オニキスとシトリンの睦言,15





「では、学級会を終わります」
 委員長の敬礼で、授業が終わる。が、その後皆は外へ遊びには行かず、教室で友達と話しこんでいる。
 前の黒板には、今度の学芸会で催される劇の配役が書かれていた。話題は勿論それだ。
 そんな中、天馬はコチーンと固まっている。
 キャスティングは、完全公正なくじ引きで行われた。最も、裏方に徹したいものと、役者になりたいものの区別はつけたが。
 派手な事が好きな天馬は、当然役者希望で、自分の名前を書いた紙をそれの箱の中に入れた。
 小人辺りでも当たればいいな、と思っていたのだが。
 なんと。
 天馬には、劇の主役----白雪姫が当たってしまった。
 それだけなら、まだいい。どころか、むしろ大喜びだっただろう。
 天馬を硬直させたのは、他のキャスティングにある。
 目の前の黒板は、ただただ現実を書き記してある。

『王子=帝月』

 と。




(どどどど、どうしよう………!!!)
 自分は姫で、相手は王子。
 飾り立てた装飾に身を包んだ恋人に、全校生徒が見ている舞台の上で愛を囁かれるのだ。
 考えただけで、顔が沸騰する。いやもうしているかも。
(オレ……劇なんて出来ねぇよぉぉぉ〜〜〜)
 しかし、異議申し立てをするにはもう遅い。授業は終わってしまった。
(どうしよう〜〜〜〜)
 頭を抱える天馬に、どん、と背中に衝撃。
 クラスメイトが、叩いたのだ。
「てっちん、主役だねー!!」
「頑張れってね!!!」
「あ、あははは………」
 もう、笑うしかない天馬だった。




 脚本はすでに担任が作っていたので、早速放課後練習となった。
 始めもいい所なので、流れを掴むだけの練習だったが。
「さぁ、白雪姫、こちらです」
 今は、木こりに誘われて城から逃げる所である。
 脚本片手に、話は進み、ついにこのシーンだ。
 ビニールシートを敷いた上に天馬が横たわり、小人役の者が周りでえーんえーんと泣いている。
 どきどきと強くなる鼓動。
 あまり足音はしない筈なのだが、帝月が自分に近づくのがはっきり解る。
 近くで、帝月と、小人Aと小人Bの会話。
「これはどうした事だ」
 帝月のセリフを聞いて、飛び上がる程に鼓動が撥ねた。
(で、この後………!!) 
 いくら天馬でも、白雪姫のストーリーくらいは知っている。
 毒リンゴを食べて倒れた姫は、王子のキスで息を吹き返すのだ。
 キス。
 キス、である。
 例え振りでも、平然としていられる訳も無い。
 何せ、大好きな人なのだから。
 会話が終わったら、いよいよキスシーンだ。
 帝月が、自分の上にそっと覆いかぶさる。
「美しい姫………どうか、目覚めておくれ」
(〜〜〜〜〜〜!!!!)
 こんな気障くさいセリフ、他のヤツだったら笑い飛ばせるのに。
 帝月だから。
「……てっちん、てっちん」
「おーい、マジ寝?」
「んぇ?」
 周りの声で起き上がる。
 どうやら、キスシーンはとっくに終わったみたいだ。
「ほら、次のセリフセリフ!」
「あ、あー、えと、『王子様?貴方が助けてくれたの?』」
「白雪姫……どうか、私の妻となって欲しい」
 どんな顔でこんなセリフ言ってるのかと思いきや、いつもどおりの顔で言っていた。
 ミッチーって、結構凄いかも、と思った天馬だ。
 帝月(王子)のプロポーズに、天馬(姫)がはいと頷き、そこで幕だ。
「こんな感じかー」
 監督に就任したクラスメイトが言った。ちなみに、脚本こそ担任だが、他演出、音楽、照明等の配役も決めてある。
「じゃ、今日はこの辺でね。明日から各シーン1個ずつ取り組んでいくから。
 演じてて、やりにくい事があったら言ってね」
「あ、さっそくいい?」
 天馬が挙手して言った。
「んとさ、キスした後、起きるタイミングは解んねーんだけど。目ぇ綴じてるし」
「あぁ、その事なら」
 大丈夫、と笑顔に乗せて言う。
「実際にはね、直後にBGMが流れるし、照明もキスのところで一旦落とされるから、付いた時が起き上がるタイミングよ。
 それだけで不安なら、2人だけで何か解る合図でも考えて」
 くれぐれも、観客に解らないようにね、と付け加える。
(2人だけ……)
 言った方には他意は無いのだろうけど。




 帰り道、2人で歩く。
 天馬が何か喋らないと、2人の間には沈黙しかない。
 しかし、天馬が不機嫌で黙っているのではないのは、その顔を見れば一目瞭然だった。だから、帝月もそのままにしている。
 そんなこんなで、天馬の家に着いた。
「んとさ、ミッチー………」
 ここで初めて天馬が言う。
「劇……頑張ろうな!!」
 言い捨てるように告げて、玄関を開ける。
 一歩波入った所で、
「天馬」
「何…………」
 天馬の足が、2歩分家の中に入り、帝月の足が一歩分家に入る。
 そうして、重なった唇。
「……演技は、難しいな」
 それは、演技が、というより、演技だけで済ます事が難しい、という意味だ。
「……、ミッチーのバカ!ずるい!!卑怯だ------!!!」
 真っ赤になった天馬は、帝月の背中に、そう叫んだ。




<END>





リクで内容は「帝天馬白雪姫」
前後編のつもりです。
多分、お互いがお互いにドキドキするよーな、そんな感じのお話です(笑)