(いや、しかし……あの薬が今頃効くなんてなぁ)
天災と家電製品の故障は忘れた頃にやってくる。
そんな言葉が過ぎる。
鼻血の海に沈むシンタローを後にしたリキッドは、パプワを抱えたままパプワ島を適当に走っていた。
薬の効能は1日だ。明日までがんばるしかない。
「リキッドー。何処に行くんだ?」
パプワは自分が連れ出された理由はどこかへ連れて行く為なのだと思った。
まぁ、強ち間違いでもないのだが。
とりあえず身を隠せる場所に行きたい。
リキッドが真っ先に浮かんだのは、”そこ”だった。
朝の新鮮な空気を吸い、トシゾーは伸びをする。
毎日毎日、人を斬るばかりの自分がこんな風に朝日を浴びて始まる一日を迎えるだなんて、誰が予想出来ただろうか。自分にだって、夢にも思わなかったのに。
あぁ……平和だ………
「トシさぁぁぁぁぁぁぁあああん!!」
……いや、ちょっと平和とは違うかもしれない。平和とは、ごく穏やかでもっと静かなものだ。
「リキッド、どうし………」
尋ね、途中で止まる。見慣れない少年を見つけたからだ。
「そいつは誰なんだ?」
リキッドが駆け込んだのは、彼が理由なのかと思った。ある意味、外れではない。
リキッドは一瞬どうしようか迷ったが、言う事にした。
「パプワです」
「……………………」
マジ?見たいな顔をして、パプワを見る。
確かに、その面影はある。
そんな馬鹿な、と思ったが、此処で今までの常識が覆ったのは1度や2度ではすまない。
あのナマモノ共に比べれば、パプワが突如大きくなってしまった方がまだ現実的だ。
「それでトシさん!匿って下さい!!
今シンタローさんが危険なんです!デンジャラスじゃなくて、アブノーマルの方向で!!」
「な、な、な、何だぁ?」
鬼気せまるリキッドに少し怯むトシゾー。パプワはその横で、いつもの日課の踊りをしていた。
「ですから!このままだとシンタローがパプワに大人の階段上って18禁で甘栗が首絞められて!!」
「いやリキッド。落ち着け。まずゆっくり数をかぞえろ」
「イッコン、ニコン、サンコーン!!」
ダメだこりゃ。(上のネタが判んない、ていうヤングはお母さんに聞いてみよう!)
パプワがーパプワがーと慌てるリキッドは、子供が熱を出した若いお母さんのようだった。
「……なぁ、何がどうなってんだ?」
「ボクにもよく判らん」
日の丸センスをポン、と広げ、いたってマイペースなパプワくんだ。
一体全体なんだってんだ。
と、その時。
「やーっぱり此処だったな」
シンタローが、来た。
それに一番驚いたのは、勿論リキッドで。
「んなッ………!は、早い!!」
あの血を回復するには、どんなに最速でも昼間ではかかるだろうと思っていたのに。
戦くリキッドを、シンタローは余裕の笑みで受け止めた。
「はっ。確かにあれだけの量は滅多に無いが、鼻血なんてコタローの写真見ては流れたもんだからな。すっかり身体が慣れちまってんだよ!!」
『うわぁ、ダメ人間だ』
「ハモるなよ。全員で」
「と、とにかく」
リキッドはパプワを後ろに隠すように前に出た。
そーゆー態度こそがシンタローに火を注ぐのだが、かと言ってそれを知れば止めるかと言えばそうでもないだろう。
今のリキッドはパプワの身と島の道徳を守る義務感で一杯だ。
「今日は、パプワとシンタローさんを会わせられないっス」
「何でだよ」
「……理由は、その滝のように流れる鼻血に聞いてください」
また流しているシンタローさんだった。
「まぁ、オマエは勝手にしてろ。俺も勝手にするから」
勝手な人だなーとリキッドは思った。
「ダメです!!」
リキッドはさらにずずぃと前に出た。
「どーしてもパプワを連れて行くのなら、俺を倒「眼魔砲」
ちゅどぎょどーん。
さようならリキッド。
程よく焦げたリキッドを踏み、シンタローはパプワに近寄る(鼻血のまま)。
「さ、行こうぜ。朝飯まだだろ?」
「-----待った」
スラ、と日の光を弾いた細い銀光が、シンタローの伸びた腕を遮った。
「さっきまでは訳がさっぱり判らなかったが、今のオマエを見ると、成るほどパプワくんを傍に置いて置くのは危ないな」
「何がどー危ないんだよ」
「鼻血」
ごく簡単に、トシさんは答えた。
「だから、言葉でおとなしく引き下がって貰わねば、強攻策に出る」
「ふーん?戦るのぉ?」
ザ、と肩幅程に足を広げ、臨戦態勢に入ったシンタロー。
トシゾーもまた、刀を構え、相手を算段する。
----強い。
出た結果は、それだ。
しかし此処で折れたら士道不覚!どんな硬い鋼でも、突かれば弾ける点はあるのだから!
ジリ、と足が地面をする。
そうして-----地面を蹴る!2人ほぼ同時!そして!
「いい加減にしろーぃ!」
ガシガシ!
「「うぇぇえええええええええッツ!!?」」
ズダーン!!
パプワは2人の腕を引っつかみ、一緒に左右で一本背負い!日本金メダルです!!最低でも金、最高でも金!!
地面で伸びる2人に、パプワは言い放つ。
「いつ終わるかと思えば、もう朝飯の時間を過ぎてるじゃないか!
シンタロー!材料集めに行くぞ!!」
「はーいはいはい………」
びしばしと往復ビンタされたシンタローはふらふらとパプワに付いていく。
今の彼に鼻血はない。が、頭からは流れていた。
やっぱり、パプワはパプワだ……
シンタローは、心内で呟いた。
んでリキッドとトシゾーは。
もしかして、自分たちがしていた事は、野良犬からイリオモテヤマネコの仔を守るような事だったのだろうか、と、地面と仲良く添い寝して思いましたとさ。
<終わり………?>
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