カイ達が通う学園は、男女それぞれ2タイプの制服から選べるのが魅力だ。
しかも、両方ともデザインが良いので、確実に制服目当てで来ている生徒も少なくない。
まぁ、カイは当然爆目当てで居るのだが。
制服の選択は、カイは詰襟で爆がブレザー。ハヤテがスーツでデッドがセーラー服。
「……オレも、デッドみたいにセーラー服にすれば良かった……」
夏の暑さに、爆がそう零す。
確かに、きちっとボタンを止めないとならないブラウスより、胸元が開いているセーラー服の方が涼しそうに見える。特に爆は、ハヤテみたいに鎖骨辺りまでボタンを外す、なんて事はしないから。
「爆は、何でブレザーにしたんだ?」
ふと、ハヤテが聞く。爆には、まだあまり「お洒落」という概念が無いのは、付き合うと解る事。
「それは…………」
もごもごと口ごもる爆。
代わりに、カイが言った。
「……もしかして、私がブレザーの方がいいと言ったからですか?」
「っ、」
言葉を詰まらせ、紙パックのジュースを飲む事に専念した。その隣のカイは、ぶっ飛ばしたくなる程幸せそうだ。
「デッドは、何でそっちにしたんだ?」
ハヤテが今度はデッドに言う。最も、爆に言ったのは前振りで、むしろこっちが本命なのかもしれない。
「ブレザーのスカートは赤系ですから。僕には、余り似合わないんです」
セーラー服は、スカートは紺色である。ブレザーも、男女共上は紺だか、下がデッドが言った通り、女子は赤、男子は濃緑となっている。ちなみに詰襟は黒とダークブルーがある。カイは黒だ。
「そうかなぁ……お前、赤色もいけると思うぜ?」
「別に貴方の好みに合わせる必要は無いですから」
見事な程の切られっぷりだ。
「なぁ、やっぱりセーラー服の方が涼しいか?」
「うーん……僕もブレザー着た事が無いので、比較のしようがないですね……」
少し苦笑して答えるデッドは、ハヤテの時とは問題にならないくらいに優しいかつ丁寧だ。
「でしたら、いっそ交換してみてはどうですか?」
カイがそんな事を言い出した。
え、と2人が顔を見合す。
「面白そーじゃねぇか。サイズ、そんなに違わねぇだろ?」
ハヤテも言い出す。
今、見えない場所で「ハヤテ殿もデッド殿ブレザー、見たいでしょ?見たいでしょ?」「当たり前だろぉー!!」てなやり取りがされている。
「んー………そう、だな。少し、セーラー服、着てみたいな」
そんな事に露とも気づかない爆は、結構乗り気だった。
爆がそう言うのだから、デッドは反対する事も無い。
「まぁ、いいですよ」
よっしゃ。カイとハヤテがガッツポーズをする。
「じゃ、私の家へ行きましょう。一番近いですから」
そして、4人は同じ方向へ歩き出した。
隣の部屋で、2人が着替えをしているのだ。
残された2人、即ちカイとハヤテは落ち着かない。そわそわ、という音がぴったりだ。
「……そう言えば」
「何ですか?」
そんな中、ハヤテがカイに向けて言う。
「お前……いや、何でもない」
どうして、爆の制服、ブレザーがいいと言ったのか、と訊こうと思ったのだが。
どうせボタン外すのが楽しいとか、そんな答えが返ってくるに決まってるから。
と、ガチャと戸が開いた。
何か落ち着かないのか、歩くのも少しぎこちなく2人が入ってきた。
ブレザーなデッドに、セーラー服の爆。
おおおお〜と感嘆の声が上がった。
「……あんまり、首元涼しくないな」
自分の鎖骨を覗き込むような爆に、カイがはぅ、となる。
「生地も、少しそっちの方が厚いですね」
ブラウスの裾を引っ張るデッドに、ハヤテがくは、となる。
「……何、鬱陶しいことしてるんですか?」
呪術アイテムを出してきたデッドに、2人がどひゃ、となる。
「と、言うか、デッド……スカート、短くないか?」
デッドは長いソックスを履いているせいか、そんな感じはさせなかたのだが、確かに爆が履くと、短い。太腿も見える。
何か拾おうとして、ちょっと屈めば下着が見えてしまいそうだ。
「スカートが、足に纏わりつく感触が嫌なものですので」
「そうか………」
見えてしまうかどうかが気になるのか、足をぴったり閉じて、スカートを足に押さえつける爆。借り物だから、伸ばしてはいけないと努力している。
「じゃ、もう着替えますか」
「そうする……」
そう言った爆に、不満の声を上げたのは、勿論というか、カイだ。
「えーっ、もう少しそのままで居て下さいよ」
「もう十分見ただろうが!」
何が不満だ!と余程短いのが気になるのか、顔を赤くして言う。
「見てるだけじゃないですか。今日は、気分を変えて、その格好でゲフゴ!!!」
「さ、爆君、着替えに行きましょうね」
さらりと涼しげな顔をしているデッドは、今しがたカイに回し蹴りを食らわせたばかりだ。心配無用。デッドはちゃんとインナーを履いていらっしゃる。
セリフ途中でカイが沈んだので、幼い爆は、カイの言おうとした意味が掴めなかったらしい。あどけない顔で、蹴りを出したデッドをきょとんとしている。
それでも、カイに何をするんだ!と言わないのは、デッドは理由もなく攻撃はしないと信用しているから他ならない。
カイが復活した時、当然2人は着替え中だ。赴けば本気でこの世から亡くなる可能性大だ。
「ち、セーラー服の爆殿が………!!!」
「お前、本気で悔しがるなよ」
どうしていいか解らないハヤテである。
「でも、何だな。こーして服気がえっこなんて、姉妹みたいで微笑ましいなぁー」
ふと、そんな事を言ってみた。
「私とハヤテ殿だと、ちょっと出来ませんね」
「何だよ、背はあんま変わんねーだろ」
「いや、体格が。多分、私がハヤテ殿の服着ると、きついと思います」
「わー、腹立つなぁー」
ハヤテは将来、当然デッドと一緒に居たいと思う。
そして、傍に爆と、不本意だが、カイも居たらな、と思う。
好きな物を、小さく沢山。お子様ランチみたいな。
いつまでも、特に約束も交わさず、勝手に集まるような仲で居て欲しいなんて、夢もいい所だろうか。
「やっぱり、自分のが落ち着くな」
「でも、セーラー服の爆君も、可愛かったですよ」
2人が戻ってきた。
……今は、まだ照れくさくて言えないけど、卒業間近になったら、言ってみようか。
皆おんなじ思いだったら、実現可能だよな?
少し将来を考え始めたハヤテの目の前。
爆に抱きついたカイがデッドに吹っ飛ばされた。
(………やっぱり、こいつと一緒、ってのはちょっと嫌かも)
ハヤテ、まだまだ未来を手探り中であった。
<終わり>
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