何をきっかけとして眠りから覚めたのかは定かではないが、とにかく爆は目を覚ました。
時刻は、朝をとうに過ぎている。
別に、爆は寝坊な性質ではない。其処には明白な理由があった。
「……………」
ゆっくり上半身を起こした爆の目が蕩けているようなのは、寝起きだからなのか昨夜を引きずっているからなのか。
隣を見て、雹が居ないのを確認する。
別に、珍しい事じゃない。ある意味自由業の雹は、世間の休日に仕事をしなければならない事は往々にあるし、こうして残される事も初めてじゃない。
でもやっぱり少し寂しい。平常なら、起きるのを間近で待っていて、目が覚めるや否やキスを落としてくる。
それを思い出し、また期待しているような自分に、爆は1人赤面した。
と、いつまでもベットで悶々としていられない。ちょっと体がだるいけど、動けない程でもないし。
そう、今日は爆が楽しみにしている本の新刊が発売されるのだ。
一ヶ月間になると、もう数を数えて待っていた。カレンダーに印をつけてカウントダウンしたい所だが、雹に馬鹿にされる……というか、可愛い!と悶えられそうなので止めて置いた。
早く行こう。すぐ行こう。某訳書のファンタジー物程人気でも有名でもない本なのだが、一刻も早く手に入れて、その結末を見届けたいのだ。
此処は、雹の部屋。ついでに着ているガウンも雹のもので、つい香る雹の匂いに赤面しながら自分の部屋に行く。そして、クローゼットを開ける。
と。
「……………」
爆はしばし固まった。
そして、落ち着かせた仕草で一旦閉め、そしてまた開けた。一瞬夢じゃないかと思ったのだが……その行動で、これは現実だと思い知った。
(う、う、嘘だろぉ〜〜〜〜〜!!!)
爆はサイズのかなり大きいガウンを着たまま、その場にへたり込んだ。
クローゼットを開けると、なんと。
そこには、一着も服が無かったのだ。
は、と気づいて下着を閉まっている引き出しを開ける。そこも、やはり空だった。
「……………」
何故、と原因を考える前に、とにかく爆は衣類を探した。それに代わりそうなものを。しかし、ご丁寧にパッチワーク用の布さえ無かった。
それでも爆は探し----そして、見つけた。
ベットの上に、ある。
ワンピースが。
肩の部分を摘み上げ、目の前に翳してみる。白い、清楚な感じのワンピースだ。余計なフリルがなくて、趣味がいい。
爆のでは無い。
そして、泥棒でもない。
これは、雹の仕業だ。ヤツ以外考えられない。
何故なら、雹にはそうする動機があるのだ。
常々雹は爆に言っている。スカートを履いて、ブラジャーも着けて、と。それが世間の風刺に合わせろという話なら、爆は自分の信念を説くと話せばいいのだ。でも、雹は違う。雹は、ただそれを着けた自分を見たいだけなのだ。
だから、いくら言っても「見たいから」と切り替えされてしまうのだ。
昨日もそうだった。スカート穿いてよ、嫌だ、と堂々巡りをしていて、そしてその隙を付かれて口付けされてしまい----雪崩れ込ませてしまったのだ。こんな事になるなら、素直に穿いてやればよかったと思いかけた自分を叱咤したのだ。
ともあれ、そんな風に雹がやたら固執しているのは十分承知していた----が、認識が甘かった。
こんな強攻策に出るなんて………
それも、今日、この日だ。他の日なら、悔しいが部屋の中に留まっていて、帰った雹を殴ったり蹴ったりすればいいのだ。当然、するつもりだが、今日は。
繰り返し言うが、待ちに待った作品の新刊の発売日なのだ。今すぐにでも本屋に駆け込みたいくらい。
でも、服が無い。目の前のこれを覗いて。
「…………」
爆は何だか泣きたくなった。こんな情けない理由で窮地に立っている自分に。
これを着るのは嫌だ。雹に手の上で転がされているようで、とても気に食わない。
でも、本が。
天秤にかけられる。プライドと、本と。
「……………」
最後の抵抗に、涙を流すのは何とか堪えた。
紐を解いたガウンが、下に落ちる。
(な、な、な、なんだコレ--------!!)
覚悟を決めた颯爽、爆はまた涙眼になった。
そこには下着も揃えられていたのだが、ブラジャーは無視出来るとして。
これは。紐で締めるパンツだなんて。
(あいつ……帰ったら絶対絶対絶対殴る!!!)
怒りに燃えながら、爆は決意を固める。
すん、と少し鼻を鳴らしながら、身につけていく。何だか、服を着ているだけなのに、ドキドキする。それも、雹に脱がされている時のように。
「…………」
一通り身に着け、鏡で皺などを確認する。大丈夫のようだ、と判断をつけたとき。
「あ-----!!やっぱり可愛いな-------!!!」
なんて声が聴こえ。抱き締められ。
爆の頭は真っ白になった。
当然、今自分を背後から抱き締めているのは雹だ。
雹なのだ。
「………離せっ……離せ離せ!離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
状況が把握できるようになると、爆は抵抗した。それはもう必死に。最初にされた時以上かもしれない。
「離せっ!馬鹿!アホ!!」
折角蹴ってやるとあれだけ決めていたのに、後ろに立たれたのでは出来やしない。じわ、とまた涙が浮かぶ。
そんな爆に、雹は。
「結果として着てくれた訳だけど、複雑だなぁ〜。爆くんは、僕の為には着てくれないのに、本の為には着るんだね」
「わ、ぁ……!」
ひょい、と抵抗し続けていたのに、容易く横抱きにされ。
ベットに。
「!!!!」
そのまま、わさわさと起き上がるのもそこそこにベットの上を移動しようとしたのだが、雹に上から抱え込まれるように動きを封じられる。
「やめろ、離せ---------!!!」
何がある訳でもないけど、前へと手を伸ばす。
「やだ。やめないし、離さないし。もうここまできたら爆くんも楽しもうよ」
爆にとっては実に勝手な言い分を述べながら、スカートの中に手を居れる。
太腿を撫でた手に、爆がぎくりと身を戦かせる。
「〜〜〜っ!!」
じたばたと、それでも暴れてみるが。
「今日は紐だから、すぐ解けちゃうね〜」
しゅ、と紐が肌に擦れる。そして、何も無くなった。
(あ………)
「ね?」
「…………っ!!」
ご丁寧に、雹は剥ぎ取った物を爆の前に掲げてくれた。
それで、ついに爆の羞恥が限界を超える。
「………っく、ふ……ふぇ……っう、ぅ〜〜〜〜っ………」
あ、しまった、と雹の顔が強張る。
(いぢめ過ぎて泣かせちゃった……)
爆の反応が面白くて可愛くて、つい、と言ってしまえばそれまでだ。
爆は珍しくしゃくりあげ、シーツに顔を埋めて泣いてる。
「爆くん………」
「っ!………」
触るな、と近づいた手を、首を激しく振って拒絶する。これはさっきの抵抗より厄介だ、と思う。
「爆くん。ね、爆くん」
「……っく、ひっ……く………」
脇の下に腕を通して、ゆっくり抱き上げる。ぼろぼろと大きい雫が眼から零れている。それを、舌で丁寧に掬ってやって、落ち着かせるために何度も優しいキスを繰り返した。
「ごめんね。ちょっとやり過ぎだね。嫌いじゃないよ、嫌いでいぢめてる訳じゃないからね」
「…………」
辛抱強く続く宥めるキスに、爆もだんだん落ち着いてきたようだった。雹もほっとする。
で、改めて横に倒した。久しぶりにしゃくり上げる程に泣いたせいか、少し放心状態にあるみたいだ。あまり抵抗が無い。
それはそうと。
「爆くん……もしかして、ブラしてない?」
胸を弄りながら、雹が眉を顰めて言う。
「ちゃんと用意したのに……」
「ふ、」
わずかな膨らみを確認するよう、ゆっくり揉みしだく。
「ねぇ、このまま外に出るつもりだったの?」
「あ、ぅ………んんっ」
服の上からぷっくりとしてきた突起を摘まれ、片方は口に含んだ。腰から背筋にかけてぞくんとした感覚が走るが、布越しで、じれったい。
「可愛い」
「んんっ……!」
歯を立てられ、きゅ、と身を竦ませる。
「は、ふ……ぅ、」
顔を横に向けた時、また涙が零れたが、先ほどとそれは意味を違えているのを、雹はきちんと知っている。
爆くんから求めて欲しいな、と布越しのじれったい愛撫を繰り返す。下に敷いている爆の足が、もどかしげに動く。
「……ひょ、ぅ」
蚊の鳴くような小さい声。自分の名前を呼んでくれただけで、由としようか。
肩の部分をずらす。仄かに色づいた突起がなんとも愛らしい。
「ぁ………」
自分の視界に露になった胸を見てしまい、かぁ、と顔が赤くなり、眼が潤む。
「かあいいなーv」
ご機嫌な声を漏らし、嬉々としながら直の感触を愉しむ。
「あ、あっ……はぁっん!」
胸の間に跡を残す緩やかなものかと思えば、ふいに突起に触れ、与えられる感覚に翻弄されっぱなしだ。こうなっては、もう自分にはどうにも出来ない。されるがまま、雹の気の済むままにされるだけだ。
それでも、本気で嫌だと拒めないのは。
なんだかんだで、愛されてしている事だと解っているからだろう。
「んっ……!?」
いきなり、足がすーすーした。
それはスカートが捲り上げられたからで、そして自分は先ほど脱がされているというのを思い出す。
曝け出している。
隠そうとする前に、雹が足の間に指を伸ばし、十分潤っている箇所に指を滑らす。
「ひゃ、あん!」
吃驚したような、甲高い声がした。
「ひょぅ、や、やめ……んんッツ!」
爆の抗議を気にするでもなく、指をゆっくり埋め込んでいく。入っていく感覚に、肌がざわりとする。
「……大分、すんなり入るようになったね……」
何だか切羽詰ったような、雹の声。うっすら汗もかいているようだ。さっきまで普通だったのに、なんで今そうなってるんだろうと、爆には解らない。
(これは、もうすぐかな……?)
以前は1本入れるのも痛いと言っていて、1回舌でイかせてあげなければとても受け付けなかった。のに。今は胸への愛撫だけですんなり入ってくれる。順応している。
すぐにでも自身を挿れてしまいたい衝動に駆られるが、ぐっと堪える。なんとか受け入れない事も無いだろうけど、もっとゆっくり、じっくり慣らしてやって、爆の方にもちゃんと教えないと。猛る欲望のまま事を進めても、それは単なる暴力だから。
(僕は、爆くんが好きなんだ)
うっかり血迷いそうになると、この事を思い出す。と、す、と乱暴な感情が引いてく。それを実感すると、本当に好きなんだなぁ、と自分に自分で惚気てみるのだった。
「あ、あぅ、……ん、く、」
指を出し入れしているだけなので、達せれるような快楽はない。が、内部を弄られて、どうしようも無い声がひっきりなしに上がっていた。
(今日は、もうちょっと)
進んでみようかな、と。
雹は身を屈め、下の方に移動する。膝と膝を合わせている足を分け入って、自分の指を飲み込んでいる箇所を露にした。
「あっ!?ひょ、ぉ!?」
自分でもよく解らない部分を、晒している。
そう思った途端、体が熱くなり、じゅんと潤いが増した。指との僅かな隙間から零れるのを見て、雹はくすりと笑う。
(色々知っちゃったね……)
教えたのは自分。当然、手放したりはしない。
「あっ、あぁっ!?」
く、と片方の指で襞を広げる。爆が脅えたような嬌声をした。
「雹、やだ、何して-----っ!!」
もう1本、何とか受け入れてもらいたい所なのだが。やはり、というかきつい。それでも、全く受けつけないほどでもなかった。指先は僅かに入っている。
(うん、これなら)
「や、ぅ-----ひっ!」
つ、と愛撫を待っているみたいに膨らみきった粒に触れると、過敏になって反応する。その隙に、と指をず、と埋め込む。内部の潤いで、かなりスムーズに進んだ。
「……っ、………っつ!!」
必死に手で口を押さえているらしく、可愛い声が聴こえない。でも、時折零れるしゃくりあげる息は、さすがに抑えようもないみたいだ。
(今度、ビデオでも撮ろうかなー)
口でしてあげてる時、顔見えないし、と爆が聞いたら憤怒しそうな事を考える。
埋め込んだ2本の指を、中で動かしてみたり出し入れしたり。爆の身体がビク、とそれに合わせて撥ねる。感じてるんだ、と嬉しくなる。
ヒクヒクとしているような粒に、数回舌で転がして、ちゅ、と軽く吸い付く。
「------ッツ!!!」
ガクガクと爆の体が震え、そしてくったりとベットに沈んだ。
達したみたいだ。ゆっくり引きぬるくと、こぷりと零れてくる。泣いてるみたい、と雹は思った。
零れたそれも舌で舐め取り、自分の指に付いているのも。そうして、横たわる爆を見た。
達した脱力感で、沈む幼い身体。肩を降ろしただけの中途半端な格好で、肌蹴けだされた胸が忙しなく上下している。
「…………」
こく、と喉が鳴る。いかんいかんと自分を窘める。
爆くんにシャワー浴びさせて、着替えさせて。
それまで持ってくれよ、と、火照った事で強くなった爆の匂いに頭の芯をくらりとさせながらも、雹は自分の理性に頼んだ。
当たり前だが。
爆は不機嫌だ。
「爆くぅ〜ん……」
「…………」
困ったように雹が呼ぶが、爆はぶすっとした顔で背中を向けている。
「……本」
ぼそ、と爆が言う。
「買いに行けないじゃないか!」
振り返った爆が、喚く。
起きた早々してしまい、まだ身体や頭がぼんやりして、とても行けそうな状態ではない。それだけでなく、散々泣いた顔で外に出れる筈も無い。
「………馬鹿!!!」
色々込めて、爆は言った。何だか、ちょっと泣きそうだ。本が手に入らないのが哀しいのではない。雹が、自分の意思を無視したみたいなのが悲しいのだ。
雹が自分に近寄る。拒むべきかどうするかと迷っていたら、あっさり抱きすくめられた。
「爆くん、これ何だ?」
「………」
促されるまま、視線を移すと。
なんと。
雹が手にしているのは、紛れも無く爆の欲しい件の本であった。
「な、なんで……?」
「ネットで予約してたの」
爆の寝ている間に、もう届いていたのだと言う。
「爆も、もっとこういうのを利用すればいいのに」
と、雹は言うが。
「いや、品物はちゃんと現物見て確かめんと」
爆は頑なだ。雹は、爆のこんな所も大好きだ。顔が綻ぶ。それを取り違えたのか、爆がむす、とする。違うよ、と呟いて頭にキス。
なんだか、絆されるなぁ、とそれを黙って受け入れている。
と。
「……雹?って事は、今日のは念入りな計画だった訳だな?」
「……………」
そのまま流してしまう予定だった雹は、冷や汗を流した。
「こんな……貴様は………!!」
ごごご、と情事後の気だるさを吹き飛ばし、怒りの炎を燃やす爆。
「だ、だってこうしないと爆くんスカート穿いてくれないじゃないか!」
「やかましい-------!!!!」
爆の怒鳴りが木霊する。
そして、雹はこってり怒られた訳だが。
もちろんそれで懲りる雹では、ないのだった。
「今度はキャミワンピにしよvミニもいいよね」
本当に。
<END>
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