シトリンとオニキスの睦言27





 唇に柔らかいものを感じる。夢現に。
 遠のいてしまったので、惜しいな、と悔やんでいれば、また触れた唇。
 ゆっくりを目を開ける。
「あ、………」
 小さな、驚いた声がした。
「ごめん、起こした?」
 ごく至近距離に居る天馬が、詫びるように言う。
「いや……。起きたのなら、その時起こしてくればよかったものを」
「だって、」
 きゅ、と胸元の布の合わさった部分を握って。
「オレはそのまま寝ちゃうけど、ミッチーは色々しててくれてるだろ?起こしたら悪いかなって」
 自分は情事の後、そのまま沈むように寝てしまっているが、帝月は違う。
 それは、さっぱりした身体や替えられた布団や寝巻きが教えてくれる。
 そう言う天馬に、帝月はふぅ、と小さく溜息を吐いた。小馬鹿にした仕草に、少しむ、とする。
「睡眠を邪魔されたのと、お前からのキスを気づかないでいるのと。僕に対して、どちらが悪いと思う?」
「っ、」
 ぼひ、と天馬が赤くなる。セリフ自体のと、知られていた事に。
「で、」
「?」
「起きたら、もうしてくれないのか?」
「起きたらって……ミッチーしたの知ってんなら、もういーじゃん!!」
 もう知らない、と言わんばかりにそっぽを向く天馬。それを自分へ引き寄せて。
「……してはくれないのか?」
「…………」
 昨夜をそのまま引きずった、熱っぽい声で言われると、最中を思い出してしまい、何だか抵抗出来ない。
 少しの間を置いて、ゆっくりと天馬が帝月と顔を合わせる。そして重なる唇。
「……もっと、だ」
 触れただけで去ろうとした天馬に、言う。時間的にも。それ以上にも。
 僅かにふるりと髪を震わせ、もう一度、帝月の望むように深いキスをする。おずおずと差し込まれた舌を、すぐには絡め取らずに、どう動くのかを見てみる。
「んっ、………ん、」
 位置として、天馬が下に居るので溢れた唾液が顎を伝う。
「は、……ミッチー、」
「どうした?」
「もう、……これ以上したら、」
 またしたくなる、と潤んだ眼で言われ、それでそうか、と引き下がれるヤツが果たしているだろうか?
「構わないだろう。すればいい」
「でも、んっ………」
 天馬を膝に横抱きにし、首筋に跡を付けるのと同時に服を肌蹴させる。
「ふぁ、あ、あっ、ミッチー……ッ!!」
 それが行為を嫌ってでの抵抗ではないので、却って煽られるだけだった。




 しゃら、と流れる音を立てて、指の間を帝月の髪が零れる。
「あぁっ!はぁっ、………あぁぁん!」
 くちゅ、と熟れた襞を分け入って、帝月の舌が中に入ってくる。繊細な指でもそうだが、直接中を弄られると、耐え難い感覚が波のように次々と襲う。
「あっ、あっ……はぁ、ぅん!」
 軽い絶頂を何度か向かえ、大きな波が沸き起こってきたのを感じる。
「やぅ……!もぉ、イッちゃう……!!」
「………」
 髪を掴む手も、すぐ側の内腿も小刻みに震えてる。
 あと一息という所で、帝月は一旦天馬から離れた。
「……っ、」
 もう、すぐそこまで来ている絶頂は、愛撫の手が離れても引くことは無い。燻ったままのそれに、カタカタと身震いする天馬の頬を、優しく撫でてから、舌で涙の跡をなぞる。それも感じてしまうのか、目を固く綴じる天馬。
「……いくぞ、」
「ん、………」
 あぁ、来るんだ、と熱い箇所が疼く。
 ひたり、と帝月のが当たる。馴染ませるように数回擦った後、様子を伺いながら入って来た。
「んん、ぅ……!……っあ-----------ッツ!!!」
「っ!」
 ある程度入れてから、ぐ、と最後まで挿入った衝撃で、天馬が達した。
「ふぁ……あ……!」
「……イッた、な」
 恍惚したような表情を覗き込み、帝月が言う。
「あっ……待っ、て……まだ、動いちゃ………っつ!きゃぁんっ!」
 余韻の引かない内から揺さぶられ、繋がっている所だけでなく、頭の中まで掻き混ぜられているような。
 何も考えられなくなって、帝月だけが残る。
「ひ、んっ、あぅ……あっ!あぁ!あー!………ぁっ!!」
「は、………天、馬」
「んくぅ……!」
 帝月が身を屈め、吐息が重なった。




 温泉って、お湯の準備をしなくてもいい所がいいよな、と浸かりながら思う天馬。帝月に寄りかかりながら。
「……立てるか?」
「ん。ちょっと膝、がくがくするけど」
 昨日みたいに立てない事は無い。そうか、と帝月は安心したように、申し訳なさそうに言う。
「ごめん、って言ったら怒るからな!」
 釘を刺すように言えば、解っていると返事が返る。
 帝月だって、ちゃんと解っているのだ。天馬だって望む事なのだから、それに対しての謝罪は不要以外の何物でもない。
 それにしても、もうちょっとこう、加減と言うか、限度と言うか。そういうのを、持ってしたいのだが。
 つい夢中になって、沢山鳴かせてしまう。天馬の声が掠れ気味なのは、起き抜けだからだけではない。
 しかし。
 最初の頃はそんな事は無かった筈だ。少なくとも、天馬の足腰が立たなくなる程には。
 が、自分の基準としては、変えたつもりは無くて。
 と、いう事は。もしや。
(……体力がついたか?)
 天馬を支えていない腕を見詰める。少しは筋肉が付いた、だろうか?
 早く体力と腕力を見に付けたい。自分を受け入れた後、脱力している天馬を運べるように。天馬の楽な姿勢で。
 と、何時までも入ってはいられない。のぼせてしまう。
「あがるぞ」
「うん」
 今はこんな風に、天馬を立ち上がらせなければならない。無理をさせているな、とふらつく足元を見て思う。
 柔らかいタオルの感触がくすぐったいのか、天馬が綻ぶように笑う。
「自分で拭けるって、ミッチー」
「僕がしたいんだ」
 強くはならないよう、細心の注意を配りながらタオルで拭く。水を弾く肌。吹き終えた後、仕上げみたいに、額にキスを1つした。
「そう言えば……何を思ってキスしてたんだ?」
「え。」
「いや、今まで無かった事でもあるし……別に意味が無いのならそれで構わんのだが」
「…………」
 ぽ、と湯上りのせいでなく顔を赤らめて。
「んだってさ、この部屋、窓から太陽の光が入ってくるからさ。……ミッチー、きらきらしてるみたいで、スゲー綺麗だったんだもん」
 それはもう完成された絵画のように。帝月の漆黒の髪は、陽の光を弾き、光を纏っているみたいだった。色素の薄い自分のだと、こうはならない。
「見てたら、ドキドキしてきて、
「キスしたくなった、と」
 こくん、と続いた帝月のセリフに頷く。
「…………」
 まだ、天馬も自分も衣服を纏っていなくて。
 手を伸ばせば届く位置の天馬の肌は、火照っていて。
 時間は………
「ミッチー、服」
 粗方水分は取れた。天馬が言うが、帝月は。
「ミッチー?」
「……まだ、要らん」
「………え?ミッチー?」
 戸惑う天馬に、濃厚なキスをする。頭の芯まで痺れさせるような。
「……ミ、ッチー?」
 どう考えても、始めの合図のようなそれ。
 ついさっき、風呂から上がったばかりなのに。
「ミッチー?あ、ちょ、嘘………っ!」
 そうして、また帝月に翻弄される。




 朝食の場に来た2人は、どう見ても湯上りだった。
「…………。朝風呂たぁ、風流だなぁ?」
 そんな2人を見て、飛天が言う。
「う、うん!庭の木とか見れて、いいぜ!」
 誤魔化す為に、飛天に必死に合わせる天馬。実は、とっくにばれているというのに。何だか帝月は居た堪れなかった。
(……体力はとりあえず置いておいて……自制心をもっと付けるか……)
 天馬のために自己改善に余念の尽きない帝月であった。




<END>





またヤッてるだけ……(頭抱えて)
次は皆でふもとの町にお出かけの予定です。
さすがに宿泊中、ずっとえっちしてる訳には。
最初の頃は1回だけだったんですが、最近の話では2回してるんです。ミッチーの体力が上がってるという証明です(笑)