オニキスとシトリンの睦言,18





 また台風が来る、と学校のみならず世間がぼやいたのが木曜日。
 そして土曜日の今日、帝月は天馬の家に居た。
「ミッチー、家に帰らないと、ヤバいんじゃねぇ?」
 空は鉛色になり、生暖かい強い風が草木を揺らす。もうすぐ台風上陸の兆しである。
「今日は泊まっていく約束だろう?」
「んでも、家で雨戸閉めたりしないとさ」
「家の者がやるだろうから、問題はない」
 家の者?と天馬は首を捻る。
「それって、お手伝いさんか何か?」
「まぁ、そんな所だ」
「えー!オレ、今まで見た事無ぇんだけど!?」
「……お前が来る時は来ないようにと言っておいたからな」
 天馬はそれに対してふーんで終わらせてしまったが、実はお手伝いさん、なんて言うと人の良さそうなおばさん、みたいなイメージだが、帝月の所のは20代前半の男性だったりする。内緒にしておきたいのが心情だ。
「それより、今日の深夜が一番近づくそうだぞ」
 話題転換も兼ねて、ニュース速報を読み上げる帝月。
「そっか。じゃ、早い所風呂とか入らないとな」
 天馬のセリフに、帝月も頷いた。




 空気どころか地面すら揺らしているのでは、と思えるほどの暴風雨。がたがた、と雨戸が音を立てる。
「うへー、すげーなぁー」
 2階の自室にあがり、布団を引きながら呟く天馬。
「なら、大丈夫だな」
「へ?」
 何が、と問う前に。
 とさ、と天馬は布団の上に転がっていた。
 そうしたのは、当然帝月で。
「声が聴こえる心配をしなくて済む」
「え、え………えぇぇ?」
 天馬は戸惑うが、帝月はさくさく進めていく。ボタンを外し、露になった肌に唇を滑らせていく。
「ちょ、ちょ、ちょっとストップー!!」
 ギブアップ!と床をばしばし叩く。色気もなにもあったものではない。
 少しばかり不服そうな表情で、顔を上げる帝月。
 すでにボタンは全部外されている。張りのある、けれど柔らかそうな胸を前におあづけとは、キツい。
 眼は潤んでいて、肌は朱に染まって。それだけ見れば何も問題はないのに。
「や、そ、そんな、自分の部屋でなんて……ッ!」
 それでは、毎日変な緊張してしまうではないか。今だって、そうでなくても思い出してしまっては悶々としているのに。
「ミ、ミッチーの家で今度やろーぜ?な?」
 行為自体は嫌ではないのだから。
「……どうして、僕の家だといいんだ?」
 帝月が問い返す。
「広いからか?」
「んー……それもあるけど、やっぱミッチーが此処で過ごして育って、自分にあったんだな、って思える場所だか、ら………」
 言いながら、至近距離の帝月の眼と合う。
(あ…………)
 そういう事だったんだ………
 かぁ、と頬が熱くなったのは、自分の愚かさへの羞恥故。
「ごめん……」
「何を謝る」
 別に謝罪を求めるつもりなんて、これっぽっちもなかった帝月としては、少々面食らう。
「だって、オレばっかりミッチーに迷惑かけてさ。
 でも、言ってくれないミッチーだって、悪ぃんだぞ」
 むぅ、と剥れると、その突き出した唇にキスされた。帝月の口の端が持ち上がる。




「な、ミッチー………」
 掠れる声で、帝月に呼びかける。
「何だ………」
 相手の声も熱を持ったみたいに、息があがっていてる。
「オレが帰った後も……あの部屋で、寝るんだよな……?」
「それは……まぁ、そうだな……自分の部屋なのだから」
 胸の先端を吸うと、一層跳ねる身体と声。
「じゃ……さ、」
 はふ、と吐息交じりに言う。
「……思い出したり、する?」
「………っ、」
 帝月が硬直する。
 はぐらかして、そのまま事を進めてもいいんだが、自分を見る眼がとても真っ直ぐなので。
 正直に、答えた。その後、天馬が嬉しそうに微笑んだ。




 翌朝、眼を覚ますと。
 自分だけが布団の中に居て。
「……………?」
 昨夜の事は夢だったんだろうか?などと首を傾げる天馬。
 とりあえず朝食を取ろう、と、てほてほと下に階段を降りると。
「……おはよう」
「………………」
 帝月が朝食の用意を整えていた。帝月だって、何度か此処に来て間取り等は頭に入っている。
 帝月が此処に居るという事は。
 昨夜の事は現実だという事で。
(うぁ〜〜////)
 顔が赤くなる。
 今日から寝るときが大変だろう。
(でもちょっと嬉しいかも……って、何考えてんだー!!)
「……今日、学校は休みだぞ」
 悶える天馬に、ぼそ、と帝月が言う。
「へ?」
「警報がまだ出ている」
 テレビ上部のテロップには、確かにこの地域の警報を告げている。
「そっか……ラッキーだな」
「そうだな」
 今日も大好きな人と一緒に居られる、と、2人はそれぞれ思っていた。




<END>





ミッチー悲願成就する。(笑)
大好きな人の所で、ってのはどっちも思う事でしょうねーって事で。
ちなみにミッチーの使用人は火生で。えぇもう隠す必要なんてこれぽっちもないし。

本当は番外編で高校生になった2人の話でもいっちょ書こう!って思ってたんだけど、ミッチーにてっちんの部屋でえっち出来る口実を見つけたので、ミッチーにもいい思いさせてあげようじゃないのって事で。ミッチー、台風が来る事解ってててっちんのお家に来ました。いじらしいですね☆