100回目はキケンです




 
 とある日。
 パプワくんがしゃっくりを起こしました。


「ひっく。……ひっく、」
 しゃっくりである。とてもしゃっくりである。間違う事無くしゃっくりである。
「いやぁ、パプワでもこんな普通の生理現象になるんだなぁ。はは、なんだか可愛いな」
 そう言って頭を撫でようとしたリキッドの手を、シンタローが捻り挙げる。
「可愛いとか言ってないで、止めようとかいう考えは出ねぇのかよ………」
「シシシ、シンタローさん。怖い痛い怖い」
 リッキドは離してくれた手を見た。うわぁ、すごい痣がくっきりしてる。
「しゃっくりの止め方って言ったら、やっぱり驚かす事ですかね」
 血の循環を良くさせるため、手をぷらぷらさせながらリキッドが言う。
「あぁ、そうだな。
 って。
 ………驚いたパプワ…………?」
「……世界ありえないものコンテストがあったら、グランプリ受賞しそうなくらいッスね………」
 いやパプワだって人の子だ。驚かない事が無い訳でも無いだろう。ただ、そんなシチュエーションがあるとしたら、それは自分達が死滅してるよーな緊急事態ではなかろうか。
 シンタローは顎を掴んで、うーん、と考え込み。
「これでも結構あいつ、感情出すんだけどな。
 怒ったり、困ったりとか」
「へー、怒った所は見た事ありますけど、困ったりもするんですか」
「あぁ、するぞ。するともさ」
「はいはい、シンタローさんの勝ち」
 勝ち誇ったシンタローをそのままにしておいた。だって反論したらぶつだけだもの。
「とりあえず、大声でも出してみるか」
「でもそれ、失敗したらものすごく恥ずかしいですよ?」
「----ったく、何話てんだよ」
 2人の会話に、トシゾーが紛れ込む。
「しゃっくりなんざ、ほっとけば治るだろうが。過保護にも程があるぞ」
 あきれ果てた、といったような表情だ。
「何だよ、皿洗い侍」
「あ、トシさんお疲れさまっす!」
「おおお、お前が皿洗えっつった癖にその言い草はなんだー!」
「当然だろ。我が家では労働しないものに食わす飯は無い!」
 毅然とした態度で言った割には、発言の内容がとてもアットホームだ。
「おいシンタロー(ひっく)」
「ん?」
「ボクは遊びに行くぞ(ひっく)。文句はないな(ひっく)」
「あ、あぁ。でも、水に潜って遊ぶのは止めとけな。それが止まるまで」
「わかっとるわい(ひっく)」
 と、依然しゃっくりのままのパプワは、チャッピーを連れ立って外へ遊びに繰り出した。
「あー、行かせちまったけど、止めた方が良かったか?」
 本気で言ってるらしきシンタローに、トシゾーがあぁ、過保護過保護、と毒づく。眼魔砲が飛び出す5秒前だ。
「まぁ、しゃっくりもあまり続くと健康上よくないみたいですしね」
 焦げ付いたトシゾーを介抱しつつリキッドが言う。
「うーん、パプワにサプライズな手段なんて通用しなさそうですし……あ、意外な事言って驚かす、ってのはどうッスか?」
「具体的にどんなだよ」
「………えー、」
 眼の泳ぐリキッド。所詮ヤンキーの浅知恵か……と、シンタローは思った。
「あ、そうだ。例えばシンタローさんがパプワにお前なんか大嫌い、とか言うとか」
「は、」
 気の抜けた声を出すシンタロー。
「ばっ……馬鹿か!そんなアホな手が通じるとでも本気で思ってんのか!」
「えぇー?我ながらいいアイデアだと思うんですけど」
「それで止まらなかったら、俺の今後はどうなる!」
 あ、それが重要なんだ、とリキッドは気づいた。



 
 チクショウ、リキッドが妙な事言うから、気が散ってしかたねぇ、とシンタローは腕を摩った。いつ付けたのか知らないが、其処には葉っぱで切った後がある。全然大した事のない傷だが、負ったという事自体が問題だ。
 通り縋ったエグチくんに聞けば、パプワは海へ向かったとの事。まさか本当に潜ってないだろうな、と思いつつ浜辺へ。
 すると、水浴びをしているチャッピーを砂地で座って見守っているパプワが居た。肩が断続的に撥ねているので、しゃっくりはまだ止まってないようだ。
 なんだ、言いつけ守っていたのか……と、少し拍子抜けしたような気分でパプワに近寄る。
「よぉ」
「シンタローか。……ひっく」
「まだ、止まらないのか」
「見れば解るだろう」
 と、言ってまたしゃっくり。
 かれこれ長い事続いてるなぁ、と思う。感覚的だから、実際にはそんなに経ってはないのかもしれないけど。
 もうすぐおやつだってのに、これじゃ上手く食べれねーじゃん、とか心配してしまうのは、やっぱり過保護なんだろうか。いやでも弟に対してもそう思うのだから、うん、これは普通だ(その普通が一般常識より著しくかけ離れてる)。
 そーいや、柿の葉を煎じて飲むといいとか聞いたなぁ、なんて思い出す。
 それのついでに、さっきのリキッドの言葉も思い出す。
 ----例えばシンタローさんがパプワにお前なんか大嫌い、とか言うとか----
「…………」
 馬鹿が。本当に、馬鹿が。
 俺が嫌ったくらいで、動じるこいつじゃねぇんだよ。
「シンタロー、表情暗ませてどうした」
「いやまぁ、なんて言いましょうかね、はは」
 そんな風に言葉を濁してみるシンタローだ。
「…………」
 まぁ。
 こんな自分の事で、しゃっくりが止まるくらい動揺するとは思えないけど。
 でも。
「なぁ、パプワ」
「うん?」


 少しくらいは。


「俺、もうこの島来ない」


 …………沈黙、いや、波の音だけが続いた。
「……嘘」
 と言ったのは。
 シンタローで。
「嘘。嘘です。ごめんなさい。だから怒らないで」
「……別に何も言っとらんが」
 涙をだばーっと流してひたすら謝るシンタローを、パプワはただ見守るばかり。
「ふん。何かよく解らんが、ボクに嘘ついた罰として、今日の晩メシはオマエが作れよ」
「……はーい」
「当然美味くだぞ。あと、返事はもっとちゃんと言え」
「はいぃ!!!」
 いつの間にか陸に上がったチャッピーが大口開けていたので、シンタローはすぐさま返事をし直し、踵を返して森の中へと行った。
 結局何をしに来たんだか……やっぱり、リキッドのあの発言が悪い。殴ったら一発ぶん殴る。そう決めて、食材を探しに出かけた。




 そろそろおやつの時間なので、パプワはチャッピーを連れて家に戻った。
 着けば、リキッドがシフォンケーキを切り分けていた。後ろに居る何かの塊みたいなのは、多分ダメージから回復してないトシゾーだろう。
「よぉ、お帰り。今、ホイップクリーム乗せてやるから」
 かちゃかちゃと泡だて器を回しながら言う。
 そして、あれ、と思う。
「そういやパプワ、しゃっくり止まった?」
「みたいだな」
 そう言って席に着き、シンタローの帰りを待った。




<END>





いやねぇ、ふと唐突にパプワがしゃっくりしてたらそらもー、かわいいんでねぇかって思ったんだよ。意味なんてないんだよ。解ってるだ・ろ?
それでこの話関連で、世界のしゃっくりの止め方ってのを調べてみましたよ。ナイス暇人。
驚かすってのがやっぱり万国共通みたいです。あと、質問責めにするってのも多かったッス。それに答えるのに気をとられてしゃっくりが止まるとか。理にかなってるような乱暴なような。