バレンシアエブリディ3





 夏だ。
 ……夏なのだ。
 窓から差し込む燦々とした太陽を浴び、カイは活気で陽気な季節柄に合わず、黄昏た顔をしていた。
「あーッ!ちぃなオイ!」
 ざーと前の席のハヤテの手により、カーテンが引かれる。
「あ……ハヤテ殿」
「あ、じゃねぇよ。何ぼけーっとしてんだよ」
「いえ、夏だなぁ、と思いまして………」
 そうして、ずぶずぶと机に沈んでいくカイ。
 ハヤテは、紙パックのジュースをぢゅずーと啜りながら言った。
「まー、何ごちゃごちゃ考えてるか知んねーけどよ、5時限目はプールだから水浴びてシャキっとしな」
 その言葉に、カイがピクっと反応した。
「確か中等部も今日明日がプール開きだよな。お、ちょーど出てきたらしき下級生共が………」
 この教室からプールは見えないが、渡り廊下は見える。
 ん?、とハヤテはその中に爆を見つけたような気がした。
 それが確かに爆だとハヤテが解ったのは、カイの、プール上がりで水を滴らせてる爆殿を俺より先に見るんじゃねぇと一人称すら変えて飛んできた拳によるものだった。




 5時限目がプールなので、昼放課中にさくっと着替えを済ませた2人。
「ハヤテ殿はいいですよね、デッド殿の水着姿が見れるんですから……」
「や、でも、そーゆー目で見たと気取られたら後で呪われるんだぜ」
 右目周りに痣が出来たハヤテと左頬に痣が出来たカイ(あの後少し乱闘騒ぎに進展した模様)はプールサイドで語り合う。
「それは私もですよ。条件が同じなら、視界の片隅でも目に入れられるハヤテ殿の方が恵まれてます!!」
 そーいやさっきカイが廊下で見事に転倒したのは、やっぱりデッドが関与しているんだろうか。
「何を馬鹿な事を言い合ってるんですか。恥を知りなさい」
 デッドが、呆れて堪らないので何処かへ失せてくれないかと言わんばかりな雰囲気でハヤテ達に言いかけた。
 スレンダーな体躯が水着一枚でしか隠されてないのかと思うと、ハヤテの目が泳ぎまくる。
「あぁ、デッド殿。先日は爆殿の下着選びご苦労様でした」
 にこり、と傍目見れば人の良さそうな笑みで言う。
 しかし、中身までそうでないのは、話の内容からして丸解りだ。
「いえいえ、大切な親友ですから、当たり前ですよ」
 にこり、と傍目見れば清楚な微笑を浮かべるデッド。
 しかし、中身までそうでないのは、手にした藁人形で丸解りだ。……つーかプールに不必要な物を持ってきてはいけませんよ、姉さん。
 にこにこ、にこにこと笑いあう2人。
 ハヤテはそんな空間から一刻も早く精神の保護の為立ち去りたいのだが、その足は金縛りにあったように……否、2人の瘴気で、本当に金縛りだったのかもしれなかった。
 今日はど晴れで絶好のプール日和。
 なのに、何で此処だけ空気が澱んでるんだ、と青空に語り掛けたいハヤテであった。





「爆殿、夏休みは海かプールに行きましょう!でもって水着も一緒に選びましょうね!!!」
「解った解った………」
 3回目くらいのセリフに、爆はおざなりに返した。3回目だが、そのテンションはちっとも下がらない。それどころか、むしろ上がってるようだった。
「そー言えば爆殿、どんな下着をぐはッ!!」
「公道でそんな事を口走るなッ!!!」
 スピードの乗ったパンチがボディに響いた。
 カイは痛みを堪えながら、ま、暫くしたら見れるからいいか、と思い直した。
「……でも、爆殿」
 我ながらしつこいとは思うけども。
「海、行きましょうね」
「……解ってる」
 ふん、と顔を背けるのは照れてる証拠だ。
「と、言う事は旅行先は、海にするのか?」
 爆はそう問いかけた。
「いえ、それとはまた別の話で。日帰りなら旅費はあまり要りませんしね」
 あー、でも水着代が要るなーと頭の中で電卓を弾くカイだ。
「じゃ、皆の都合もまた聞かないとな」
「んー、私としては爆殿と2人きりがいいなー、とか」
 と、えへ、と無邪気だか邪気たっぷりだか解らない笑顔をした。
 しかし、爆は。
「……それは、少し無理なんじゃないか、と……」
「え、どうしでです?」
「……お前、自分の師匠の事を忘れたか」
「………………」
 カイの師匠の激さんは、生後間もない爆に口ちゅーをしてしまったので爆のお父さんからそらもー恨まれてます。
「皆と一緒ならいいだろうけど……2人きりとなると」
 難しいかも、と爆は言う。
「誰かにアリバイ工作を頼むとか」
 これならどうだと人差し指をピっと立てるカイ。
「なるべく、親に秘密は作りたくない………」
 少し陰を落として、爆は言った。
 まぁ。確かに。
 爆はカイの事で十分秘密を一杯持っている。
 その気持ちは解るし、何より生半可なアリバイ工作でデッドを欺けるとは思えない。
「……じゃ、また皆で計画立てますか」
 カイの言葉に、爆は伏せていた顔を上げる。
 気落ちしたのを隠して明るく言った甲斐があったもんだ。
「それにですね、私、爆殿と2人きりも諦めてませんよ?」
 今がだめでも先があるし、両親に認めて貰えるかもしれないし。
「めげませんよ、私はー!!!」
「……何を滾ってるんだか」
 爆は溜息をついた。
 こっそり、微笑を浮かべて。




「そんな訳でめげませんからね、私は!!!!」
「あーっはっはっは、マジ面白ぇー」
「バラエティ番組見ながら人の一大決心聞き流さないで下さい!」
 腹かかけて笑う激に怒りを覚えるカイだ。
「だいたい、師匠も多大に関与してるんですから、私達にもりもり協力して下さいよ!!」
「何をどのよーに」
「………えーっと…………」
 具体的な事を考えずに勢いだけで言うと、こうなる。
「ま、頑張れよー、命落とさない程度にな」
「もう、茶化さないで下さいよ」
 真剣なんですから、とカイ。
「うんにゃ、適切なアドバイスだぜ」
 スルメを噛みながら言う激。
「真はな、強いぞ。理屈抜きで強いぜ」
「……どれ程に」
 顔を見合わせ、シリアス調の2人。
「……知りたいか?希望を差し替えに…………」
 ……………………
「いえ、いいです………」
「ちなみに母親の天さんは真よりもっと強いぜ。力の強さじゃねーから、ある意味最強だ」
「………………」
「死ぬなよ」
「………………」
 即座にはい、と返事が出来ないカイだった。




<END>





げっきゅん登場ー。ついで両親紹介!
最強夫婦ですからね!カイ、命は大事にね!!

今度はもっと甘い話にしてあげよーかな。カイ救済企画。
ハヤテ救済企画も考えにゃーな。