「へへー、ミッチーの家だ」
伝統的な日本家屋の前に、ほにゃ、と笑う天馬。
それを、何とも複雑な顔で見る帝月。
(……コイツ、忘れてる訳じゃないよな)
自分達が此処に来たのは、偏に。
……しに来たのだ。
だから、まぁ、此処に来て嬉しそうにしているというのは、……そういう事だと取れなくもないので、帝月は大変困ってしまうのだった。
「ミッチー、早く行こうぜ」
何故だか横を向いて突っ立ってしまった帝月の腕を引き、促す天馬。
本当にこいつ忘れてる訳じゃないよな、と帝月はまた思った。
天馬が忘れてるのでは、というのは帝月の見当違いだった。
家に入ってから、天馬の挙動が可笑しい……というのは、まぁ、言いすぎだが。
とにかく、落ち着いてないのは確かだ。
「……っと」
何と切り出していいものか、悩んでいるのかが手に取るように解る。
解りやすい天馬に、思わず噴出してしまった帝月で。
「……んだよー」
む、と頬を隠して、上目遣いで睨む。可愛いとしか、自分には思えない。
「天馬」
と、呼びかけ、吐息が感じられる程に顔を寄せる。
(わ、)
端整な顔を間近で見た途端、先ほど感じた些細な怒りは消し飛んだ。
唇に感触を感じてから、目を綴じた。
キスを繰り返しながら、帝月は考える。
畳の上直に寝転ばせるのは、背中が痛いだろう。動くし。
やはり、布団を敷いた方がいいのだろう。
ちゅ、と最後にキスをして、天馬からそっと離れる。
「…………」
少し瞳を揺らす天馬に、布団を敷くから、と告げる。
寝る訳でないから、敷布団だけでいい。
どさり、と畳の上に落として広げた。その上に、天馬がそろそろと入ってくる。
ちょこんと敷き布団の上に座る天馬。そして、自分が乗ってもまだあまる布団の敷地に、自分達が子供なのだと思い知る。
だけど。
もう一度、キスから始めてゆっくりと横たわらせる。
知っている事の最大限で、相手を愛したい。それに、大人と子供に違いが出るのだろうか。
多分無いだろうな、と帝月は思っていた。
「んっ、ん……ぁ、っん」
胸を絶え間なく触られ、断続的に声が跳ね上がる。
「み、っちぃー……や、んん」
くちゅ、と先端を口に含まれ、頭を振る天馬。
「な、んで……其処、ばっかぁー……あッ!」
「柔らかくて、気持ちいいんだ」
少し顔を離し、あっさりいいのける帝月。離れているのに、話す空気の振動が皮膚に伝わってるようで。
もう、全身、帝月に過敏になっている。
何も身に着けてない身体を伝う、吐息に指に。
「あ、」
ひく、と違う箇所からの刺激に、喉が引きつる。
「……………っ!」
自分でも知らない箇所だ。理屈ではない羞恥や不安等が胸を締める。
しかし、それも帝月が平気か?と尋ねるだけで氷解してしまうから、不思議だ。拒んでしまったらどうしよう、なんて思ってしまう自分が、いっそ滑稽だ。
胸への刺激もあって、程なくして濡れた音が耳に届く。
かぁ、と身体の奥から熱くなって、それがまた内と帝月の指を濡らした。
「はっ……はぁっ、ぁッ!んんッ!!んーッ!」
一定の快楽が溜まったら、そこからじわじわと急き立てたれるような感覚に見舞われる。
きゅう、と帝月の指を締め付けてしまっているのが、解った。
「……イクか?」
そう、帝月で耳元で囁かれたと同時に、達した。
かくん、と力が抜けて、篭った熱も大分引く。
「…………は、ふ」
脱力感と一緒に身体を満たす何か。これが気持ちいいって事なのかな、と中身はまだまだ子供の天馬は、こうして覚えていく。
「天馬……立てるか?」
「ん………?」
「シャワー、浴びた方がいい」
「……ぇ、もう、終わり?」
時間が経って、少し頭もはっきりした天馬。
だって、前は、もっと。
「明日は学校があるからな」
だから、今日はこれで終わり。頬を優しく撫でて言う。
「んー、でも、オレ、平気だぜ?」
体力あるし、2回目だから初めての時より精神的負担は少ないと思うし。
けれど、帝月は。
「無理は、させたくないんだ」
大事だから、と言外に言う。
「それに、あまいり余裕無くやってもな……こういう事は、ゆっくりしたい」
「ぅ……ん」
そう言われてしまっては、天馬も意を唱える事も無い。
そんなに大事にされた事も少ない天馬は、ただ顔を真っ赤に俯いてしまった。
親からのとは、全然違う。こんなに困ったりはしないし、こんなに甘くもないから。
軽く上に浴衣を着せてもらい、浴室へ向かう2人。
こんな時、天馬を横抱きに出来たらいいのに、と切に思う帝月であった。腕を組むとも、手を繋ぐとも言えない、はっきりしているのは2人の身体は密着しているという事。
少し歩きにくいかもしれないが、力がちょっと抜けている天馬は、こうして凭れて歩く方がいい。
シャワーを浴びてさっぱりしら、天馬は休ませ、自分は自己処理を済ます。上手い言い訳が思う浮かばなくて少し困ったが。正直に全部話せば、だったら最後までしよう、と、天馬は言うに決まってるから。
自分だって本当はしたかったのだが……何せ、明日は、そう、学校があるのだ。
前、一日の間を持たせて計画したのだが、それでもその後の学校で、天馬は少し余韻を引きずっているようで。
普段には無い色気を垣間見せていた。
自分達がまだ子供で良かったと思うのはこんな時で。
周りも子供だから、天馬がいつもと違うのは解るが、それがどういうものかまでは解らない。
何より、情事後の天馬の色香に惑う事も無い。
しかし……
それも後、最高で3年くらいだろう。
その時の事を、考えてしまうのは、杞憂だろうか。
今、自分達は12歳。婚姻が出来るのは、女子は16だが男子は18だ。
この違いが、今は恨めしい。男も16で出来ればいいのに。
事を済まし、部屋へ戻れば、天馬が庭を見ている。
単にそれだけの表情なのだが、熱をまだ溜めている双眸が、艶かしい。
恋をすると綺麗になる。
そんな陳腐なセリフが、身に染みる。
「あ、ミッチー、お帰り」
別に家を出た訳じゃないし、何よりしてきたことを考えると、非常に複雑な挨拶だ。
「晩飯、何にしようか」
明日の準備も持ってきたから、今日は帝月邸でお泊り。
今はまだ”お泊まり”だが。
これが、早く”日常”になって欲しいと願う帝月だった。
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