CHILD TIME♪



「こら……炎……」
 爆はあからさまに怒っている。そして困っている。
 弱い耳元から鎖骨にかけて、何度も行ったり来たり舐ったりキスをしたり。大声を出して激昂したいところなのだが、いかんせん此処は風呂場。
 声が反響して誰かがやってくるかもしれない。
 ……もしそれを計算しての上なら、是非上がったら右ストレートの一つでも決めないと。
「炎!……?」
 響かないように小声で窘めた。が、その爆を炎は軽々と抱え、浴槽の縁へと腰かけさせた。
 炎の意図がいまいち掴みかねる爆は首を傾げた。が。
「何をするか貴様はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 炎が足を開かせ、間に身体を滑りこませようとしたので大慌てで退けた。爆は炎に踵落としを食らわせ、炎の方が低い位置に居た為それは見事に決まった。
 手加減というものが無かった爆の攻撃に、さすがの炎も痛みを堪える事は出来ない。
「ば……爆……」
「……貴様が、妙な事をするからだろうが」
 涙目になった炎でも爆は容赦をしなかった。
「……俺はただ、キスマークを付けようとしただけだ」
 学校に通う身の上では上半身には跡をつけれない。まして、今は体育で水泳がある。
 結果、残せそうな場所といえば足の付け根ぐらいしか残されていなかった。
「だからって……」
 爆はちゃぷん、と口元まで湯船に浸かった。
「それに、何日もお前に触れていないし……何かしないと気が狂いそうだ」
「…………」
 後ろからぎゅっと抱きついた炎を、今度は拒まなかった。
 最近は運悪く……といおうか両親共々夜には仕事を終えて帰ってくる。さすがに親のいる元でするというのは気が気でない……というか集中出来ない。
 が。この際どうでも良くなって来た辺りいよいよキている事を自覚する炎である。
 そんな炎の気持ちは爆も痛い程よく解るのだが、はっきりいって両親揃った家の中で行為に及ぶのは御免だ。
(……やっぱりこんな状況で一緒に風呂に入るのは無謀だった……)
 爆は今更後悔した。この頃学校行事の都合で炎と一緒にいる時間が更に減ってしまっていたのだ。しかもそれはまだ続く。
 で、いよいよ我慢の限界に達しそうな炎の申し出(一緒に風呂入る)に付き合ったのだが……
「爆……」
「!!」
 湯の中の炎の手が、明確な意思をもって動く。声にも熱が籠もってきた。
「ま……待てって!炎!」
「…………」
(ええい!そんな泣きそうな顔をするなぁ!!)
 生徒教師共々信頼の厚いこの男がこんな表情をする何て、一体自分以外の誰が知ろうか。
 仄かな優越感に浸りながらも、爆は炎を制止する。
「……とりあえず、ここでするのは嫌だ。オレは、声を抑えるなんて真似、出来んからな」
 顔を赤くして結構恥ずかしい事を我慢して言う。
 普段ならここで引いてくれるのだが、今の炎は極限状態にある。果たして何処まで聞き入れてくれることやら。
 炎は眉を顰めて真剣に考え込んでいる。思わず見惚れてしまいそうな表情だが、何を考えているのかおおよその予想が出来る爆は溜息を付くしかない。
「だったら……シャワールームならいいか?」
 シャワールームは浴室内にあるガラスで仕切られた一角である。夏にちょっと汗ばんだ時によく使う。
 ……あそこなら、あまり反響はしないと思うけど……でも……
 ちら、と炎を窺えば、自分が承諾してくれるのを不安に待っている。おもちゃ屋の前で控えめに駄々を捏ねている子供みたいだ。まるで。
「……いいぞ」
 重い溜息と共に吐き出された言葉を聞くと、炎は顔中に笑みを浮かべて爆にキスをした。

 一人が立つスペース、と設計されているシャワールームは爆が子供と言えども二人だと結構心持狭い。自然に距離が縮まる。
(心臓……ドキドキしてる……)
 これから炎とするのだと思うと何か落ち着かなくなり、やっぱり止めたいなどと言いそうになる。初めてでもないのに、慣れないのだ。
「爆」
 優しく抱き寄せて、髪を撫でる。いつも、してくれる事。
 そうやって自分が萎縮しないように気遣ってくれるのが解る。
「ん……」
 近づいた炎に、首の角度を変えて応える。
 ぴったりと隙間なく合わせるキスを何度かしてから、舌を差し入れる。その瞬間に爆の身体が撥ねたのが、密着しているこの状態では良く解った。
「ふ……っ……ん……んぁ……」
 絡み取った小さな舌を自分の口腔へと招き、歯で軽く食むと爆の喉から上擦った声が漏れる。
「んん……ふ……」
 口付けが終わると、爆はその場に崩れそうになる。まだ大した事もされてないのに。
 大分間が空いたから、身体中が刺激に対して敏感になってるみたいだ。
「ふぁ……」
 離れていく炎を追いかけるように顎が上を向く。もの欲しそうな仕草に自分で羞恥する。
「……狭いな」
 誤魔化す為にかそんな事を言ってみる。
「……一人用に設計されているからな」
 そんな戯言にもちゃんと答えてくれるのが、とても嬉しい。と、炎がまた迫る。
 拒まずに受け入れる。
 腰辺りに炎の手が掠めたのに無意識に慄く。そうして自分の失態に内心舌打ちした。
 やっぱり、嫌がられたとでも思ったのか、炎は心もとない顔をしている。
「……ビックリしただけだ。嫌な訳じゃない」
 そう言うとほっとしたように首に口唇を寄せる。
 ……全く、どちらが子供なんだか。
「つ……ッ!」
 双丘を分け入る指に肌がざわめく。ゾクゾクとした感覚に紛れ、炎の指がゆっくりと侵入してくる。
「あ……あッ、あ……!」
「痛い、か……?」
 そんな事はないので首を振った。
「……大丈……夫……ひゃッ!」
 グプ、と一気に多く入って来た指に驚いた。
「い……いきなりは嫌だ!」
「すまん……」
 涙を溜めた爆に、バツが悪そうに言う。
「……やっとお前に触れると思うと……どうも我慢がきかない」
「……どうして其処まで余裕が無いんだろうな、貴様は」
 学校の同級生……いや、それに限らず上も下も、炎の事はストイックで静かな物腰の落ち着いた雰囲気の少年と崇め奉っている。
 が、爆の中の炎はそれと正反対と言ってもいい。
 どうしようもなく我が侭で、時々手に負えない程で。自分の顔色を始終窺っていては、少し眉間に皺を寄せただけで泣きそうな顔をする。
「爆……だからな」
 ……そうなるのは全て、相手が爆他ならないからだと炎は言う。
「それにしても、限度ってものを知れ!」
 まともにあてつけられ、顔を真っ赤にして爆は怒鳴った。
「それは……多分無理だな」
 小さく笑いながら言う。
「何……あッ!」
 蠢いた中の指に、爆が反応する。
「話は……後でも出来るだろう?」
「え……ん……んぁッ、あぁッ!」
 一本増やし、中の様子を窺うようにゆっくり弄る。
 これが初めてではない。初めてではないのだが、いかんせん間が開いているのでなかなか慣れないのだ。
「あっ!……ふっ、ぅ……ンン!」
 立っている足が、膝からガクガクして……今にも崩れそう。縋れるものを求め、爆は炎の首に腕を回した。
「爆……そのまましがみ付いて……」
「んッ!あ……!」
 引き抜かれた指と一緒に力も抜け落ちたみたいだ。殊更強い力で炎に抱き付いた。
「爆……」
「あッ!」
 熱く疼く箇所に熱を感じ、爆の喉が鳴る。爆がある程度落ち着いたのを見計らって、ゆっくりと自身を埋めていった。
「あッ、つ……あぁぁぁ――――ッ!!」
 一頻り声を発した後、しまった、というふうに口を押さえた。
「隠さなくてもいいのに……」
 そんな事できるか!と睨む事で訴えた。
「んッ、ん……!」
「……動くぞ」
「あッ!ああぅッ!あぁ!」
 律動が始まってしまうと、片手だけで炎にしがみ付くのは出来なくて。結果、隠す事ものの無くなった口からは甘い嬌声が突き上げられる度に発せられた。
「は、ぁん!……っあ!ンン!」
 久々に与えられる快楽は、容易く爆の中を満たしていった。
「あ……ぇ、ん!も、う……イ……ッ!」
「……爆……―――ッ!」
「あぁぁぁぁぁぁッ!」
 限界を訴えれば、より一層深く突き上げられ、爆と同時に炎も熱を放った。


「炎……オレも飲みたい……」
 冷たいフローリングの床に寝そべり、爆はソファに座りって飲んでいる、炎のスポーツ飲料を指差した。
 それを渡す炎の顔も爆の顔も、茹で上がったように真っ赤である。
 二人を見て天が溜息をつく。
「全く、こんなに長い時間、お風呂で何をしていたの?」
「あ……いや、それは……」
「…………」
 爆はゴクゴクと飲んでわざと答えられない状況を作った。
 ……まさか、あの後2回もしてしまうなんて……逆上せるのも当たり前だ。
 呆れかえる天だが、真は苦笑する。
「大方遊んでいたんだろ。まだまだ子供だな」
 ……まぁ、ある意味遊んでいたんだろうが……
 いよいよ返答に困った炎は爆を見た。と、爆も丁度同じタイミングで炎を見らしく、こちらを向いている。
 ので。
 炎と爆は、二人にしか解らない笑みを浮かべたのだった。