別にシンタローは率先して物事をさぼる性癖の持ち主ではない。
が、この島の雰囲気と、何より自分の去り際にパプワの寂しそうな(多分シンタローの錯覚)表情が帰るのを躊躇わさせてしまうのだ。
つまり俺は悪くないとシンタローは言い張るが、じゃぁゆっくりしていいよと言える訳が無いので、伊達集がお出迎えに来るのであった。
で、今日は。
「迎えに来たぞ、シンタロー」
「げ、キンタロー!?」
「うわー、珍しいッスね」
思っても見なかった人物の出現に、おやつ前のお茶の間が俄かにざわめく。
「何でお前が来るんだよ」
「もう迎えに来るのは嫌だと全員に涙眼で懇願された」
シンタローの疑問に完璧に答えるキンタロー。
そうだよなぁ、迎えに来るたび眼魔砲食らっちゃ俺でも嫌だなぁ、と今は何処に居るとも知れない伊達集に、そっと同情した。
さすがにキンタローには眼魔砲攻撃はしないのか、ち、と舌打ちするだけだった。
「仕方ねぇな。少し待っててくれよ。2,3年くらい」
「10分で用意しろ。経ったらそのまま連れて行く」
この2人って、いいコンビだなぁ、と思うリキッドであった。
「そうだ、キンタローさん。今からおやつですから、一緒に食べましょうよ」
「いや、俺は………」
「わーい、今日はお客さんだな、チャッピー」
「わう!」
「……コーヒーはブラックで頼む」
「はーい」
自分に決定権が無いのを悟った、賢いキンタローだった。
そう言えば手作りおやつなんで食べるのは久しぶりだな、と思いつつ、何時までもぼけっと立ってられないのでちゃぶ台に着く。
何かの目的無しに、こうして腰を落ち着かせるのも大分久しぶりだな、と南国の風を受けて思う。
そんなキンタローに、パプワがとてとてと近寄る。
「今日のおやつは、プリンなんだぞ」
良かったな、と言う。
「……………」
「どうした。プリンは嫌いか」
「いや、特に好きでも嫌いでもないが……」
律儀に答えるキンタローだ。
「俺が怖くないのか?」
「?何が」
「昔、島を壊そうとした側の人間だぞ」
なのに、そんな無防備に近寄って。
すると、パプワは眉を顰めた。
「何だ、お前また壊そうとしているのか?」
「そんな訳では、」
「じゃ、もういいだろう」
自分のココナツジュースをじゅるー、とストローで飲む。
「それに、皆から聞いてるぞ。シンタローと一緒になって頑張っているんだろう?そんな相手に、何を怖がればいいんだ?」
それを嘘偽りでなく、本気でそう思っている事は、真っ直ぐな視線が証明している。
「……………」
なるほど。
居つきたく、なる訳だ(とは言え、迷惑極まりないが)。
ふ、と息を緩める。思えば、此処から来た時から少し緊張していたのかもしれない。今は、もう、無い。
「……ん?」
パプワの髪に、何か違う色のものを見つけた。葉っぱだ。
「原っぱかどこかで転がったりしたか?」
「さっき、チャッピーといっぱい遊んだぞ」
その時付いたみたいだ。
「何かの葉が付いている」
取るからじっとしていろ、と呼びかけて手を伸ばした。
しかし、それが葉っぱを取り除く事は無く。
「どーぞ、粗茶ですが!」
ぎん!とミヤギ辺りなら卒倒しそうな視線でシンタローが言う。
「……………」
進行方向に露骨に割り込んだ湯のみが手に当たってとても熱い。
「コーヒーじゃなかったのか?」
湯のみの中を覗き込んで、パプワだけが平和だ。
<END>
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