Lover Tail★
夕食が終わった長閑なひと時。けどそれがあと数分のものだと知っている雹は、ちょっと早いペースで紅茶を飲んだ。
「雹―――――!!」
雹のこよなく愛しい人は怒りの形相で部屋のドアを開けた。
「やぁ、爆くんv」
「やぁ、爆くん、じゃない!!」
「爆くん、台詞の後にハートマークが付いてないよ。そこがポイントなのに」
「やかましい煩い黙れ――――!何なんだこれは!どうせ貴様の仕業なんだろう!」
爆のいうこれとは。
髪から覗く三角耳に腰から生えた長いシッポ。
「う〜ん。可愛いなーv似合ってるよvv」
「そうじゃないだろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「もちろん、爆くんは普段のままでも十分過ぎる程可愛いよvもぅ、僕だめになりそ〜v」
自分で自分を抱き締め、身をくねらせる。不気味だ。
「人の話を聞け!どうやったんだ!これは!」
「通販でネコになる薬とかいうのがあってね、もう一も二もなく飛びついちゃったvあ、ちゃんとチャラにも飲ませて実験したから、安全性は保障するよ」
「そうじゃない!いいから早くこれを……治せというか、無くせというか……とにかく取れ!」
「何でさ。せっかく可愛いネコなのに」
「……どうして貴様が不貞腐れるんだ」
「だってさ、だってさ」
アームチェアから立ち、爆の所まで行く。そして爆が避ける暇も与えず抱き締めた。
「何……!」
「耳なんかこ〜んなに可愛くて」
髪から突き出た髪を甘噛みされて、固まる爆。
「ちょ……や……」
「感じるの?」
「…………!」
今度は耳の中に舌が這う。
「当然だよね、僕が毎晩してるから……と言いたいところだけど、さっき夕食にネコになる薬と一緒に媚薬もちょっと入れておいたんだv」
「なん……だとぉ……」
睨む双眸がすでに揺れている。
「可愛い爆くん……もっと可愛くしてアゲルv」
「ん……ん、んっ……」
深い口付け。
「ふぁ……」
(……っなん……で……こんな……)
「さーて、今日も楽しくなりそうだねv」
「……貴様だけだろう!」
すっかり弛緩しきった身体を抱え、ベットのある場所へと移動する雹様だ。
「あぁ……ッ!は……ぅ……ん!」
「……指だけで、もうこんなに感じちゃうの?」
「んぁ……ひょ……」
後ろから抱かかえられ、背中にある雹の胸や纏わり付く腕にすら、感じてしまう。
――何より、内にある雹の細い指に。
まるで猫にするように頤を摩る指を見て、これと同じのが自分の中にあるというだけで何故か居た堪れない程の羞恥を覚えた。
「あぅ……ダメ……指増やし……たら……」
「大丈夫だよ。いつも僕を受け入れてくれてるからv指の三本くらい平気だよv」
「……そうじゃ……んくぅ……!」
そうじゃなくて。
指が増えて空いた隙間からとても淫らな水音が聴こえてしまうから……嫌なのに。
「やぅ……!耳噛まないで……!」
「可愛いー……シッポも揺ら揺ら動いてるよv」
側で彷徨う尾を捕まえて、今度はそれを口に食んだ。そうしたならふるりと震えるしなやかな肢体。
「ねぇ……爆くん……」
「ん……ふぅ……」
「これ、……爆くんの中に挿れてみようかな」
「なっ……に……!」
驚いた爆は目を丸くした。
「や……嫌だ……そんなこと……ちょ……雹……」
「嘘。嘘だよvだって爆くんの内に入っていいのは僕だけだからねv」
「あぁ……!」
ずるり、と指が抜き出される感覚に身震いする。
「……はふ……」
頬にシーツの感触を感じた。うつ伏せになっている。
「……挿れるよ?」
「ん……」
来るだろう快楽を期待してこくりと喉の奥が鳴る。
熱でじんじんと疼く秘部が雹に開かれて、すっと冷たい空気が撫でる。背筋がゾクリとした。その寒気は、その後来た熱で別の感覚に変わったけれど。
「あ……あ……あふぅ……ん!」
熱く解れた内壁を押し広げるように、雹が入ってくる。
「んん……んぁ―――あ!」
「爆くんv気持ちいいかい?」
「あっ……訊く……な……そんな事……」
「そうだね……顔見れば解るしねv」
「あッ……あぅ!あンン!はぁ……!」
激しさを増した挿入に、爆は翻弄されっぱなしだ。抗わずにただ受け止めた。
――だって
「ひょ……雹……!」
「イク?」
「う……うん……ぁあん!」
くす、と空気で雹が笑ったのが解る。
「いいよ、一緒にイこうね――」
「あ―――……!」
弾ける、白濁した熱。――中と外で。
「は……ぁ……はぁ……」
くた、と雹が持っている腰以外はシーツへ沈んでいる。全く力が入らなくて。
怠惰感に彷徨っていた爆の意識を、首筋に吸い付いた雹の口唇が引き戻す。
「どうする?もうやめる?……それとも」
「……だから……そういう事を訊くなというのに」
憮然とした顔つきで。
身体を捻って雹に口付けを――
これをする前や後は、すぐ止めようと思えるのに
一度行為に入ったならそんな事、思う事はなくて
自分でも目の届かないところを暴かれて
こんなに恥ずかしいのに
恥ずかしいのに――
――だって
すごく気持ちいい――
……悔しいから絶対本人には言わないけど。
「ん……」
瞼越しでも伝わる光に眩しさを感じる。
もう、朝だった。
(あのまま寝たのか――)
それでも裸ではなくて、雹の着せてくれたシャツを身に着けている。
もそもそと起き上がって、乱れているだろう髪を整えようと頭に手を伸ばした。
と――
「…………」
ガチャリ。
「あ、爆くんおはよーv今日の朝はね、クロワッサンにスクランブルエッグに……」
「雹―――!何だこれは――――!」
デジャヴな感覚。いや、実際昨日も言ったからだが。
怒っている爆に、雹はやはり笑顔だった。
「ふふふー、うさぎの耳とシッポ。ああ!爆くんてば何でも似合っちゃうんだからぁ〜vv」
「取れ!今すぐ取れ!」
「今日はそれで遊ぼうねーv次は何にしようかな。あ、リスなんかいいかもvシッポふわふわ〜〜♪」
「人の話を聞け――――!」
爆の叫びだけが室内に轟いた。