How To Love.



「ん……ん……ふぁ……」
 口唇が離れる時、名残惜しげに自然と顎が上を向く。
 離れた現郎の口唇は頬を撫でて、鎖骨の方へと移動する。
 ……そろそろ、爆が騒ぐ。
「ッ……つ、ろ!」
「爆……もう少しだから、頑張れ」
「んー……!」
 鼻に掛かった声が出る。何かを耐えてるみたいだ。
「現郎!……もう、ダメ……だッ……!」
 ひし、としがみ付いて、現郎を挟む足が震える。
「まだだ」
 手が忙しなく背中を這う。昂ぶらせようとしているのだろうが。
 ……爆の我慢は限界だった。  
 ――今まで、自分がどんな身体をしているか、何て考えた事も無く。
 だから、現郎に触れられて初めて知った。自分がこんな……
 こんな……
 爆の、噛み締めていた口唇がついに綻ぶ。そして。
「――ッあーっはははははは!!だめだぁぁぁぁぁぁ!く……くすぐったい〜〜〜〜〜!!ははははは!!」
「………………………」

 こんな、くすぐったがりだったなんて……☆

 好きだなんて最初から想っていたんだと思う。
 自覚したのはちょっと前。それが相手も同じだと知ったのはつい最近。
 自然な流れで抱き合って、キスをして。
 現郎のベットに横たわってさあこれからという時に。
 自分の身体を触る現郎の手がどうしようもなく、くすぐったくて……それでつい大爆笑して雰囲気がぶち壊しである。
 通常の人なら再起不能になりそうな反応であるが、現郎は果敢にも再チャレンジで挑んだ。
 ……結果はいつも惨敗なのだが。今のように。
「……現郎……」
 一頻り笑って落ち着いた爆は、現郎を窺う。
「……傷ついたか?」
「……まぁ、そのつもりで触ってんのに思いっきり笑われて、平気なヤツは少ねぇな……」
 表情は変わらないのに落胆しているのが、何故か解った。
 中途半端に脱がされた服のまま、爆は壁際に凭れる現郎に近づく。
「なぁ、オレに構わないでいいから、最後までヤッたらどうだ?」
 あどけない顔で結構すごい事を言う爆だ。
「馬鹿。ンな鬼畜な真似出来っかよ……」
 けど、爆なりに自分の事を考えてくれてた事が嬉しく、髪を撫でた。……そすると、子供扱いするな!と怒られるのだが。
 案の定嫌々をするように頭を振って、現郎の手から逃れる爆。
「そういう事はやめろと言ってるだろう。子供扱いするな」
 十分子供が何を言う……とも思うが、その子供に夢中な自分にも苦笑を隠せない。
 本当ならこの想いは伝えないはずだったのに……
 けど、こうなった以上は出来るだけ傷つけないように、優しく、優しく。
 爆を無視して行為に及ぶなんて、以ての外だ。
「感じるのは、身体がそういうふうに準備出来てるって事だからな。感じないのにするだけしても辛いだけだぜ?」
「……今のままじゃ現郎の方が辛いだろうが。……現郎が辛いのは、嫌だ」
 爆だって考えるのだ。……好きだって通じ合えたはいいけど、自分はまだ子供で。
 それでも応えてくれて、すごく嬉しかった。……だから、「子供だから」という理由で相手が苦しむのは嫌だ。
 こうなった事を後悔したくない。
 勿論純粋に現郎が欲しいというのもあるが。
「……何処触られてもくすぐったいなんて……変な病気でもかかってるんじゃないか?」
 爆がとても真剣に悩んでいると解っていても、現郎は思わず噴き出してしまった。
「何が可笑しい!」
 爆は真っ赤だ。
「いや……オメーがあんまり可愛い事言うから……」
「……可愛いって……」
 そう言われて不本意極まりない爆だが、滅多に見れない現郎の笑った顔が見たくて、そのままにしておく。
「オメーは至って正常だ。現に、口唇は感じるみてーじゃん」 
 そう言って口唇をなぞると、爆がぴくんと震える。
 その様子を見て、現郎はふと思い当たる。
(そうか……口唇は感じるんだ……)
「なぁ、爆……ひょっとしたら最後まで出来るかもしれねーぞ」
「?」
 不思議そうに口唇をなぞっていた爆は、きょとんと現郎を見た。
 何か思いついたらしい現郎が顔をぐっと近づける。キスするのだと解った爆は首の角度を変えて待つ。
 触れた。
 ……現郎の言う通り、口唇だけはいいらしい。笑ってしまいそうなくすぐったさはなく、ぴり、と弱い電流が走ったみたいだ。
「……ん……」
 最初は、柔らかさを確かめるみたいに、ちょっと触れては離れ、次は全部をじっくり重ねる。これを繰り返す。
 これがいつものパターン。
 が。
「ん……ふ……」
(……今日、長い……?)
 というかしつこいというか。ぴり、としたのが断続的になる。……それが身体に伝わる。
(何か……ヘンだ……)
 頭がぼーっとしてくらくらする。風邪をひいた時に近いかもしれない。頭痛がない分、酔いしれる。
 気持ちよくてもっとして欲しい、と思う。現郎の首に手を回した。こうしたら、現郎の口唇にもっと近づけるから。
「ん……!」
 現郎の熱い舌が口腔に侵入する。自分の舌を絡めて応えた。
 いつもはここで終わる。だから、ここが一番している。爆は深いキスが巧くなっていた。
「ぁふ……あ……っ……んん……」
 舌を絡めたまま、口唇の角度を何度も変える。舌だけで繋がるキスは、爆を今までになく昂ぶらせた。
「ふ……ぅんッ……んー……!」
 ピチャピチャとお互いの口腔を味わう音に、腰から下の力が抜ける。
 爆の腕が力を入れているのに解けそうになった時、現郎が爆の身体を抱き締めたままベットに寝かせる。もちろんキスを続けたまま。
「……はッ……ふぅ……あン……」
 手が現郎の首から滑り落ちて、頭の横に落ちる。どんどん力が抜けるのに、何処かが張り詰めている奇妙な感じ。
「んん……ん、ク……」
 もどかしげに爆の足がシーツを蹴る。
 ……もうどれだけこうしているのか。いつもより長い、という事は解るけど。
 ……心地よくて眠ってしまいそう……
 霞みが濃くなる意識の中、背筋を伝った強い感覚に驚愕で目が開く。
「うつろ……!ンんッ!」
 訴えた口は間髪置かず塞がれた。
「くふ……ん……ッ……!」
 またさっきの感覚が襲った。身体が無意識に撥ねる。
 息も上がって、何時の間にか盛り上がっていた涙が零れた。
「ん……ん……ん!……」
 性質の悪い熱病になったみたいにゾクゾクする。これはさっきと違って落ち着けない。
 やめてほしい……けど……

 ――やめないで――

「ぁ……は……はぁ……」
 よくやく解放された。……激しい運動をした後みたいにぐったりする……大した事をしたもないのに……
「現郎……アッ!……ん……!」
 口唇にまた舌が這って、軽く歯を立てられて。身体が痺れる。全然違う所も。
 爆が乱れた呼吸を整えようとしている間、残された衣服を全て取り払ってしまう。白いその肌は上気して淡く色づいていた。
「……現郎……何か、ヘン……」
 いくら深呼吸しても息が戻らない。自由に呼吸出来ない。
 いつにない自分の身体の異常に、不安に思ったか、爆の涙が増える。安心させる為、至近距離で微笑む。
「大丈夫だ……楽にしてやっからな……」
 汗ばんだ額に張り付いた髪を掻き上げてキスを落とす。
「ひ、ぁ……?」
 胸元辺りに小さな熱を感じて、甲高い声が上がった。
 ――思ったとおり。一箇所が感じ始めれば他も連動して感じるようになるかと、口唇を執拗に愛撫したのだが……

 どうやら成功したらしい。
「あっ……?……ッ!んん!あっ!」
 解らない感覚に戸惑う。が、次からと襲う熱にそんな事を悠長に考える事は出来ず。
 知らない間にうつ伏せにさせられて。
「う……うつろ……ひゃぁん!」
 何か、冷たくてぬるっとしたのが背中を伝う。驚いて後ろを向くと滑りを良くするためのローションだと現郎が言った。
「あぁぁッ!」
 それが腰を通って……身体の中に入ってきた。
「気持ち悪ィ?」
「う……くぅッ……んんッッ!」
 絡み付く粘着質な音を立てて、中の指が掻き回す。
「い、た……はぁ……!」
 気持ち悪い。気持ち悪くて仕方ないけど……現郎が優しく頭を撫でてくれるから、耐えられる。
 立てた膝ががくがくする。
(身体が壊れそう……)
「っあ……!?」
 ふと痛いだけだった後ろに変化が現れた。腹の辺りにまで響く……痺れというか何と言うか。
 むずむずする。
「う……うつろ……!ひぁッ!?」
 知らない事ばかりで不安になった爆は、現郎に少し止めてもらおうと思ってその旨を伝えようとした……のに、その前にまた指が入ってきて。
 受け入れられた事に驚いた。
「あぁ!あ!ひ、あ……んんぅ!」
 増えた指が互い違いに動いて。さっきの感覚がますます強くなる。
「あ……や……いや、ぁ……!」
 爆の拒みを聞き入れたのか、内部の指がずるっと感覚だけ残して引き抜かれる。
「……ぁ……ふぁ……」
 ぺたんと上げられていた腰も降ろされて、爆はほっとする。
 爆が落ち着いた頃を見計らって、顎に手をかけてこちらを向かせる。それだけで感じてしまうのか、爆は目を綴じかけて小さく震えた。
「大丈夫か?」
 辛うじて頷く。
 それは若干の強がりも入っていただろうが、本当に嫌だと思うならきっぱりと断るだろうから。
 なるべく衝撃を与えないよう、優しく抱かかえ身体に収める。すると、しがみ付くように自分に腕を回す爆。
「爆」
 呼んで上向かせてまた深い口付けを。
「ん……ん、ん……」
 身体が溶け始めた頃に、ゆっくりと自身を挿入していった。陶酔していた爆の双眸が見開かれる。
「………ッ!んんん!?」
 意識が後ろへ注がれる。狭い内部を無理矢理押し広げられ、熱い痛みが襲う。
「ふぅ……!ん!んう!ん――――!」
 止めて欲しいのか、ただ戸惑っているだけなのか、爆の手が現郎の髪を引っ張る。
 涙が絶え間なく零れてキスの味が変わった。
 爆が激しく顔を振ったため、口唇が外れる。その途端聞こえる、爆の掠れた声。
「はぁッ!痛ッ!いた……いッ!うつろぉ……!」
「もう少し―――」
「ひぁぁぁぁぁ!」
 ズ、と残りを全て収めてしまう。
「あ……あ……っあ……!」
 瞬きも出来ないでぽろぽろと涙だけが流れる。ピン、と突っ張った入り口で、現郎の存在を嫌と言う程感じる。
 慣れるまでちゃんと待つから、と頭をぐしゃぐしゃと撫でて自分の肩に預けさせる。
 自分の足の横にある、爆の華奢な足が痛々しい程震えていた。
「はぁ……は……ん……」
 ぴったりと身体を合わせると現郎の鼓動が身体の中で響く。
 いつもより早い……?
「う……つろ……緊張して……る……?」
 異物感に耐えて、爆は現郎を見上げたどたどしく言う。
「……そりゃそうだろ」
 ばれてしまった気まずさのせいか、現郎の眉間に皺がよる。
「……オメーにこんな事して、嫌われやしねーかすげードキドキしてる」
「ぇ……?」
 返された答えにきょとんとする。
「……現郎でも……そういう事思ったりするんだ……」
 結構意外だ。いつも他人の事なんか我関せず、といったふうなのに。
「相手が爆だからな……」
 告げられた事に爆の顔が赤くなった。
「そろそろいいみてぇだな。いいか?」
 何をされるのかなんて、全然予想も出来ないけれど……現郎のする事だから。自分は傷つけられる事は絶対にない。
 頷くと、現郎の少しひんやりする手が腰を掴んだ。
 首筋に顔を埋めて、舐りながら律動を開始していく。
「あ!ふぁ……あぁぁぁ!」
 むず痒いように疼いていた内壁を、何度も擦り上げられ、爆の口から幼い嬌声が上がる。ローションをたっぷり使ったせいか、痛みは薄れているようだ。
「あ……ンン!あぅ!はぁぁんッ!」
 ぎゅ、と腕を背中まで回して抱きついて。下は現郎に動かされている。
「ッあ!はぁ!あぁぁ!」
「爆……」
 すぐ耳元で甘い声で鳴かれ、なけなしの理性が飛んでしまいそうだ。
「くぁ……あ……!?」
 ひくり、と自分の身体が勝手に撥ねる。
「現ろ……ふぁッ!ひぁんん!!」
 声も変わる。さっきより大きくなって、高くなって……抑えられない。
「あ……あぁッ!はぁん!あぁぁぁ!」
 限界に達した爆は、背を仰け反らせて溜まった熱を解放した。
「――――つッ!」
 その衝撃からか、爆の指が背中を引っかき、その刺激で現郎も爆の中へと、白濁を吐き出した――

 眺める天井がが、何故か回ってるように見えて仕様がない。実際、頭の中はまだぐるぐる回ってるのだから。
「なぁ、爆。どうだった」
 直ぐ横の現郎が訊いた。
「どうだった……て……」
「初めての感想」
「!!!」
 ぼんっ!と爆が沸騰する。
「き……訊くな!そんな事!!」
 怒鳴る爆に、現郎は楽しそうだ。現郎の笑った顔は好きだが、こういうのは気分が良くない。
 あ、と爆は思い出した。
「そう言えば……背中強く引っかいた……」
 かなりの手ごたえ(?)があったから、結構痛いと思う。それに、現郎の肌は白いから引っかき傷は目立つ事だろう。
「あぁ……別に構わねぇよ。オメーの方が痛い思いしたんだしな」
「またそういう事を!」
 でも腰を労わるように撫でる手が居心地良くて無下に払えないのだが。
「まだ痛ぇと思うけどな、回数を重ねればその内……」
 と、現郎の手が意思を持ってつい、と腰を滑った。
「!」
 それに、爆は。
「あははははは!な……何するんだ急に!はははは!!」
「…………」
 心なしか目の前に万里の長城が見えたような気がした現郎だった……
(爆……精神だけじゃなくて、ちゃんと身体も成長させろよ……)

☆END☆