昼食時、屋上。爆が何か深刻な顔で爆に詰め寄っていた。
「爆殿、次の月曜、休んで下さい」
しごく真剣な顔をして、何事かと思えば、そんな事を言う。
「何を言ってるんだ、貴様」
きょと、と自分を見る目にくらりとする。可愛いから。
そのままアレコレしたいが、今日はグっと堪える。何故なら、今日は言うべき事があるのだから!
「いいですから、何も言わず今度の月曜休んでどぅは!」
後頭部を的確に狙った回し蹴りは、やっぱり的確に後頭部に当たった。
「何をまた腐った事を言ってるんですか、カイさん」
怒気を篭らせた発言をしたのも、さっきカイに回し蹴りを食らわせたのも、当たり前のよーにデッドだ。
ミニスカートのセーラーに長いソックス。一見物静かな美少女だが、物静かな美少女は回し蹴りはしない。
「デッド殿……とーとつに現れては私に大打撃を食らわすのは、やめてもらえませんか?」
「僕だってしたくてしている訳じゃありませんよ。貴方がまともな理性と常識を兼ね備えているなら、僕の出る幕はありません」
暗にお前は欲望だけで生きている下衆だと言われている。
「そうだ、カイ。明日何があるんだ?」
デッドがいきなり現れるのも、カイが突然蹴られるのも日常なので、爆はさほど気にしない。
カイは、爆のそんな発言に信じられない、と目を剥いた。
「何言ってるんですか、爆殿……!明日は、あの悪夢のようなイベントがあるじゃないですか!」
「???」
混乱する爆に、カイは言った。はっきりと。
「身体検査ですよ!!」
ゴボキ。
こめかみに、デッドの肘打ちが決まる。痛さに悶絶するカイ。呆れる爆。
「何かを言えば……そんな事か」
はぁ、と溜息をつく。
「そんな事とは何ですか!」
がばり!と頭の痛さを乗り越え、カイは爆に言い募る。
「爆殿の柔肌が私以外の人に晒されるんですよ!?これを悪夢と言わず、何が悪夢でしょうか!!」
こうして身体検査如きで騒ぎ立てるカイを至近で見る事こそが悪夢だと、デッドは思う。
「あぁ!考えただけで悪寒が!何の悪さをして私の爆殿が何処の馬の骨とも知れないヤツの前で肌を見せなければならいのか!あまつさえ身体の検査!
私がこれまでじっくり開発してきた身体なのにがぐは!」
デッドと爆、2人のダブルパンチが暴走したカイを沈黙させた。
「全く……どうしてくれようか、コイツは……!!」
真っ赤になっているのは怒りと+@の為だ。
「此処が中庭だったら、そのまま土に還れるんですけどね」
しかしカイを肥料に咲いた花々を見るのは嫌だな、と思うデッドだった。
「そうか、明日は中等部の身体検査だったか」
と言ったのはハヤテだ。デッドの姿がいきなり見えなくなったので、爆の所だろうと来たのである。
背広の前を肌蹴させて、ネクタイの結び目も実にルーズだ。
話はそれるが、この学校、制服は男女共に2種類選べる。女子はセーラー服かブレザーか、男子は詰襟かスーツか。で、カイが詰襟で爆がブレザー。ハヤテがスーツでデッドはセーラー服と、組み合わせとしてはちぐはぐな2組だ。
「でも、確か女子には女の先生が検査してくれるんじゃなかったか?」
だったら躍起になることはないのに、と言うと。
「何を言ってるんですか、ハヤテ殿!
例え女の人でも、見られるのは嫌に決まってるじゃないですか!!」
がばり!とカイが復活して力いっぱい主張する。
何かこいつ、日に日に回復が早くなってんなぁ、と冷静に観察してしまったハヤテだ。
「そういう訳ですので、爆殿。明日は休んでください」
「嫌だ。そんな下らない理由で休めるか」
そう、ぶっきら棒に言う爆だが、そこまで心配してもらって嬉しいという部分も、少しある。少し。
そんな返事を貰って、カイは不服だ。大変不服だ。
カイにこの俳句が過ぎった。
”鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、不如帰”。
にっこり。
カイは人の良さそうな笑顔を浮かべた。
「爆殿が言うなら、仕方ありませんね。じゃ、教室まで送りましょう」
と、手を取ってドアに向かう。
が。
「……送る時に何処か人気の無い所に連れ込んで、身体中に跡付けようなんて策が浅いんですよ………」
デッドが取り出した、いかにもいわくのありそうな人形の首をこきりと曲げた。と、同時にカイが倒れた。
何が何だかわからない爆は慌てたが、デッドが介抱すると言うと、安心して教室に戻った。学年が同じデッドに任せれば大丈夫、と思ったんだろう。
上のデッドの独り言と、一連の行動を見てしまったハヤテは、ひたすら恐怖に震えた。
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