「?どうしたの、爆?」 先ほどから口元を気にしているらしい爆。ピンクはそれが気になって声をかけた。 「あ……うん、この前軽い風邪を引いたからだろうが……口唇がカサカサする」 なるほど、それでか、と合点がいったピンクはポケットからある物を取り出す。 それはリップクリーム。 「これ塗っておきなよ。あんたこういうの持ってさなそうだもんねー。 コレまだ使ってないし、丁度いいからあげる」 「……オレが貰ったら、ピンクのが無くなるんじゃいのか?」 「いいのいいの、家に一杯あるから」 普段必要以上に尊大な態度の爆だが、実はそれ以上に人の事を気にかけている。 埃が被ったような常識しかしらないヤツには決して解らないそれを、理解出来る自分をピンクはちょっと褒めてやりたい。 とは言え、爆の本質がなかなか解りにくい事に、ピンクは少し感謝している。 だってそうでもなければ、爆に言い寄る悪い虫が後を絶たないだろうから。現在でも決して少なくないというのに。 ……しかもその連中はどうしてか一癖も二癖もある輩で。 「………………」 はぁ、と思わずピンクは溜息をついた。 「……一体なんだ」 今度は爆がピンクを気にして声をかけた。 「……何で爆があんなの選んじゃったかなーって。 あたしが男だったら、絶対にあんなの近づけさせないのに!」 ピンクは何かの使命感に燃えてるように、拳にグググ、と力を込めた。 「……あんなの……って………」 心当たりのばっりちある爆は何とも言えない複雑な顔をする。 「だって今からそいつの所に行くんでしょ?」 こくん、と真っ赤になって頷く。 これが一人の為だというのが、本当に勿体無い。 「あたしはあんなヤツの何処がいいかなんて、想像も出来ないていうかしたくないけど…… それでも爆がいいって言うなら、何があっても応援するからね。じゃ!」 自分よりちょっと低い爆の頬にちゅっとキスをして、ばいばいと大きく手を振る。 元気に駆けるピンクに、こういう事するなと言ってるだろ-----!!とさよなら代わりの爆の声が届いた。
「全く、あいつはどういうつもりなんだか……」 ぶつぶつ、と毎度の”さよならのキス”に一人愚痴てみる爆だった。 しかし、そんな押しかけのようなピンクが嫌いかと言えば、全然そうじゃなくて。 それどころか一番に信頼していると言えよう。 自分の口唇が荒れていた事を思い出し、爆は早速貰ったリップクリームを取り出した。 きゅ、と捻って先端を出して、さぁ塗ろうという所で爆の動きが止まる。 以前塗った事のあるリップクリームは無色透明で…… しかし、ピンクから貰ったやつにはばっちりと色が着いていた。 赤い花の汁を固めたようなそれ。 おそらく塗った唇にも色がついてしまうだろう。 どうしよう、と一瞬悩んだが、唇が荒れたままという訳にもいかないので、思い切って塗った。 何しろ、ピンク以上にしたがる相手だから。 ………激、という人間は。
今までの人生でかつてない程唇に意識を注ぎ、爆は激の元へやって来た。 「よく来たなーv」 まずは抱擁。とはいえここまでの身長差であると、抱き締めるというのを越えて包み込まれている感じがする。 (……気づく、か?) 躊躇したものの実行したのは、偏に激の反応を見て見たい、というのもあったからで。 ちょっと身体を離し、さぁ口付けを、という所でとんだ邪魔が入る。 「いけね!湯沸かしてたんだ!」 とりあえず、と頭にキスをして慌ててキッチンへと走る激。ゴン!と何かがぶつかった音がした。 勝手知ったる、と爆は室内へと入りソファに腰掛ける。 窓ガラスを鏡代わりに見てみる。 ……確かにクリームに覆われた唇は、仄かに色づいているが、それは意図して見て初めて気づくくらい。 そうでなければ、まず解らない。 ちょっと期待していた爆は、ソファの上に足を投げ出した。 「コラコラ、女の子がどういうポーズをとるのかね」 戻った激が、爆の姿勢を見て少し呆れる。 「……………」 別に気づいて欲しくもなかったんだし、と自分を必死で宥めた。 「そんじゃ、さっきの続き………」 最初、軽く触れて次にもう一回、今度はじっくりと重ねる。 それだけで、身体が痺れるように熱くなる爆だ。 はぁ、と熱っぽい息を吐く爆に、激は囁く。 「……どっちかっつーと、医療用のなんだな。 てっきりお洒落してくれたんかと思ったけど」 「…………?」 何の事か、と伺う爆に、これの事、と激は唇をなぞった。 「……!気づいて………!!」 当たり前じゃん、今更だろ?と、激はもう一度、いつもと違う唇の感触を味わった。
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