「----だったら、何時だったらいいんだよ!!」 「ちょ……激……」 声を荒げる激に、爆はなんとか宥めようとする。 しかし、ずっと蓄積して溜まった不満は、一旦零れたら全部出尽くすまでもう止まらない。 「学校でもダメだっつーし、道路もいかんって言うし!!だったら俺は何処でお前とキスしたりその他色々すりゃいいんだよ!!」 「そ、そんな事大声で言うな!」 激が顔を近づけていたので、爆にでもどうにかその口を塞げた。 今は昼休みで此処は屋上。ざっと見渡した所、人の気配はしないけど。 「……なー」 爆の体温を感じて少しは落ち着いたのか、激が言う。 「爆の家、行ったらダメ?」 「だめと言うか……無理だろ」 「うわ、きっぱり言うね」 ふん、とまた拗ね出した激に、爆は慌ててその理由を言う。 「だってだな、母さんは専業主婦なんだから、確実に家に居るぞ。 それに真と鉢合わせするかもしれないし……」 別に一向にそれは構わないんだけどなぁ、と激は思う。 自分はその程度で挫ける様な安っぽい恋愛はしてないつもりだ。 「だったらいっそ、カムしちまうか?この人カレシです、て」 というか激としてはむしろ「お嬢さんを僕に下さい」まで言いたい。 「……そんな事したら、お前……」 爆はうっすら汗を浮かべた、真剣な表情で。 「運が悪ければ、地獄行きだぞ………」 「………何者だ?お前の親父は……」 「……訊きたいか?」 「………………。 いや、いい」 激は自分を賢いと自負しているので、「世の中には知らない方が良い事もある」というのもちゃんと知っている。 「ちなみに運が良かったらどうなるんだ?」 「天国行き」 「待て。いずれにせよ俺死ぬのか」 ”命懸け”という単語が激の脳裏を過ぎる。 確かにまだ10歳な爆に彼氏が、なんて言われたらショックも大きくなるだろう。そんな事態になったら、行く行くの人生設定(爆と結婚)もスムーズに行かなくなるかもしれないし。 まぁ、この件に関しては保留、て事で。 「……んでも、”彼氏”としてじゃなくてもいいから、爆の部屋行きたい」 と言って、隣に座る爆をひょい、と抱いて膝の上に乗せ、ぎゅうと抱きついた。かなりの身長差のせいで、それはまさにすっぽり、と言った感じで。 激の腕の中、恥ずかしいのか、爆は身じろぐ。 「しかし、何と言って貴様を紹介すればいいんだ?友達じゃきついだろ。いくらなんでも」 「そーだなー」 激としても、例え嘘でも爆に「トモダチ」だなんて言って欲しくなかった。ある意味「恋愛の対象外」というレッテルでもあるし。 そして何より、爆の言う通り、自分たちには無理がありすぎる。なんてったって7歳差だ。 となればこれも諦めるしかないのか?とヘコみかけた激に、ふと妙案が思いつく。 「この年齢差、かえって功を制するかもしれねーぜ?」 激は不敵に笑った。
初めての来賓者に、天は少し戸惑った表情を見せた。 「ほら、カイは知ってるだろ?よくピンクと一緒に来る。こいつはカイの先輩なんだ」 「あぁ、カイ君の」 知ってる人物が出てきた事により、天の中で爆の友好関係にすんなりと激は入り込めた。 「今日は勉強教わりに来て貰ったんだ」 「お邪魔しまーす」 出来るだけ礼儀正しくかつ愛想良く激は挨拶をしたつもりだ。 「先に行っててくれ。階段上がってすぐ右の部屋だから」 「ん。了解」 紅茶のいい香りがする。早速淹れてくれているのだろう。 夢にまで見た爆の部屋は、ドラマや漫画の女の子の部屋みたいに装飾品は少なく、機能を重視したデザインとなっている。それでいて無機質な感じはあまり受けない。なかなか趣味のいい部屋だ。 そんな中、贈り物なのか低いほうのタンスの上に数個のぬいぐるみが肩を寄せ合っていた。 (爆の部屋にある……って事は、爆の寝顔とか、爆の着替えとか…… くぅぅぅぅ〜〜いいなぁ、お前ら!!) 「……何を涙を流しながらぬいぐるみを抱き締めている」 ふと気づけば背後にティーポットとクッキーを乗せたトレイを持った爆が居た。 「あー、い、いやこれは」 「またどうせ、ロクでもない事考えてたんだろ」 「失敬な。俺にとってはかなり重要な事なんだからな」 て事はやはりロクでもなかったんだ、と爆は確信する。 トレイを机の上に置き、その途端に激に捕まる。 「ッうあ………ッ!?」 ぐるん、と世界が回って、気がつけばベットの上だった。 半身だけ起こすと激が胸に擦り寄る。 「んー、いー匂いvv」 「シャンプーのじゃないのか?」 「うんにゃ。爆がいい匂い」 久々のべったりなスキンシップにご機嫌な激だった。 背中に回していた手を、前に持ってくる。 「……触ってもあまり無いだろ」 「ンな事ねーよ。いい感じにやーらかいv」 少し厚めの服を着てしまうと解らない程度だが、手で触ればちゃんと柔らかい。 「それに、こうして刺激与えてんだし。すぐおっきくなるぜv」 「………馬鹿」 冷たい素振りをしても、しっかり頬が赤いのは丸見えだ。 余程爆に触れれるのが嬉しいのか、している不埒さとは裏腹にとても無邪気にすら見える表情。 何だか子供が甘えてるみたいで、むしろ微笑ましい。 母親というのは、いつもこんな気持ちなのかな、などと激の頭を撫でながら思った。 「なー」 「何だ?」 「……直接見たいんだけど?」 ------前言撤回。全く無邪気ではなかった。 「な………」 折角激が擦り寄る感覚にも慣れて、頬の熱さも薄れてきたというのに、また赤みがぶり返した。いや、さっき以上だ。 「だから、無い………!!」 「関係無ぇって。俺は爆のが見たいんだし」 真剣に自分を求める表情に、絆されてとはあまり聞こえは良くないかもしれないが。 今までちゃんと触れさせる事もしなかったのだし、それのご褒美という事で。 何より、激になら全部晒してもいい、と爆に思う所があったのも確かだ。 「じゃぁ、脱ぐから……少し後ろ向いてろ」 脱いだ後を見せるというのに、この要求は少しおかしかったのかもしれない。まぁ、気持ちの問題だ。 爆が少し恥ずかしそうにそう言うと、激はなんだかやたら楽しそうに笑った。 本能的に、この笑顔はヤバい!と爆は思った。しかもそれはドンピシャリで。 「俺が脱がしてアゲルvv」 「ちょ、ちょ……っと!!」 まだ制服のままだったブラウスのボタンがプチプチと外される。片手で器用なものだ。 「………////」 何だか無理矢理されても無いのに、抵抗が出来ない。 「爆ってまだブラとか付けねーんだ? だったら今度一緒に選ぼ………」 と、調子に乗りまくった激のセリフが下切れトンボになる。 何だ?と思っていた爆も、背後からの視線を感じた。 メデューサでも見たみたいに硬直した激をそのまま、振り向くと…… 「………!!!! し、真!?」 「……………………」 居たのは自分の父親だった。 その視線を温度で表したのなら、バナナで釘が打てそうだ。 爆はパニくった。何故って今日激を招きいれたのは、偏に真が出張中だったからで。 真が地獄から湧き出たような声で言う。 「………早めに切り上げて、ちょっと驚かせようとあえて連絡はしなかったんだ……… ……まさか、こっちが驚かされるなんてな………」 「い、いや、これは……」 真に向き直って弁解しようとした爆だが、先ほどの事ではだけられた胸元を、はっと気づき、隠す。 その仕草に真の何かが本格的にキレたらしい。 「爆、ちょっと外に出てなさい。生のスプラッタなんて、あまり見て気持ちのいいものじゃないぞ?」 ニッコリ。と笑顔の為に余計に凶暴に見えた。 こ、これは硬直してる場合じゃねぇ!と命の危機を感じた激は復活した。 「ちょっと待ってくださいお義父さん!!俺は爆との事をそれはもう真面目に考えてます!!例え子供が出来ても新婚のままのノリを保つ自信がありです!」 「黙れ-----------!!この下種がぁ!!俺の爆に何をした!!?」 「えーと、えへへへへー♪」 「………殺す」 さっきの甘美な一時の余韻に酔いしれた激の締まりの無い顔は、真に殺人犯へと駆り立てるのに十分なものだった。 「だぁぁぁッ!もう、待て!待てって!!」 激に制裁を下さんと近づく真を、爆は腰に腕を巻きつけて阻止した。 「別にそんなやましい事はしとらん!!激しい誤解をするな!!」 「だったら爆!!その格好は何だったんだ!?」 ズビ、と真はお座なりに掛けられたボタンを指す。 「いいか、爆!俺はなにもお前を拘束しようなんて思ってはいない! だが、あの手のタイプはやめておけ!!絶対泣きを見る!!いつかは香港に売られるぞ!?」 おいおい、あの手、てどの手だよ、と愛する人の父とは言えど、ツッコミたい気が満々だ。 そのセリフは聊か爆の鶏冠にも来た様だ。 「絶対泣きを見るだなんて、どうして真に解るんだ!? それに!胸くらい見せてもいいだろうが!!ついこの前まで真だって見てたじゃないか!!」 「お前、家族とは………」 「何---------!!!」 今度は激が真に詰め寄る番だ。 「ちょいおっさん!!そりゃどーゆー事だ!?」 「一緒に風呂に入ってただけの事だ!!親子としての当然の行為だろうが!!それと誰がおっさんだこの若造が!!」 「ふ、二人とも………」 内容、音量ともにエスカレートする口げんかを止めようと爆は試みたが。 「爆は黙ってろ!!今この若造を追い払うから!!」 「爆!!こんな家出ちまえ!!ンでもって俺んトコ来い!!絶対幸せにするから、っつーかむしろ俺が幸せだ!!」 「どさくさに何言ってんだ若造----------!!!」 本当に何言ってんだか。 「おい、いい加減に……!!」 「そうそう、煩いわよ、二人ともv」 ゴインゲキン☆!! ……何だかあまり笑えない金属音を頭に響かせた激と真は、そのままばったりと倒れた。余程いい場所にヒットしたのだろう。 気配も感じさせず乱入し、ものの見事に二人を撃沈させた天は爆に向きかえり、 「いい?爆。玉じゃくしって結構凶器なのよ」 「はぁ………」 にーっこり、と笑う天。 自分もこの二人と向き合っていくのなら、いずれはこの境地に達するのだろうか。 ちょっぴり、自分の未来を予想してみた爆だった。
ちなみに激が爆の家に出入り禁止になったのはもはや言う必要も無かった。
|