この庭はとても綺麗にサルビア咲くから 俺は爆に招かれていつも外へ行く
と、ゆー訳で俺はこの度結婚する事になった。 いきなり”と、ゆー事で”で始まるので解るように、ちょっと自棄が入っている。 相手は知らない。 知らないつーか……知ってるのは肩書きだけ。どっかのデカい銀行の頭取の娘。 会った事はあるけどな。デートしたのも。 んでも顔は解らない。美人なのかブスなのか。 ……周りが羨ましがっている所を見ると、結構美人なのかもしれねーが。 ちなみにきっかけとして。 何でもいつぞやその女がオヤジについてきた時、俺を目撃したらしい。 それで気に入って、そのオヤジが話持ちかけて来て------ ”最も、他に気になる女性でも居たら別だが”
俺は居ないと答えていた。
-----どうしてそれが”OK”になるんだろーな。独身のままって選択肢は俺に無いのか。 あれよあれよと事が進んで、気づけば後は結婚するだけな状態になってしまった。 上のセリフから、3週間の事だ。 気が早いというか、退路を絶たれたという感じだ。これで断れば両者の間が気まずくなる。 で、結婚式は明日だ。 「現郎ー」 「おー、爆ー」 「貴様、明日の主役がこんな所にいていいのか。相手はどうした」 「勝手にやってんじゃねーの? それに明日は明日だ。今日はこのまま昨日のつもりで過ごす」 「相変わらずだな」 横に腰掛けた爆の膝に頭を乗っける。 「骨が痛い。もっと肉付けろよ」 「借りたものにケチをつけるな」 昨日の続きの、明日にそのまま繋がりそうなやり取り。 ふわり、と柔らかい風に揺れるサルビアも、去年のままなのに。 「……なー、”これから”どうするんだ?」 「そうだな」 爆にはこれだけで通じるんだけどな。これからはそうもいかない。 「オレは」 と、一旦言葉を切って。 「モロッコへ行くな」 「……は?」 まるっきり予想外の答えにマヌケな音が口から出る。 「行って何をするつもりなんだよ」 「決まってる。性転換だ。男になってくる」 「……おーい」 そんな……即性転換と結び付けるとは、モロッコの人に失礼な。 まぁ、確かに爆には男気な所もあって、バレンタインにはどう見ても本命だろこりゃ、ていうチョコを何個も貰っていた。 が、少なくとも爆に自分の性別に苦痛や疑問を抱いている素振りは無かった。 「オレが男だったら」 「………」 「貴様は無い頭悩まさずに済んだだろうし」 「無いが余計だ。無いが」 「賢いやつは明日結婚式でこんな所で寝転がってない」 しかも人の膝だしな。 「……オレが男だったら、貴様は散々悩んだとしても好きだと言ってくれたり、抱いてくれたりしただろうな」 男と女だから。 法的に認められるって事は、其れ故の負荷が付く、て事で。 それは俺と爆には、あまりにも色々と邪魔でしかないものばかりで。 「……泣くなよ」 「誰が貴様の為なんかに泣くか」 「………」 「オレは、オレの為に泣く」 と、言っても、爆は絶対此処で泣いたりはしない。 明日の結婚式の間中、平然とした顔で、最後に俺達に花束渡して言うんだ”お幸せに”。 そうしてその晩、1人になったら一つだけ涙を零すんだろう。 お前はいいよな。強いからそれだけで終わって。 ……俺はどーなるんだよ。 ”好きな女性は居るのか”って訊かれて。 ”居ない”って答えた。 だって、俺は爆を女性としてなんか見て居ない。
そんな事はどうでもいいと思えるくらいコイツが好き
「あー、チキショウ……」 本当に、どうしてコイツは男に生まれてきてくれなかったんだか。 同性なんか障壁にもならないってのに。 さもなくば俺が女に生まれるとかな。女の俺。倒錯的だ。 「現郎、いい加減に退け。重い」 「……明日嫁いでいく相手に対して優しさと真心が足りねぇ」 「男は嫁ぐなんて言わん」 「性差別だ」 「やかましい」 グーと爆が俺の頭を押す。それくらいで退けはしないが、痛いので大人しく引き下がる。 余分な重量から解放された爆の足は、ぴょんと庭に出る。素足で。置かれたサンダルが虚しい。 そうしてサルビアの群れに入った。 古い記憶の中の爆は、その花から頭しか出てなかったのに、目の前の爆の腰の辺りからサルビアは咲き誇っている。 「現郎、貴様も来い。今が一番沢山咲いてる頃なんだ」 「……………」 のっそりと起き上がる。少しふら付いたのは、最近寝不足だったから。 「……なー、爆」 「何だ」 「もっと、サルビアが咲いてる場所、見に行こうぜ」 「……何時に」
「今から」
だってコイツが悪ぃ。 サルビアの花が咲いていて、爆に来いと言われたら、俺は行くしかないんだがら。
「でも、怒られるときは一緒だからな」 「この歳で怒られるのは少し嫌だなー」 空はそろそろ夜が明ける。
「-----結局は、何だって貴様があんな真似をしたという事だな」 したり顔で真が言う。 「んー、俺もよく解らねぇ」 はぐらかしでも冗談でもなく。 あの間、”何でこんな事を”と思いながら”こうするしかない”と、全く正反対な事がずっと頭の中で回っていた。今はもう治まっている。 あの後、お眼鏡に適う場所を見つけ、帰ったのは2日後。結婚式予定日の翌日だ。 社会的に抹殺されるのもどうって事ねぇや、と思っていた俺には何の音沙汰も無しだった。 まぁ、当然といえば当然で。 向こうは何を思い間違ったのか、取引している自分の方こそ有利だと思ったのか。 実際はあくまでこちらが”取引してやってる”のだ。 他にもいくつも大きなグループや財閥と関わりがあるウチが、その気になればたかが銀行の1つや2つ、楽に兵糧攻めに出来る事を、海外出張から帰った社長ご夫妻直々に言われ、顔面蒼白になったのは想像出来る。 ちょっと、脅迫めいた縁談だったしな(この話を蹴ればウチとの取引は云々かんぬん)。 有無を言わせない条件や材料は揃っていた筈だ。 「それはお前も知ってる事だろう。なんで誘いに乗ったりした。 俺達の帰国があとちょっとでも遅れたら、あのまま結婚させられていたんだぞ」 「まぁ、結果としてしてねーんだから」 だからいいじゃねぇか、と言う俺に、真はガッキ、と肩を抱き。 「おいおいしっかりしてくれよ? 爆はお前にやるんだって、産まれる前から決めていたんだから」 「……男かもしれなかっただろ」 「それでも、お前にやるさ。欲しいだろ?」 解っているんだぞ、という顔で言われて、ムカついたので沈黙してやった。 「俺があんな事をしたのは、案外……」 いい加減苦しくなった腕を解く。 「”愛の試練”てヤツが欲しかったんかな」 「……”愛の試練”……! イイ!それ、イイぞ現郎!!!」 解いた腕がバシバシを背中を叩く。 「そんなもの欲しがらんでも、目の前にでっかい障害があるだろうが。 完全にお前に渡す16歳までは、まだ俺の爆なんだからな?」 「……あとたった6年じゃねーか」 これまでの10年に比べれば、4年も短い。 ニヤリ、と笑って言えば、真が肩を竦める。 それは降参なのだと、勝手に解釈する事にした。
俺の部屋、俺のベット。 其処に寝ているのは全然構わないんだけど、どーして俺の上着着て寝てんだコイツは。 ちゃんとコイツのを着せたのに……ご丁寧に脱いでやがる。 はー、と長いため息をついて、頬に手をやる。 少し熱いか?やっぱ、まだ無理があるか…… まぁ、ぼちぼちだな。その内、一緒にイケるようにもなるだろう。 「爆。……爆」 呼びかけて、そのままだったら大人しく寝かせて。 目が覚めたら。
もっと2人で沢山の事を ”もしも”なんて言葉が入る隙間が無いくらい
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