色としては鏡割りの時に食べたお汁粉に近いかもしれないが、この芳香は明らかにそれで無いと告げている。非常に強い香りだが、嫌なものかと言えばそうでもなく、かと言って馴染めるようなものでもないが。
ただただひたすらに黒く、強烈に存在を主張する香りを発するその液体を、それまでは興味深げに見ていただけだったが、カップに入っているから食べ物なのだろう、と確信を固めたらしく、味わってみようと手を伸ばし。
すると、カップがその手から逃れるように上へと昇っていく。勿論、カップに羽が生えた訳ではない。
「何をするんだ。ボクも飲みたいぞ!」
カップを取り上げたシンタローに猛抗議。
望みを叶えてやらなかったときのパプワはそれはもう怖いが、けれどけじめはちゃんとつけないとならない。
「これはダーメ。子供はこっちにしなさい」
と、牛乳を入れたパプワ用のマグカップを手渡す。
まだコーヒーに未練がありそうな視線を向けながらも、それを受け取るパプワ。
「どうして、飲んじゃいけないんだ」
尋ねるパプワ。当然、シンタローが答える。
「あー、これにはな、薬みたいな成分が入ってるんだよ。だから、子供の時はあまり飲んだらだめなんだ」
ふぅんと相槌を打って納得する。
「大人になったら、飲んでもいいんだな」
「まぁな」
「じゃぁ、早く大人になる為にも牛乳おかわり!」
飲んだ所で背は伸びるが、早く大人になれる訳ではないのだが。それでも子供らしい我侭に口元を緩めながら、おかわりを注いでやった。
それからしばらくして。
「シンタロー、寝ないのか?」
風呂に入ってパジャマに着替え、歯磨きも済ませたパプワと違い、シンタローはまだ机に向かっている。
「あぁ、これ仕上げちゃわねぇとな。先に寝てろよ」
あえて言わないが、今夜は徹夜だな、とシンタローは思う。残量と自分の処理速度を冷静に計算した結果だ。
仕方無い。これも来るべき大型連休にパプワと遊ぶためだ。
「解った」
てってけて、と足取り早く寝室に向かうパプワの後姿に、ちょっとくらいは一緒に起きてるとか駄々捏ねてもいいんだよ、とか危うく訴えかけたくなったシンタローだった。
<END>
|