オニキスとシトリンの睦言,10





 1週間前、だ。
 その日、自分は帝月の家へ泊まり、そして。
「……………」
 顔を真っ赤にし、うに〜と顔を崩す天馬。
 その日から、こんな無意味な反復行動を、夜、布団に入っては繰り返す。
 昼は……まだ、いいのだが、夜となると。ましてや、布団の中となると。
 シチュエーションが被るせいで、記憶がより鮮明になるのだった。
「………ぷは」
 いつの間にか、布団に潜ってしまっていた天馬は、息苦しさを覚え、顔を出す。
 最初の頃は、こうして悶々としていても、その内寝入ってしまうのだが。
 最近は。
 ん〜と、眉間に軽く皺を寄せて、天馬は考える。
(次は、いつすんのかなぁ……)
 と。
 
(……しよう、って言われたら、どうしよう……)
 ドキドキし始めた鼓動から逃げるように、布団に潜ったが、それは自分の中から出ているものだから、逃げようがなかった。




「天馬」
 身体を繋げた日から、特に劇的な変化は見られないが、こうしてちょくちょく、帝月は天馬に声をかける様になった。人気の無い所で、だが。
「今度、お前の家に行ってもいいか?」
「え、えぇぇえっ!?」
 人気の無い廊下で、天馬の声が響く。
(ど、どーしよ………)
 ついに来た、というか。
 家に来る、ていう事は。
 つまり。
(……そーゆー事だよな)
 帝月が何処かへ一緒に行きたいというのが、デートしたいという事なら。
 どちらかの家に行きたいというのは。
 やっぱり。
 ……やっぱりなんだろう。
 目の前の、帝月は、予想以上に大きい天馬の反応に、少々面食らっている様子だった。
「だめなのか?」
 別にそれでも構わないのだが。帝月はそう言う。
 が、天馬の耳にはあまり入っていない。
 ここで頷いたら。
 ここで、頷いたら。
「……………」
「……天馬?」
「………いい」
 どうにか聴こえる声で、言った。
「ん?」
「来、ていいって!何時来る?」
 俯いてしまった顔をぱ、っと上げ、明るく聞く。
「? それじゃ、今度の土曜日」
「うん、解った。土曜日な!」
 と、言うやいなや、天馬は走っていった。
 どうも情緒不安定な天馬に、帝月は首を傾げた。




 土曜日。……土曜日!
(土曜日って事は、明後日かぁぁ〜)
 天馬にとって、恒例になりつつある布団での赤面現象。
 今回が、一番凄い。やはり、日取りがきちんとわかったせいだろう。
 明後日。明日が来たら、もう次の日だ。当たり前だが。
(あっという間だなー。
 何か、早く来て欲しくないような、来て欲しいような……)
 そこまで思って、ん?と思いとどまった。
 早く来て欲しい、って事は。
 早く帝月とえっちしたい、って事になるのでは。
(ちちちち、違う違う!そんなんじゃねーもん!オレ、そんな、そんな………)
 でも、あの日から、次はいつするんだろう、って事ばかり考えて。
 それは、断る事を考えていたのではなく。
 待ちわびていたんだろう。
(……………)
 そう、自覚した途端、ドキドキと奏でる鼓動が、帝月に抱かれていた時のものと酷似する。
 本人は知らないが、目も潤んでいて。
 天馬がもう少し大人になったら、今の自分の状態が、帝月を欲しているのだと解るだろうけど。
 まだ子供なので。
 何か身体熱ぃな、とだけしか、思わなかった。




 そして、当日。
「来たぞ」 
 ドアを開け、出てきたのはそんな素っ気無い挨拶で。
 いつもならもっと愛想良くしろよなーと軽口の1つでも出す天馬だが。
「いらっしゃい」
 えへへ、といつもの笑顔を作るので精一杯だ。
 いくらなんでも、あからさまに夜の事を意識していると思われては。
 そうして、何処へ行くでもなく、2人きりで過ごした。
 天馬が他愛ない事を話し、帝月がそれに相槌を打ったり。
 両親の今まで行った所のレポートを何となく見せた所、結構帝月の興味を引いたらしい。
 今度帰ったら会わせてやろうか、と言ったら、何だか少し固まってた。
 そんなのんびりとした時間が過ぎ、時刻は夕方を少し過ぎた。
 帝月の口から、思いがけない一言が飛び出る。
「……それでは、そろそろ帰る」
「えっ!?」
 帰る……って?
「泊まるんじゃ………」
「? いや?そのつもりじゃなかったが?」
 まぁ、確かに泊まるとは一言も言ってなかったが。
 けど。
「じゃ、何でオレの家来たい、って」
「ゆっくりお前の顔が見たかったからな」
 学校では、天馬と帝月はあまり会わない……というか、率先して近寄る事も無い。
 天馬は何となく気恥ずかしいからで、帝月もそんな天馬の気持ちが解っているので、あえてそのままにしている。たまに、放課後居残った時とか、どちからが用がある時、人気の無い廊下で呼び出す事はあるが。
 下校はいつも一緒だが、それも10分足らずの短い間だ。
「……顔、見るだけ?」
 哀しそうに、切なそうに。そういう言う天馬。
「…………?」
 ここしばらく、天馬の様子が可笑しい。此処に来た時も、心ここに在らず、な態度を取っていると思えば、過敏に自分の行動やセリフに反応したり。
 それはやっぱり、この前抱いたからだろう、と思っていたのだが。
 いや、それも理由だろうけど。
 どうも、自分が考えているのとは、違うような………
 天馬は、なんでもない、と顔を俯かせてしまった。
「天馬」
 と、帝月は天馬の肩を抱く。
「何があっても、僕がお前を嫌う事は無い。絶対にだ」
「……………」
 見上げた顔が、本当?と聞いていた。
 帝月は、頷いてみせた。
 天馬は、顔を染め上げて、言う。
「あ……のさ。えっちな事、もうしねぇの?」
 無垢な表情と、言ってる内容のギャップに、帝月は沈みそうになる。……というか、もうこのまま押し倒して事に運んでしまいたい。
「ミッチー?」
 今度は、帝月が俯いてしまった。
 大丈夫だ、大丈夫だ、と色んな意味でそう言って、顔の熱さをどうにか押さえ込んでから、顔を上げた。
「何時から、そう思っていたんだ?」
 天馬は、う、と小さく喉を詰まらせたが、先ほどの帝月のセリフが効いているのか、素直に答えてくれた。
「んー……多分、前した時からだと思う………」
 最初の頃はどういうつもりだったのかは解らないが、ずっとその事ばかりを考えていたのだから、きっとそうだろう。
「そうか」
「…………」
 至近距離の天馬の双眸は、熱を含んで潤んでいて。
「だったら、僕と同じだな」
 今はキスだけだ、と、帝月は必死に自分を自制した。




 そして、夜。
 この場合、便利なのだろうが……帝月は、天馬とそう大差は無い。だから、パジャマの貸し借りも出来てしまう。
 天馬のパジャマを、複雑な思いで着る帝月。
 天馬は、すでに風呂に入っていて、自室で待っている。
 布団を敷く時、「一組でいい?」のセリフでまた我を見失いそうになったが。
 カラ、と襖を開けると、何故だか体操座りで待っていた天馬。
 何をしていれば良いのか、解らなかったんだろう。
「天馬」
「んっ………」
 呼びかけた後、返事も待たずに口付ける。
 それに応えたのを、肯定と受け取った。
「………ぁ」
 ぽふ、と布団の上に横にさせ、上着のボタン一つ一つを外していく。
 熱くなった身体に、外の空気はそれだけで冷たい。
 ひんやりとする部分が多くなるという事は、それだけの分を、帝月の前に晒している。
 ボタンは、残す所あと2つ。
 ……全部、外された。
 パジャマなのだから、当然、下には何も無い。
「ふ、あ、ぁ……あ、んっ」
 前と同じように、胸への愛撫から始まった。
 形を唇で辿ってから、突起を口に含んで、舌で転がしていく。片方は、その細い指で。
「ん、ん……やぁ、あッ!」
 口の中で抑えようとする嬌声が聞きたくて、少し噛む。
 いきなりの痛みにびっくりしている隙を狙って、下着の中に手を滑り込ませる。
「あぁッ!……んー……ん、んッ!」
 濡れている箇所を撫でる度、薄い腹部が撥ねる。
 自分の甲高い声に驚いたのか、さっきより必死に声を押さえ込む天馬。
「…………!!」
 くちゅ、と指先を潜り込ませると、震えて反り返る身体。
 その耳に、声が聞きたいと、自分でも解る熱っぽい声で言う。
「…………」
 瞬きする、潤んだ瞳が、何でそんなものが聞きたいのかと訴える。
 帝月は、それに微笑んで、
「……可愛いから」
 そう言う。
「…………」
 口元を頑固に押さえていた手が、ゆっくり外される。
「好きだ、……全部」
 だから、晒して欲しい。
「ん、ミッチー………」
 ちゅ、と遊ぶようなキスを繰り返す。
 天馬も、解れてきたようで、これから、という所で。
 隣の家からの、犬の声がした。
 帝月は、煩いなくらいにしか思わなかったのだが。
 天馬は、何かに弾かれたみたいに、帝月を押しのけた。
「天馬………?」
「や、やだ!ミッチーの家じゃないと!!」
「何故……」
「だって!隣に家あんだもん!声、聴こえるかもしんねぇじゃん……!!」
 そんな事があったら、生けていけないと、泣き出す直前の天馬。
「……………」
 多分、家人には聴こえないと思うが……という意見は、今の天馬には届かなそうだ。
 帝月は、悩んだ。
 このまま強引に進めて、天馬を何も解らない状態にしてしまうか、大人しく引き下がるか。
 ……引き下がった方が、いいだろうな。
 自分は、この行為を単なる性欲処理では無く、愛を深めるものだと思うから。相手が嫌なら、止める。
 しかし、天馬は行為自体は嫌いではないのだから。
「じゃぁ、明日僕の家に行くか?」
「うん」
 こく、と頷く天馬。ほ、っと胸を撫で下ろす。
 そのまま、途中だったのに、天馬は安心したせいか、おやすみ、と返事をして寝てしまった天馬。
 何だかんだで子供だから、熱が篭る事がまだ無いらしい……と、いうか多分解ってないんだろう。
 知らない事は、ある意味、無い事と一緒だ。
 でも、帝月の方は。
 はっきりした形で残るから。
「…………」
 寝ている天馬を起こさないそうに、こっそり抜け出した。




<END……?>





そんな訳で時夜サマのリク、「いつえっちするんだろうとドキドキするてっちん」
うーん、あんまりドキドキしてなかったかな?

いくらなんでも、帝月さんが生殺しなんで、続きを書いてあげようと思います。
やっぱりえっちは彼氏の家でですかてっちん。