先日新たな客人を迎えた帝月邸だが、翌日になるとさらに千客万来となった。
(うわぁ………)
と、天馬が感嘆の溜息を漏らしてしまう程、その人は端麗だった。薄い色彩や鋭い眼差しが冷たい印象しか与えないが、それでもその美しさが薄れる訳でも無く。
「……何者ですか、貴方は?」
「えっ?」
あんまり静かに言うものだから、すぐに自分へ向けてとは気づけなかった。
「女中……にしてはあまりに幼いですね。しかも、礼儀もなっていない」
もしや自分は貶されているのか?とおぼろげに自覚し始めた時。
「わ、」
ぐい、と帝月に腕を引かれ、抱き寄せられた。
「……やはり貴様も来たか」
「当然でしょう」
挨拶とも言えないセリフのやりとり。
天馬はそのまま腕を引かれ、帝月の部屋に来た。
「お客さん一杯だなー」
「皆、父親に会いに来てるんだ」
自分とは無関係を主張する帝月。
「そっか。ミッチーのお父さんって人気者なんだな」
「…………」
そうなるんだろうか?と一瞬思考が固まる帝月である。
「天馬、荷物を纏めておけ」
「へ?何で?」
「今夜、抜け出す。どうせ酒が入って訳解らなくなるだろうからな」
夜になり、帝月の言ったセリフに頷けるような状況になった。
八雲と玉藻。そしてそれらの側近達が集まり、にわか宴会となった。確かにこの様子なら、1人2人抜けた所で誰も気づけはしないだろう。
天馬の荷物は少ない。大きなスポーツバッグで余裕があるくらいだ。
「いいか」
「うん」
一方の帝月も身軽だった。
2人は足音を消し、こっそり門を出る。側には車があり、その傍らに火生が立っていた。
「火生って、運転出来んの?」
「失礼だなー、お前は。さ、坊ちゃん行きましょうか」
火生が車のドアを開く。それに乗り込む2人。
そして車は走り出す。両親が滅多に家に居ない天馬は、「車に乗る」というシチュエーションが珍しい。ましてや夜中で、何だかわくわくしてしまう。
それに。
「しっかしこんな夜中に出かけるなんて、」
運転している火生が言う。
「まるで駆け落ちしてるみたいッスねー。ぼっちゃ、ごッ!!」
「………大人しく運転しろ」
顔を赤くした帝月が火生の後頭部をどつく。天馬の顔も真っ赤だった。
「ん…………」
ぱち、と眼を覚ます。心躍らせて真夜中のドライブを楽しんでいたが、それでも眠気には勝てなかった。
「起こしたか」
「んー…………?」
帝月が、とても近くに居た。肩と膝裏に手を差し込んでいて、どうやら運んでくれようとしてくれたらしい。
「着いたんか?」
「あぁ」
と、外に出てみれば、そう、そこは山奥で。
しかし、目の前には帝月の家によく似た、けれどどこか違う印象を受けるのは自然に馴染んでいるからだろうか。
「此処には、温泉が着いているんだ」
「えッ!?マジで!?」
何だか凄い事を言う帝月。
「だから此処に別荘を建てたんだ」
「へー…………」
世の中凄い人が居るもんだ、と感心する。
「中に入るぞ」
「うん。あ。火生は?」
「もう行った。夜通しで運転したからな。今頃寝ているだろう」
「そっか」
途中寝てしまった自分と違い、火生は運転しっぱなしだったのだ。起きたら、礼とか言わなくちゃな、と思う。
それはそうと。
(寝ちゃってた、て事は)
帝月に寄りかかって寝ていたんだろう。多分。
今更、と思うかもしれないけど、やっぱり恥ずかしくて、頬を紅潮させてしまう天馬だった。
門を潜った天馬は、いきなり壁にぶつかった。
「わっ?」
しかし、それは壁ではなく、大きな人間だった。
天馬は、その顔を見るために首を真っ直ぐ上に向けなければならなかったほど、相手は大きい。
「飛天」
と、帝月が相手の名を呼ぶ。
「世話になるぞ。
別宅に泊まる。お前は勝手にしていろ」
「今年は1人じゃねーのか」
火生は頭数に入っていないらしい。
「まあな」
詳しく説明してやるつもりは無い、と素っ気無く答える帝月。
「え、えぇと」
天馬は姿勢を正し、
「お、お世話になりま、おわぁっ!」
挨拶半ばに腕を引かれ、こけそうになる天馬。
「何すんだよ、ミッチー!!」
「挨拶なんてしなくてもいい。居候だからな」
「あ、そうなんだ。……って、そうじゃねーだろ!」
ぎゃおぎゃおと文句を言う天馬を、連れて行く帝月。
(……暫く見ねぇ内に随分変わったもんだ)
ぽりぽりと頭を掻く飛天。まさか、帝月が恋人連れてやって来る日を迎えるなんて。
説明は全く無かったが、多分……いや、絶対そうだ。きっと、そんな言葉で括れるだけの相手でもないだろうけど。
帝月の、飛天に対する態度に憮然としていた天馬だが、初めて訪れる物にはしゃいでそんな怒りはあっさり消えうせたらしい。
「わー、すっげー!」
帝月の家とは違う庭。樹が沢山生えていて、塀の向こう側と繋がっている感じだ。
点々と置かれている石畳を軽いステップで越えて、玄関に到着する。
横には本宅がある。それよりは小さい別宅であろうが、それでも十分立派なものだった。
家の後ろに、白い煙がある。あれが温泉だろう。
部屋に着くとバックを置き、外の風景を覗く。
窓からの景色は山を四角に切り取ったみたいだ。
「気に入ったか?」
「うん!」
もちろん、と言う意味を含んで相槌をする。後ろを見れば、帝月がとても近くに居た。
「………、ん」
何か用だろうか、と言い出す前にキスをされた。
ゆっくり、唇で唇をなぞるように。そしてぴったりと重なるように。
角度をあわせる為に顎の裏に添えられた指に、ぴくんと反応する。
「ふぅ………」
ゆっくりと、帝月に促されるまま床に座る。そして帝月と眼が合う。
(あ、)
眼を細め、口角を吊り上げるような笑み。どこか意地悪い妖艶なもの。
こういう笑い方を帝月がする時と言えば。
「ミ、ミッチー!!」
すぐさま手が衣服を肌蹴させる動きをする。天馬は、慌てた。
「嫌か」
「や、じゃないけど……っ!もっとこの家、見てみてぇし……」
なによりこんな朝っぱらからするなんて。
「悪いが、」
と、帝月が言う。
「今は……僕に付き合ってくれないか」
「え、や、ぅ………っ」
する、と服の隙間から手が潜り、柔らかい胸に直接触れる。
「ん、ん………あっ!」
首にキスをされ、声が上擦った。
(どうしよう………)
抵抗、出来ない。
それどころか、いつも以上に感じてしまい、足の付け根に滑ったものを感じる。
「………ッツ!!」
それが解っている天馬が、身体が僅かにずれる度、音がしないか気が気でない。
「ミ、ミッチー……!あぁっ!!」
ちゅぅ、と胸の先端を口に含まれ、身体が撥ねる。
「あ、あ……ッ!だめ、ミッチィー………!」
「……何がだめ、なんだ?」
「ふう…っ……」
帝月のセリフにすら、愛撫されてるような錯覚。
本当に、今日の自分は可笑しい。沢山感じてしまって、それ以上を期待している。
いつもは嬌声を我慢して引き締める口は、強請る言葉も抑えている。
「ふぁ、あぁんっ!!」
上へ刺激は事足りたと思ったのか、指先は奥まった場所にゆっくり差し込まれた。
その時、その指がぴく、とした。溢れている量を感じ取ったのだろうか。かぁっと身体の奥から熱くなる。
でも、もっと帝月に知って欲しい。自分が感じてるんだという事。
もっと欲しがっているのだという事。
「あ、ぅ……ミッチー……!」
「……どうした?」
きゅ、と自分の服を掴む天馬に尋ねる。
「も、いいから………」
帝月は一瞬拒まれたのだと思った。
しかし。
「それ、いい、から……もう、ミッチーが欲しいよぉ………」
蕩けてそうに甘く熱くそういい、受け入れる時のように足を広げる。
「………、」
「ミッチー………」
こんな事を言ったらはしたなくて厭らしいヤツだと思われるかもしれないが、帝月が欲しくて欲しくて堪らなかった。
自分が黙り込んでいると、段々と天馬の表情に影がさしていくのが解った。
帝月は求めれくれたのが嬉しいと告げ、自分を欲している天馬に覆いかぶさった。
<END>
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