DEEP SUGAR
「雹……ッ、オイ!」
 咎められるように名前を呼ばれても、雹は止める事無く爆の肩口に顔を埋め、今は風呂上りでしっとりしている肌を舐めたり撫でたりしている。
 他のヤツならこんな事しても何とも思わないのに、雹だけは違って。
 雹に触られると、身体が熱くなる。……もっと、触れて欲しいと思う。
 ゾクゾクする。
「爆くん……」
 直接伝わった振動に身体が反応する。
「気持ちいい事……しようよ」
 すでに覚束無い足も抱え、ベットへと運ばれた。

 ベットの上。対峙するように座ってまずはキスをする。
 最初はちょっと触れるだけを繰り返して。そうしてどんどん口付けを深いものへ変えていく。舌が侵入してくる瞬間はいつも身体が撥ねるが、それでも爆の無垢な躯は確実に慣れている。無意識なのか、そうしているのか、爆も雹の口内へ舌を入れ、お互いの唾液を交換する。
 それに耐え切れなくなり、爆が溜飲した所でキスはいつも終わる。時には更に追い討ちをかける事もあるが。
「は……ふ……」
 爆の口から漏れる吐息は熱を孕んで、それにより溶かされたように瞳も潤んでいる。この状態を見て、果たしてこれからの行為に耐えられるのだろうかといつも不安になるが。
 不安になりながらも止める気のない自分にちょっとだけ罪悪感を感じ、いたわるるもりも込めて頬に軽いキスをした。そうしたなら、くすぐったいというふうに肩を竦める爆。その表情をもっと見たくて、何回もした。
「……雹……」
 少しだけ、笑った声。そしてとても甘い声。それを発した口唇も甘いような気がして口唇にも一つ、口付ける。
 そのようなことを繰り返してる間に、雹は爆の身に付けているものを一つ一つゆっくりと剥いでいった。風呂上りなのでもともと大した物は着ていなかったせいか、すぐに全ての肌を曝け出せた。
 綺麗な……とても綺麗な肌。爆の魂をそのまま象徴してるように、淡く。
 こんなにも綺麗だから……

 汚したくなる――――
 他の誰にも見られないよう

「…………?」
 脱がせただけで何もしてこない雹を、爆は訝しげに覗きこんだ。何も着ていない状態でいい加減、寒くもなった。
 至近距離に近寄って来た爆に、また一つキスを。自分もまた爆の濡れて輝く双眸を見つめる。黒曜石に写されたような、自分の姿が見えた。
「ねぇ、爆くん」
 上体を抱き寄せ、爆の手を掴み、奥まった場所まで導く。驚いたように硬直した爆の耳へ、直接息を吹き込んだ。
「今日はココ、自分で慣らしてみて」
「ぇ…………」
 最初は何が何だか解らないふうにキョトンとしていた爆だが、言葉の意味を理解するなり、熟れた果実のように顔を真っ赤に染め上げ、螺旋を限界まで巻いた玩具みたいに勢いよく首を左右に振った。
 ――幾晩にも渡るこの行為。数を重ねただけの成果はあるが、完全に心は受け入れているという訳でもない。
 いつも心臓が壊れるんじゃないか、と思う程の羞恥で悩まされる。それは雹もよく解っているはずだ。そうしている張本人なのだから。
 なのに……
「なん……で……や……」
 すでにまともに声が紡げないほど声が震えている。知っている。こんな事を言った所で雹は。
「お願い。やってv」
 止める気なんてない事。そして。
 どんなに羞恥を感じても、結局応えてしまう事。
「…………」
 震える身体を諌めるために深呼吸をし、堅く目を綴じ恐る恐る指を伸ばした。今にも泣き出してしまいそうな爆とは裏腹に、自分しか見る事の出来ない爆を間近で眺められることに優越感に浸っていた。それだけじゃなくて、自然と前のめりになる爆が崩れないよう、しっかり抱かかえてもいたが。
 辿り着いた秘部に、ほんのちょっと触れただけでそれ以上の感覚が襲う。それでも耐え、内へと指を侵入させていった。毎晩、雹を受け入れているせいか、思った程固くはないが、それでも異物感は忌めない。責め立てるような肌のざわめきと、内部の押し返すような動きに負けて、僅かに入れてた指を抜き、爆は倒れるように雹に縋り付いた。
「や……っぱり……ダメだ!出来ない!」
 雹の胸に顔を埋め、嗚咽でも漏らしているかのように肩を震わせる。そんな爆の背中を、雹は優しく撫でる。
「そうだね……最初だからね。少し慣らしてアゲルv」
「だから、嫌だって……―――!?」
 自分の言い分をまるで無視する雹に、怒りを露にし始めた爆だが、それは波が引くようにさっと消えうせた。その次に現れたのは、困ったような驚いているような、そんな表情だ。
「ひょ……やだ……当たって……」 
「大丈夫……まだ濡らすだけだからv」
 ニコっと笑いかけてから、腰を上下に揺さぶった。
「や……ひぁッ!」
 双丘を分け隔て、直接秘部に雹自身が当たる。ゾクゾクと何かが背筋を這う。
「あ……は……あぁぁぁ!」
 今までとは明らかに質の違う感触に、爆の背中がしなやかに反る。
「たまにはこういうのもいいでしょv」
「や……だ……っんか、ヘン……!」
 行き場のない快楽と羞恥のせいで爆の瞳から涙が溢れていた。
「く……ンん!」
「我慢する事ないよ。感じてるんでしょう?」
「やぁ……!」
 熱を帯び始めていた前にも手を伸ばされ、限界が近づく。痛みなら耐えることはまだ叶うのに、なぜかこういう事は堪えることが出来ない。
「ひょ……ぅ……!ダメっ……んァ!」
「今日はまだ出してなかったからね……いいよ、イッても」
「あ――――……!」
 先端を強く詰られ、熱を放ってしまった。そして、もともと雹に縋るような体勢なのを、さらに全身を凭れさせた。そんな爆の背中を優しく摩る。
 解放の後は、いつも爆には恍惚の後ろに罪悪感が見える顔になる。
「そんな顔しなくてもいいのに……僕がしたくてしてるんだから」
「…………」
 息がまだ乱れてて上手く言葉が紡げない。爆は恥ずかしいから顔を沈めたのだが、雹はそれを自分への拒絶と取った。
「……嫌いになった?」
 その言葉にはっとしたように顔を上げれば、泣いてもおかしくない表情。それを見てちょっとムスッとし、手でペチンと雹の額を叩いた。
「…………?」
「何で貴様がそういう顔をするんだ。オレの方が酷い事したみたいじゃないか」
 また雹に凭れかかって、息を吐くように呟く。
「……オレは、貴様がこういう事をしたいのは、オレの事が好きだからなんだって知ってるから……今更、嫌いになったりなんかせん」
「爆く……」 
 今の爆の顔が見れなくて、雹はちょっと惜しいな、と思った。絶対、可愛いだろうから。
(まー、爆くんはいつだって可愛いけどねvvvv)
 しっかり心の中で惚気る雹様だ。
「でも、爆くん……すごく嬉しいけど、ちゃんと状況解って言って欲しいな、そういう事……」
 爆の手を取って、指の一本一本を丁寧に舐める。
「壊してしまいそうだよ……君の事……」
「ッ…………!」
 指の間を這う熱い感触に、爆の身体が反応する。掴む力はとても緩くて、今の爆でも解けそうなのにそうしないのは……
「ふ…………」
 雹の舌による愛撫を、何故か見つめ続けてしまう。魅入られたように動けない。触れている所からじんわりと、全身や身体の奥まで痺れる。
「指だけでも感じちゃうんだよね、爆クンは」
「だって……ぁ……ッ……」
 甘噛みされて言う事を封じられる。
 緩慢なその愛撫がいつまで続いただろうか。しばらく経ち、ようやく爆の手は解放された。が……
「じゃあ、自分で慣らしてねv」
「……やっぱりやるのか……」
「うんv」
 要求の内容さえ知らなければ、あどけない笑顔にも見える。全くそうでないのに。
「そのために濡らしてあげたんだから……ここも」
 つい、と雹の指が奥まった場所を撫でる。そのまま入れるのかと思えばあっさり引いた。どうやら本気らしい。
 それでもしばし睨み合って(というか爆が一方的に)いたが、爆の方が折れた。なるべく平然を保って、雹に濡らしてもらった指を後ろへ持っていく。そこも雹の先走ったもので十分過ぎるくらい濡れていた。
「…………」
 少しだけ躊躇い、一本を潜り込ませた。
「あ……ッ……」
「今度はすんなり入ったでしょ?」
「ん……」
 力を入れた分、飲み込んで行く。潤っているからもあるだろうが、爆の身体が先ほどからの愛撫で快楽を欲しているからだろう。
(うわ……指、全部入った……)
「入った?それじゃ次は中で動かすんだよ」
 爆が崩れてもいいように、きつく抱き締める雹。何故か爆は安心できた。
「……っは……んぅ……」
 くちゅくちゅと奥から淫らな音が響く。それに触発されるように、指のうごきも大胆になってきた。
「あ……あぁッ…」
「足りないんなら、もう一本入れてごらん」
「ん……ッ!」
 雹に促されるままに指を入れる。圧迫感と快楽が増す。
「爆くんの中……熱いだろ……?」
 すぐ耳元で雹を感じ、爆の身体がビクンと撥ねる。こういう時に、こんな雹の声は正直言ってとても困る。それがどれだけ自分を乱すのか、おそらく本人は知らないだろう。
「熱い襞が絡み付いてきてね……いつも僕の事離してくれないのv」
「そーゆー事……言うな……!」
「だってホントの事だもんvvv」
「〜〜〜〜ッッッ!」
 爆は首と言わず肩まで真っ赤になった。自覚があるんだろう。おそらく。
「……あれ?爆くん?」
 黙って凭れかかっていた身体を起こした爆に、雹は危機感を感じた。
(はぁッ!しまった!怒らせた!?)
「雹……いい加減に……」
「ごごご、ごめんね、爆く……」
「まだ……ダメか……?」
「へ?」
 目を合わせたら爆は視線を逸らしてしまい、
「もう……いいから……」
「……欲しいの?」
 問えばこくんと頷く。
(もうッ!爆くんってば、本当に本当に本当に可愛いんだからぁぁぁぁッ!)
 雹はこれ以上ない至福を味わっている。
「ん〜、今日はいっぱい可愛がってあげるねvv」
「……ほどほどにしとけよ。明日、出掛けるんだろうが」
「うん。そう、デートvv」
 悪戯っぽく爆の顔にキスをいくつも降らし、離れた身体をまた抱き寄せた。
「……僕にしがみ付いてて」
 雹の少し冷たい手が脇をかすめ、これから齎される快感に爆は小さく喉を鳴らした。
「いい……?」
「あ……」
 先程自分で慣らした箇所に、指とは違う質量と熱さのものを感じて、身が僅かに竦む。挿入の時、まだ最初は痛みがあるから。
 ぎゅうと首に回した腕に力を込めた。
「力、抜いててね――」
「ふぁ……―――ああぁぁぁあぁぁッッ!」
 ようやく待ち望んでいたものに満たされ、爆は爪の先まで痺れるような快感に襲われる。
「あッ……あぁッ!……熱……い……ぅ……!」
「どっちかっていうと、僕の方が熱いと思うけどな……爆くんの中、蕩けそう……」
 爆の腰を進ませながら、うっとりと呟く。
「やッ……!、何か……いつもと……違……ア……」
「……どういう風に?」
 奥まで入って来る雹を感じながら、途切れ途切れに告げる。
「ッ……すごく……感じ……て……」
「気持ちいい?」
「……ぅん……」
 いざ行為が始まってしまえば、爆はとても快楽に従順になる。
 知っているのは自分だけ――――
「じゃぁ、もっと気持ちよくしてあげるねv」
 途中まで繋がっていたのを、一気に根元まで埋め込んだ。
「――――ッ、ひゃぁぁぁああ!」
 急激な刺激に爆の意識に霞がかかる。
「ア……あ、ぁ……」
「だめだよ、爆くん。これだけで意識飛ばしちゃ。いろいろ教えてあげられない……」
「あつ……」
 衝撃の余韻にぼんやりとした爆の首筋を、少し歯を立てて噛んだ。
「ヤダ……もうイキたい……ッ」
 涙を流して訴える爆に、雹は残酷だ。
「気持ちよくなりたいんだろう?」
「やッ……雹……!」

 どこからか取り出した紐で、爆の根元をきつく縛ってしまった。
「待て……そんな、の……」
「大丈夫、大丈夫。壊しはしないからvv」
「やぁ――――ッ!」
 軽く突き上げられただけで、強烈な快感が押し寄せる。雹は壊しはしない、とは言ったが加減する前に壊れてしまうかもしれない。
「やだ……雹……お願……い……やめ……」
「何で?爆くん今すごく可愛い顔してる……」
 ほんの少し動かしただけであの反応なのだ。いつもしてるみたいにすれば、どうなるか。
 見てみたい。
「あんッ!あぁぁぁぁッ――――はぁ!ンぅッ!」
 ――思った以上に淫らに揺れる。
「ヒッ!ぁあッ、あぅッ!」
「気持ちいいねv爆くんv」
「ひゃうんッッ!あぁ……ッ!」
 ただえさえ敏感になっているというのに、弱い所ばかり突かれて爆の小さな身体では持て余してしまう。限界までの許容範囲を軽く超えていた。
「も……だめ……おかしく……アっ……あは……」
 苦しくて、堪らない。浅い呼吸を繰り返す。
「そうだねー明日のこともあるし……今日はもう許してあげる」
「ア――――………!
「ッ…………」 
 戒めを解かれ、細い悲鳴のような嬌声を発し、ようやく溜まっていた熱を吐き出した。爆が解放するのと同時に、雹も爆の内へ放っていた。
「ぁく……ふ、ぅ……ッ!」
 今までの快感はそうそう抜けなくて。まだ残り火のように燻る感覚に、爆の身体は反応してしまう。
「んッ……ふぅ、ん……!」
「爆くん……おやすみ……」
 なのに、何故かそういう時は雹に優しく髪を梳いてもらって、柔らかいキスをしてもうだけで意識は深遠へ落ちていく。
「明日……動けないかも……」
 今は全くといっていいほど、特に下半身の感覚がない。
「だったらずっと家で一緒にいよv」
「ん……」
 微笑む雹を見て、爆は眠りについた。
 明日のためにも。

<オマケ>
 風邪の引きはじめか、治った後か。そんなちょっとした熱を湛えて目が覚める。
「んー……」
「爆くん、起きた?」
 すぐ目の前に雹がいた。というより抱き合うような格好で寝ていたらしい。よく今まで目が覚めなかったものだと妙な感心をする。
「身体、大丈夫?」
「……出かけるのは、ちょっと無理かも……」
 おはようのキス、とか言いながら何度もする雹。
「そっか。まぁ、僕のせいだからね。爆くんがちゃんとするまで、いろいろ面倒みてあげるよ」
「いらん。回復が遅くなる」
 どきっぱりと爆に言われて軽くヘコむ雹様だった。