ミッチーのばか!何もあんな所でしなくてもいーじゃんか!!」
 そう言う天馬の目元は赤い。
「仕方がないじゃないか。お預け食らっていた所に、密室に2人きり、なんてシチュエーションになって、我慢出来る訳が無いだろう」
 動じたいい訳でもなく、本心で語っているから性質が悪い。
 一見涼やかで冷静な印象の癖に、もっている感情はとても熱い。それは、ただ1人に対してのみ、だが。
「もう、絶対ヤだかんな!!ミッチーの家じゃないとやだ!!」
「……そうか」
 そうと思って言ってないせいか、言われたこっちが照れる。
 さて。明日は祝日。学校は休みだ。
 休日は、大抵帝月の家に来る天馬だが、明日、来てくれるだろうか。
 堪え切れなかったものの、やっぱりあんなムードも何もない所で嗾けたのは浅はかだったか、と少し後悔した。天馬は、雰囲気とかを大事にするタイプだから。
「あ、そうだミッチー。今夜のご飯、何がいい?」
「…………」
「ミッチー?」
 そんなに思いっきり怒っちゃったかな、と不安になったような天馬を、堪らず抱き締める。
「わ、」
「お前だけだ」
 言葉にするのももどかしい。
「僕には……お前だけだ」
「………ん、」
 語彙の少ないセリフの、自分の気持ちを天馬はちゃんと受け取ってくれる。
 本当に、自分はこの人しか居ないのだ、と思う。
「あらら、こんなに仲良しになっちゃって」
 その声に天馬が真っ赤になって慌てて離れる。
 帝月が舌打ちし、相手を確認すれば静流だった。
「あー!静流!ミッチーの鞄に鍵入れたんならそう言えよ!!」
「言ったら意味ないじゃない」
 しれっと言う。そーじゃねー!と怒る天馬を今度何か奢ってあげるわよで交わす静流。治まってしまう天馬。
 仲のいい姉妹喧嘩みたいな光景だ。
 でも。
「天馬、行くぞ」
「あ、うん」
 じゃあな、静流!と手を振って帝月の元へ行く天馬。
 それをやれやれ、と言った面持ちで見届ける静流。
「あーんな独占欲たっぷりな男、ふつーの相手だったら1ヶ月も持たないわよ」
 いくら顔がよくてもね、と付け足す。
 それに、帝月がこんなにも人気があるのは。
 天馬が、彼の本質を和らげているせいなのだから。
 不安になって然るべきなのは、むしろ帝月の方なのに。
(それとも、そんな事がわかんないくらい、好きなのかしら?)
 帝月も天馬も、お互いだけなのだろう。運命というのも、強ちただの幻影だとは思えなくなる。
 もう一度、2人を見る。
 真反対の2人は、寄り添って1つになれてるような気がした。




<END>





リクエストだったです。うーんあんまり閉じ込められた感がしないでもない!!
やっぱえっちは彼氏の家でしょ!時間帯は……まぁ、早い内からでも。
この時になればミッチーもいい体格になっているので、抱っこも何でもオッケーです!
良かったね、ミッチー!!(本編だとまだ精一杯)