また台風が来る、と学校のみならず世間がぼやいたのが木曜日。
そして土曜日の今日、帝月は天馬の家に居た。
「ミッチー、家に帰らないと、ヤバいんじゃねぇ?」
空は鉛色になり、生暖かい強い風が草木を揺らす。もうすぐ台風上陸の兆しである。
「今日は泊まっていく約束だろう?」
「んでも、家で雨戸閉めたりしないとさ」
「家の者がやるだろうから、問題はない」
家の者?と天馬は首を捻る。
「それって、お手伝いさんか何か?」
「まぁ、そんな所だ」
「えー!オレ、今まで見た事無ぇんだけど!?」
「……お前が来る時は来ないようにと言っておいたからな」
天馬はそれに対してふーんで終わらせてしまったが、実はお手伝いさん、なんて言うと人の良さそうなおばさん、みたいなイメージだが、帝月の所のは20代前半の男性だったりする。内緒にしておきたいのが心情だ。
「それより、今日の深夜が一番近づくそうだぞ」
話題転換も兼ねて、ニュース速報を読み上げる帝月。
「そっか。じゃ、早い所風呂とか入らないとな」
天馬のセリフに、帝月も頷いた。
空気どころか地面すら揺らしているのでは、と思えるほどの暴風雨。がたがた、と雨戸が音を立てる。
「うへー、すげーなぁー」
2階の自室にあがり、布団を引きながら呟く天馬。
「なら、大丈夫だな」
「へ?」
何が、と問う前に。
とさ、と天馬は布団の上に転がっていた。
そうしたのは、当然帝月で。
「声が聴こえる心配をしなくて済む」
「え、え………えぇぇ?」
天馬は戸惑うが、帝月はさくさく進めていく。ボタンを外し、露になった肌に唇を滑らせていく。
「ちょ、ちょ、ちょっとストップー!!」
ギブアップ!と床をばしばし叩く。色気もなにもあったものではない。
少しばかり不服そうな表情で、顔を上げる帝月。
すでにボタンは全部外されている。張りのある、けれど柔らかそうな胸を前におあづけとは、キツい。
眼は潤んでいて、肌は朱に染まって。それだけ見れば何も問題はないのに。
「や、そ、そんな、自分の部屋でなんて……ッ!」
それでは、毎日変な緊張してしまうではないか。今だって、そうでなくても思い出してしまっては悶々としているのに。
「ミ、ミッチーの家で今度やろーぜ?な?」
行為自体は嫌ではないのだから。
「……どうして、僕の家だといいんだ?」
帝月が問い返す。
「広いからか?」
「んー……それもあるけど、やっぱミッチーが此処で過ごして育って、自分にあったんだな、って思える場所だか、ら………」
言いながら、至近距離の帝月の眼と合う。
(あ…………)
そういう事だったんだ………
かぁ、と頬が熱くなったのは、自分の愚かさへの羞恥故。
「ごめん……」
「何を謝る」
別に謝罪を求めるつもりなんて、これっぽっちもなかった帝月としては、少々面食らう。
「だって、オレばっかりミッチーに迷惑かけてさ。
でも、言ってくれないミッチーだって、悪ぃんだぞ」
むぅ、と剥れると、その突き出した唇にキスされた。帝月の口の端が持ち上がる。
「な、ミッチー………」
掠れる声で、帝月に呼びかける。
「何だ………」
相手の声も熱を持ったみたいに、息があがっていてる。
「オレが帰った後も……あの部屋で、寝るんだよな……?」
「それは……まぁ、そうだな……自分の部屋なのだから」
胸の先端を吸うと、一層跳ねる身体と声。
「じゃ……さ、」
はふ、と吐息交じりに言う。
「……思い出したり、する?」
「………っ、」
帝月が硬直する。
はぐらかして、そのまま事を進めてもいいんだが、自分を見る眼がとても真っ直ぐなので。
正直に、答えた。その後、天馬が嬉しそうに微笑んだ。
翌朝、眼を覚ますと。
自分だけが布団の中に居て。
「……………?」
昨夜の事は夢だったんだろうか?などと首を傾げる天馬。
とりあえず朝食を取ろう、と、てほてほと下に階段を降りると。
「……おはよう」
「………………」
帝月が朝食の用意を整えていた。帝月だって、何度か此処に来て間取り等は頭に入っている。
帝月が此処に居るという事は。
昨夜の事は現実だという事で。
(うぁ〜〜////)
顔が赤くなる。
今日から寝るときが大変だろう。
(でもちょっと嬉しいかも……って、何考えてんだー!!)
「……今日、学校は休みだぞ」
悶える天馬に、ぼそ、と帝月が言う。
「へ?」
「警報がまだ出ている」
テレビ上部のテロップには、確かにこの地域の警報を告げている。
「そっか……ラッキーだな」
「そうだな」
今日も大好きな人と一緒に居られる、と、2人はそれぞれ思っていた。
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