目が覚めれば雨でした。
昨日の雲に雨の前兆は無かったから、こりゃトットリの仕業だな。
「一発殴って止めさせるか?」
「いや、この雨で喜んでいるヤツも大勢いるだろうからな。このままでいい」
と、パプワが言うので俺は黙って。
雨の中、大きな葉を傘代わりに食材探しに出かけた。
メシ作って、食べて、後片付けして。
………うーむ、やる事が無くなった。
雨の日の事も考えて、貯蓄できる食材を貯めているので、もう外に率先して出かける必要も無い。
パプワも同じらしくて、普段はあまりしないチャッピーの毛づくろいをずっとしている。元気一杯な子供が、こうして室内で退屈しているのは、見ているこっちも何だか寂しくなる。
そう思ったら、俺は途端に忙しくなった。この限らせた空間の何も無い部屋で、何か遊びになるものがあるだろうか、と考えるために。
過去の記憶や思い出から、何か無かったものかとほじくり返す。
「退屈」で結び付けられた言葉は「授業中」だった。教えてくれる側には失礼だと思うものの、余程興味のあるものじゃなければ、あの時間は退屈以外の何ものでもない。
その時、頭に閃いた。
ノートの片隅に書いたボードゲーム……と言っていいものか。
「パプワ。ちょっとこいよ」
何だ、と毛づくろいしすぎて寝てしまったチャッピーを置いて、てこてこと近寄る。
俺は、地面に9つの部屋が出来る格子を書いた。
「ゲームしようぜ。ここに9つのマスがあるだろ」
「うん」
「この中にマルとバツを書いていくんだ。どっちがマルを書くかバツを書くかを決めて、自分の書く記号が3つ並んだ方が勝ち。勿論、相手が先に揃いそうになったら、それを邪魔する。解るか?」
「あぁ、だいたいな」
さて、ゲーム開始。
パプワは案外……いや、確実に頭の回転が速かった。少なくとも、授業中に俺に勝負を挑み、24回戦中24敗したミヤギよりかは。
マスの数が9つだと、すぐに勝負が決まってしまうので、数を16,25に増やした。
これが得意、て事は、碁も得意、て事になるな。そのものは無いけど、材料は事欠かないんでパプワがやりたいってんなら、作ってやろうかね。
「シンタロー………」
「お、降参か?」
「違うわい。腹が減ったんだ」
そう言えば、おやつ食わしてなかった。
俺とした事が。思いっきり熱中してしまった。あ、チャッピーもいつの間にか起きてるし。
「悪ぃ悪ぃ、すぐ用意すっから」
「すぐだぞ!」
すぐ、と自分で言ったものの、まるっきり準備も何もしてないこの状況では30分はかかる。
30分か……待つと長い時間だな。
……パプワが「遅い!」と言ってチャッピーをけしかけるのに十分な時間だ。晴れだったら、外で遊んでなさい、と言えるんだが。
よし、こうしよう。
ちょっと外に出て、木の枝数本を取ってくる。だいたい同じ長さに折って、それで漢字の「田」を作った。
「さて、パプワ」
俺はその「田」を指差し、
「ここに四角が4つある。外の大きなのは数に入れない。
これを枝を4つ動かして、四角を3つにするには、どうしればいいでしょう?」
「4つしか動かしちゃだめなのか」
「そう、枝を余らせてもいけねぇんだぜ?出来るか?」
「勿論だ」
胸を張るパプワ。
よしよし。
パプワの性格上、途中で投げ出す事は絶対ないだろう。解いちまったら、また何か問題を出せばいいし。
願わくば、おやつが出来上がるまでに、俺のパズルのストックが切れませんように。
そして夜になった。外は相変わらず雨が続いている。
まぁ、あいつらも生活があるから、明日は晴れだろう。でなきゃ殴って止めさせる(洗濯が出来ないじゃねーか)。
枕を並べて、いつもの順番。
寝る前に、パプワが言った。
「シンタロー」
「ん?」
「今日は、楽しかったな」
うん、こういう日も、悪くない。
<END>
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