オニキスとシトリンの睦言,12





 ふにり。
 擬音語にしたら、触った時の音はそんな感じだろうか。
 感触は……焼く前のパンの種とか、理科で作ったスライムみたいな、そんな具合。
 右手で左胸を何度か揉んで、天馬はふと廊下側の襖に目を向けた。
 すると。
「……………………」
 其処には、お茶と菓子を盆に乗せた帝月が、一体どうすれば、という表情のまま、突っ立っていた。
 いや、佇んでいたというか、立ったまま固まっていたというか。
 何せ、音も殆ど立てず、開けた襖の向こうで、天馬が自分で自分の胸を触っていたのだから。
 思わず、そういう場面に遭遇してしまったのだろうか、と其処で思考はストップ。
 目だけは、相変わらず何だか悩ましげな表情で胸を揉んでいる天馬を映し、意識が帰って来たのは、
「うわぁッ!?ミミミ、ミッチー!!?」
 帝月を見て、慌てた天馬の声だった。
 どうすればいいのか解らないが、立っていて事態が好転する訳もないだろう。
 黙り、後ろ手で開けっ放しだった襖を閉め、不自然にならない振る舞いで机にお碗や皿を並べる。
 その一挙一動を、天馬はひたすら凝視していた。
「……ミッチー、見た?」
 何を、とは愚問で。
 あれだけ自分が立っている所を見られて、その上でしらばっくれるだなんて、出来る筈も無い。
 言葉にも出せないので、首を立てに振る事で答えた。
 ぼ、と天馬が赤くなる。
「……あ、あのさ」
 天馬が自分で言い出した。
「する時、ミッチー胸よく触るから、何か気持ち良いのかな、って」
「っ、………ッツ!!!」
 自然さを振舞う為にお茶を飲んだりしたのが悪かった。
 タイミングがあと少しずれてたら、気管支に流れてて、大惨事なる所だった。
「、何を、お前は………」
 ひと呼吸置いて、帝月は問う。
 天馬の事を知らなければ、上のセリフはどう見ても誘ってるようにしか思えない。
「だって………」
 自分でも馬鹿な事をしたな、と思っているのか、顔を真っ赤にし、普段の天馬から想像もつかない消え入りそうな声で言った。俯いている顔は、涙が浮かんでいるのかもしれない。
 まぁ、そんな状態の天馬だが、菓子だけはもそもそと食べている。何だかんだで天馬だ。
「……そんなに、僕は触ってるか」
 帝月がふとそんな事を訊いてきた。
 そろそろと上げた顔で、見れたのは真っ赤な帝月。
「んー、オレ、してる時途中から何かよく解らなくなっちまうけど……思い出すと、ミッチー、そればっかりしてるような気がすんだ」
「………………」
 そんなに自分は触っていたのだろうか、と自己嫌悪とも羞恥とも取れない感情が押し寄せる。
 溜息のようなものを吐いた帝月は、少し移動して、向かいに座っている天馬の横に来た。
 何?と円らな瞳を向ける天馬に、そっと顔を近づける。
 そして、そっと重なる唇。
 ふにゃ、と天馬が表情を崩して赤くなる。
「……ミ、」
「気持ち良い」
 天馬が何か言いかけたが、それを聞く余裕は無かった。
 先ほどの口付け以上に優しく、そっと胸に触れる。ごく近くの天馬が小さく震えた。
「此処……触るのは、好きだ。柔らかくて、気持ちがいい。
 でも、天馬だからだ。他のヤツのは……どうでもいい。興味も無い」
 いつまでも離れない手を意識した天馬は、ふ、と吐息とも解らないものを口から零した。なりそこねの、嬌声だったのかもしれない。
 置いた手は、さっき天馬も触っていた左胸。
 鼓動がどんどん速くなっていく。
 目に、水の膜が張ってきた。赤い頬も、先ほどとは違う艶かしさがあった。
「どうした………?」
 触ってるだけだぞ、と少し意地悪をしてみる。
「ぅー………」
 ふるふる、と何かを否定したいみたいに、首を振る。無意識かもしれない、後ろに仰け反った上半身。背中に手を回して、退路を断った。
「やッ!」
 感触を確かめるみたいに、軽く押すと、天馬が反応する。
 とす、とやんわりと横にされ、耳元で帝月が囁く。
「……直接触っていいか……?」
「……っ!」
 唇を耳にくっ付けて、囁く。
 その振動で、一つ涙が落ちた。それを舌で拭う帝月。
「ん…………」
 ほぅ、と溜まった熱を、息で吐き出す。
「うん、ミッチーになら、オレも触られていいや」
 にこ、と熱を湛えた目で、にこりと無邪気に笑う。
 そんな風な無垢に笑われると、帝月としては非常に困ってしまう。それは、やっぱりほんの少しの罪悪感があるからかもしれない。
 早く、天馬と身体を繋げたかった。他の誰よりも早く、他の誰にも先に。
 これから先、自分と違う誰かを相手にしても、自分を思い出すように、と。
 そんな薄暗い独占欲に、太刀打ちできなかった事への、罪悪感。
 それでも。
「ミッチー?」
 何もしてこない帝月を訝んで、天馬が額にそっと手を当てる。
 それでも、天馬もこうやって、自分を求めてくれるから。
 さっきの事だって、都合の良い推測かもしれないが、もしかして、もっと自分が好む身体になろうと、色々画策していたのではないだろうか。
「熱なんか、無い」
 その手を取って、それにも軽くキス。
 それを始めに、至る所にキスをして。
 もちろん、胸にもキスをして。
「ミ、ッチー………」
 息が上がり始めた天馬。
 後で言うのも何だし、かと言って最中は訳が判らなくなってしまうから。
「あのな……オレも、」
 ミッチーに胸触られるの、スキ。
「だから、一杯触っていーぞ」
 にこり、と笑顔。
「……………」
 ……誘ってるんだか、どうなんだか………
 明け透けに強請る天馬に、帝月は暫く耐えなければならなかった。




<END>





やっぱ女体化の意義は乳房と生理だと思うんスよね(はっきり言ったヨ!!)

生理ネタはまた今度書こう。
すっかり乳揉み魔扱いのミッチーですが、あくまで天馬にだけですので!
他の子には一切興味ナシ!それもどうだオマエ!!

てっちんは天然誘い受けやなー。ともすれば攻めになりそうや……
まぁ、表の作品群に関しては、殆どどっちが攻め受けなんてどうでもいい話ばかりなんですが(キスもしてないんですよ奥さん!!)
その分ミッチーさんには此処でしゃかりきになってもらいましょう!!