6.ずっと友達だから
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俺は総帥になり、仲間は各支部にて高い地位を手にした。
変わる事が悲しいとか、変わらない事を望むとか。
そんな事はしないけど。
「よお、ミヤギ。生きてたか」
「それ、縁起でもねぇべ」
凄く嫌そうな顔でミヤギが言った。そんな顔してくれるな。こんな冗談言えるだけマシだろ?
「ま、今回もご苦労さん。ゆっくり休暇を満喫してくれ」
「短い休暇だべ」
今度は渋い顔で言った。まぁな。あの期間じゃ、今トットリが居る所へ行っても数時間で戻らなくちゃならない。
でも、その数時間の為でも行くだろうな、こいつ。
「……なぁ」
「ん?」
「お前、トットリと最後に何時あった?」
ミヤギは一瞬何でそんな質問を、と言いたげになったが、それでもちゃんと答えた。
「ん〜?……半年位前でねぇか」
「……そうか」
「あ、もしかして、休暇長くしれくれんべ?」
「ンな訳ねーだろ馬鹿」
盛大に履き違えたミヤギはがっくり、と肩を落とす。
じゃぁ、これでと道を違える前に、今度はミヤギが言い出した。
「そんだ、オメ、飛行船からちょくちょく身を出すんべ?」
以前その光景を見たらしいアヤシヤマが、風を受けて髪と軍服靡かせるシンタローはんって素敵どす〜とミヤギに言ったらしい。散々。
「ちょくちょくって訳でもねーけど……まぁ、風を受けるのは好きだな」
轟々と音を立てて過ぎる風の音に混じり、あのセリフが聴こえそうな気がする。
”今日からお前も友達だ!”
今日”から”だから。
今もずっと。
ずっと友達、だよな。
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7.元気か?
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傍から見れば、ただの大人と子供の組み合わせにしか見えない。
けれど。
彼らはお互いが大切な存在なのだと言う事が、たったの短い期間しか付き合ってない自分にも、解った。
4年、である。
そんなには長くないが、決して短くも無い。
会えない覚悟を決めた自分だが、4年経って父親に会えるとなったら、涙も流してしまうかもしれない。いやきっと号泣だ。
それなのに、目の前の彼らはたった一言、元気か、みたいな挨拶1つで終わった。
そんな一言で、会えなかった間を埋められる、そういう仲なんだな、と思うと。
一旦、彼の弟に対する扱いへの怒りは引っ込み。
良かったな、と両方に言いたくなった。
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8.解ってる
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そんなこんなで色々あって。
しばらく会うことも無いだろうと思っていた人物と、リキッドは共同生活を余儀なくされた。何故だか、運命の悪戯という言葉が頭の中でエレクトニカル・パレードしてる。
正直、シンタローはリキッドの中でばっちり「苦手な人」に区分されている。
会って早々ガチンコで喧嘩したし俺様だし元上司の甥っ子だし今は煩い舅だし。
俺にのっかかっている業はそんなに重いのか?と誰かに問いたいリキッドだ。
「よし、シンタロー!今日のメシはお前が作れ!」
そのシンタローは今、パプワに命じられている。
「はいはい、解りましたよ」
「”はい”一回でいい」
がっぷ。
「ごめんなさーい!!」
そしてチャッピーに頭齧られている。……そんなに恐れなくてもいいかな、と思い始めたリキッド。
「それじゃぁボク達は、食前の運動に出掛けて来る」
いってらっしゃい、という声を背中に浴びて、外へ出るパプワ。
それを見届けシンタローは、さーて作るか、と、パン!と両手を鳴らす。
「あ、シンタローさん」
「何だよ」
「いえ、鍋とか食器は……」
教えようと、リキッドが全部のセリフを言う前に。
「解ってる」
にやり、と。
鍋の場所も調味料が何処にあるのかも。
パプワの味の好みも。
解っているのだと、優越に満ちた笑顔で勝ち誇られた。
結構、この生活も楽しいものになるのでは、と、リキッドは思い始めていた。
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9.今日のご飯
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「チャッピー」
感情の起伏をあまり見せない友達が、今ははっきり解る喜色を浮かべている。
それを、自分も喜ばしく思う。
優しく毛並みを撫でながら、パプワは静かに言う。
「今日の飯は、シンタローが作るんだな」
わう、と一言。
島の皆みたいに、同じ言語で話し合いたいと思いはするが、こんな時、どう言えば相応しいのかが解らない時、曖昧な部分も伝わるようなこういう会話は悪くない。
「シンタローが作るんだ」
ふと見た双眸は、大切な人が居る事と、いずれはその人が去ってしまう事を同時に想っていて、酷く切なく、とても温かい。
わう、とまた鳴いて、身を寄せる。
いつかは去ってしまうけど、今は居るんだよ、と言いたい。
そして別れてもまた会えるよと、無責任に言ってみたかった。
「さ、帰ろう、チャッピー」
もうすぐメシの時間だ、と帰宅を促した。
今日のご飯もきっと美味しい。
明日のご飯は、もっと美味しい。
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10.並んで寝ましょう
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「さーて、寝ましょうか」
「うむ」
トランクス一丁になって、終身準備万端な2人と1匹は寝床に潜る。
そう、”2人”と一匹。
夕食が終わって少し経った時。つまりは寝る少し前。
「………リキッド」
「何ですか?」
唐突に呼んだシンタローは、おもむろに立ち上がった。
そして。
ガガガガガガ。
地面に線を引いて。
「寝るとき、こっからこっちに入ってくんなよ」
「…………」
うわぁ、この人目がマジだ。
そんな訳で、リキッドは離れた所で寝ている。
………今日に限った事じゃないだろうな、絶対……
別にごろ寝雑魚寝なんて、それこそ特選部隊時代に嫌という程慣れてるし、平らな地面の上で、なんてどちらかといえば上等な方だ。
それでもこの扱いは無いんじゃないか、と向こうを見れば、仲良く並んで寝る姿。
よもや自分はものすごくいい人なんじゃないか、と心で呟きながら、リキッドは2人と1匹から離れて寝るのだった。
明日も明後日も明々後日も。
この寝顔の為だったら。
<END>
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