帝月は余り夏に似合わない人物だと、きっと誰もが思う。
陽気にカンカンと照らす太陽と青い空よりは、木枯らしの吹く鉛色の空の下に居たほうが似合う。
それとはあまり関係ないと思うが、帝月は産まれてこの方近所の公園で行われる夏休みのラジオ体操に参加した試しがない。
学校によっては強制参加というか課題のようになっている所もあるようだが、帝月の学校はそうではなかった。まぁ、帝月なら仮にそうだとしても絶対に行かないだろうが。
どうもあの健康的な雰囲気の中には、自分は異質であると思ってしまう。決して自分を不健康だと思っている訳ではないのだが。
そんな経緯で、今年の帝月も、夏休みの朝は家に居るものだと本人だって思っていたのに。
夏休み、最初の朝。
「ミッチー!ラジオ体操行こうぜー!!」
そんな声が、玄関から聴こえた。
冬が似合う帝月に対象なのが天馬。容貌、笑顔からして「太陽みたいな」という形容詞がとても似合う、もっと言えば夏の申し子みたいな子だ。
夏と冬とどっちが強いかなんて定かではないが、とりあえず帝月は天馬に弱いので大人しくラジオ体操に連れて行かれた。
帝月、最後の歳にしてようやくラジオ体操デビューであった。
公園でラジオ体操第2を終え、スタンプを貰い家路に着く。初めて見るスタンプとカードに、なんともいえない気分の帝月だった。
「ミッチーさ、今まで来なかっただろ」
家知らなかったから解らなかったけど、と付け加える。
「来いよ、ちゃんと」
「あぁ、行く」
社交辞令でもなんでもなく、帝月は約束をする。
去年までとは違う。今は天馬が居るから。だから、絶対に行く。
「……そんでさ」
天馬はちょっと言い出しにくそうに。
「宿題、教えてくんないかなー。もう、算数とか訳解んねぇの!」
本当にお手上げなのか、眉を八の字に下げて訴える。
「別に、構わないが」
「やった!じゃ、荷物持ってくるから、ミッチーの家でやろ!」
典型的な日本家屋は、それだけ日本の気候に見合った作りになっている。即ち、過ごし易いという事だ。
エアコンからではない自然の風は、表皮を冷やすだけでなく、心も涼やかにさせてくれる。天馬が好むのも無理はなかった。
帝月はそれも快く承諾した。
帝月宅到着後、ちゃぶ台を出して早速勉強タイム。
「なぁ、ミッチー、つるかめ算でどうすりゃいいんだ?」
「簡単な公式があるんだ。それさえ覚えれば、何も難しい事はない」
うーん、と本当に唸りながら宿題をこなす天馬。
「お前の事だから、てっきり直前まで溜め込むものだと思っていたんだがな」
茶化すように言う帝月。天馬は数式と戦いながら言う。
「うん、だって、その時父ちゃん達いるか解らないし」
大概の子は親に泣き付くものだが、天馬にはその親がいない。夏休みの宿題は、自分でこなす。知らぬ間に見に着いた事だった。
天馬の家庭事情は知らない訳でもなかったので、野暮な事を訊いたな、と自分の失言を悔やむ帝月。
「でも今年はミッチーが居るから、頼もしいな」
へへ、と笑う。
「………違う」
天馬の言葉に、そう返した帝月。天馬が何か言おうとする前に。
「今年”から”だろ」
自分で言った言葉に照れてしまったのか、そっぽを向いている帝月。
天馬は、
「ありがと」
と、言った。
何とか今日の分のノルマを終え、そうしたら天馬が船を漕ぎ出した。
「眠いのか?」
「んー、昨日あんま寝てなくて……」
擦ろうとする手をやんわり止める。眼が傷つくからだ。
「調子でも悪かったのか?」
「じゃなくてさ……明日から夏休みだー!て思ってたら、中々寝れなくて……」
なんとも子供らしい事に、苦笑を漏らす帝月。
「ミッチー、ちょっと寝てていい……?」
「布団出すか」
「んーん、座布団枕でいい……」
ふにゃふにゃと眠気が本格的に襲ってきたのか、横になりながら発音が曖昧になる。
「おやすみー………」
最後にそう呟いて、寝入った。
庭の水撒きを済ました後、部屋に戻ってもまだ天馬は寝たままだった。
寝る子は育つ。関係あるのかないのか、そんな言葉が脳裏を過ぎった。
「……………」
特にする事もないので、天馬を見る事にした。起きている天馬はいつも動いていて、こんな風に大人しいのは本気で寝ている時しかない。
寝顔の天馬、なんて違う状況を呼び起こそうでちょっと危険なのだが。
それにしても無防備に寝るやつだ、とかなり至近距離から覗き込んでもぴくりともしない。
薄れたとは言っても、人には本能がある。危害を加えそうな者には、警戒する。
それをしないのは。
(信頼……してるから?)
危害は加えないと。安心しきって。
でも。
確かに、傷つけるような事はしないけど。
……こういう事なら。
「ん、」
さすがに唇の感覚には敏感になるのか、キスした時に天馬が身じろぐ。
起きるのは気にしないで、次々とキスをする。頬、額、首。
開いた襟から胸元へ。少しく、と引っ張り、膨らみ始めた所にも。
「ふぁ、ん……?」
止まない愛撫に、ようやく異変を感じ取った天馬が目を開いた。
が、まだ寝惚けているのか抵抗はしない。
「ミッチー……?ひゃ、」
服の裾を首までたくし上げ、露になった胸にいくつもキスをする。
「やぁ、?何……」
くすぐったいだけではない感触に、もう声が上擦る。
「今度、デパート行くぞ………」
「ん、ぇ……?」
胸に顔を埋めたまま、帝月が言う。
「この大きさで着けないのは、いい加減犯罪を呼ぶ……」
「だから、何………ッツ!」
足の付け根をつ、と擽られ。
その後来るだろう感覚に、身体の奥が熱くなる。
「あ……あっ」
つ、と潤いを呼ぶように何度か入り口を往復に指を滑らせた後、ぬる、と舌が這う。
「や、ダメ……ッ、それ、風呂入ってか、ら………あっ!」
なんとも思ってないというように、帝月の愛撫が続く。結局、いとも容易くイッてしまった。
快感に痺れた頭で、どれだけの大きさの声を上げたのかも、解らない。
「………は、………ふぅ」
「………天馬」
熱に濡れた声で呼ばれ、ぴくん、と反応する。
開けた眼は快楽で潤んでいた。
「少し、起き上がれるか……?」
「ん……」
まだぼぉっとする頭だが、身体を動かす事は出来る。
帝月に腕を引っ張ってもらい起き上がり。
そのまま、腰も上げて。
格好としては、向かい合って座る直前の姿勢だった。
何がしたんだろう、と、目の下の帝月を見ていたら。
「……腰を、」
降ろすようにと言われ。
「ッ!あっ!?」
丁度、解された箇所に、帝月のが当たる。
だから、このまま腰を降ろすとなると、つまり。
理解した天馬は、鎖骨まで真っ赤になった。
「ミ、ミ、ミ、ミッチー……」
「大丈夫だ。いつもと姿勢変えただけだろう」
「だ、だから!何で変えるんだよ!」
ようやく慣れた……ような気がするのに。また振り出しではないか。
「いや……何となく」
「何となく、て………ッ!」
絶頂を迎えたばかりの足腰は、いまいち力が入ってなくて。
無意識に下に落ちていたらしい。
僅かに入った事で、2人同時に息を詰まらす。
「、そのまま………」
「あ………」
このまま受け入れたらどうなるんだろう、という不安と、期待で胸がドキドキした。
もっと気持ちいいんだろうか、どうなんだろうか。
……どっちでもいいか。ミッチーとするなら、どっちでもいい。
肝心なのは、相手。
「ふぁ……くぅ、………」
「っ、………ん、」
自分で入れているせいか、入っているというのがはっきり解る。帝月が少し呻いたのも。
気持ちいいのかな……?
そう思った途端、中がじゅ、と熟れてより帝月を受け入れた。
だいぶ腰を降ろして、目線が帝月とほぼ同じになる。
「も、いい……?」
「いや、まだ……まだ、入る」
「あ………んっ」
最後は帝月の手で全部入れて。
深呼吸を繰り返すことで、少し落ち着こうとしたけど。
「…………」
無理だ。
目の前に大好きな人が居て。
その人のをはっきり受け入れてるのが解るのに。
「あっ………」
ひく、と帝月を包み込んでいる内壁が蠢く。自分で、それが解る。
「や、あ、あっ、あぁんっ!」
自覚した途端、止まらなくなった。
いつもされるのより、じれったい快楽。
堪らないのは、帝月の方だ。
「、天馬……っ、少し落ち着け……」
「む、り……んんッ!」
感覚ばかりでイケない事に我慢できなくなったのか、腰を自ら動かす天馬。くち、と粘着質な音がした。
「ふぁ……はっ、あん、んぅ……っ」
「天、馬………!」
帝月の手も、腰に添えられて、動きを促していた。その事が、何だか嬉しい。自分だけが求めてるんじゃない、って事が解って。
「ん、ぁ……ミッチー……す、きぃ………」
舌足らずになった声で、告げてみた。
と。
それにぴく、と肩を震わせたかと思うと。
「ッ、きゃぁッ!?」
ぐちゅ、と腰を引き落とされ、今まで届かなかった箇所にまで。
その衝撃に、身体を震わせていると。
「反則だぞ……」
一体何が反則なのか。
そう問いたかったけど、快楽を求めて、与えられているのでは、とても適わなかった。
夏休みの決まりには、こんな事項がある。
”朝10時までは外へ遊ばず、宿題をしましょう”。宿題は、朝、涼しいうちに効率的にしなさい、という事だ。
なのに、自分と来たら。
(えっちしちゃったよ〜〜〜〜!!)
頭抱えて悶絶する。
しかも思い返すと、色々とんでもない事をしてしまったように思う。いや確実にした。
自分から動いたり、好きだと言ったり。
(は、恥ずかしい----------!!)
顔から火が出るというけど、もしかしたら本当に出てるんじゃないか。それくらい、熱い。
とは言え、いつまでも悶々している場合ではない。此処は風呂だ。帝月は自分を先に入れてくれた。
さすがに今回は天馬も一緒に入るのはヤバイ、と感じたのか別々だ。一緒に入ったら、またしてしまいそうな雰囲気だからだ。
(でも………)
それもいいかな……
時間の許す限り、帝月を感じたい。愛し合ってみたい。
「……………」
そんな事を思ってしまって、ぬるめの筈の風呂が、のぼせるくらい熱く感じた。
<END>
|