「何、マヨネーズが無い?」
来るべき学園祭(というか今日がその当日なんだが)にて、我がクラスはオーソドックスながらも喫茶店を催し、しかし俺が携わるのだから味を重視に置いた企画にした成果はあり、客の入りは上々。この調子なら売り上げでも来客アンケートでも総合1位は間違いナシ!って時に小さなハプニングが。
「そうなんだっちゃよ。もう、予想以上の売れ行きで」
困ったような顔をして、トットリがマヨネーズの容器をへこへこ振る。最後まで使いきろうと。
「……マヨ抜きって訳には……いかないよな」
何で最近の若者はマヨネーズが好きなんだろう、と自分も同年代て事を棚に上げて考えて……る場合じゃない。
「仕方ねーな。ひとっ走りして俺が買って来るから、それまでよろしくな」
そして俺はマヨネーズを買いに行った。
しかし、この時あんな事になると知っていたら、俺は絶対行かなかった。
でも、知らなかったんだもんなぁ……はぁ………
シンタローが買い出しに行って暫くした時だった。
「おーい、何かちっこいのが来たへぐぁ!」
クラスメイトが何か言い、その後どうしてか呻きに変わった。
何事だ、と4人が教室に出ると、
「誰がちっこいのだ。失礼な」
ちっこいと言われた相手が言った相手の頭に足を乗せてふんぞり返っていた。
こんな事が出来るお子様を、皆は1人しか知らない……というかそれだけで十分だ。
「おや、パプワ君やあらしまへんか」
アラシヤマの声に振り返るパプワ。見知った連中にてとてとと近寄る。ちなみに踏まれた彼はまだ撃沈中だが、相手と運が悪かったね、って事で諦めて貰おう。何せ、俺様なシンタローを顎で使える人物なのだから。
「シンタローは何処だ?来たらパフェ食べさせるって言ってたんだが」
うわぁ物で吊ってるよあの人、と4人は遠い目で思う。
「シンタローは今買出し中だっちゃよ。中で待つといいっちゃ」
「ふん、段取りの悪いやつだな。じゃぁ、待たせてもらうぞ」
恐れ多くもこの学園の生徒会長様をそう言えるのは、この少年だけだろう。
「結構繁盛してるんだな」
ひょっこり顔を覗かせて、店内を伺いパプワが呟いた。
「シンタローはんが立ち上げた企画どす。流行って当たり前や」
ふふんと何故か得意げにアラシヤマが言った。
「でもそのせいで今、ちょっとピンチなんだっちゃよね……」
マヨネーズをまだへこへこさせてトットリが言う。その辺の事情をパプワに言うと。
「だったら、使わないメニューを斡旋すればいいじゃないか。全部が全部使う訳じゃないんだろ?」
あぁ、そういう手もあったな、と同時に手を打つ4人。3人寄れば文殊の知恵とか言うか、この4人はパプワに言われるまでそれに気づかなかった。
「お前ら女子に人気があるんだから、表で薦めれば一発じゃないか」
「あー、生憎その手は使えんのじゃ」
すっぱい顔してコージが手を振りながら言う。
「ボクら、学園祭実行委員から顔出し厳禁令を食らっとるんだっちゃ」
「顔出し……?」
疑問に首を傾げるパプワに、アラシヤマが説明する。
「ワテらが出ると出し物の内容関わらずに繁盛してしまうさかい、不公平やと去年苦情が殺到しましてな。まぁ負け犬が遠くで吼えているだけですわな」
へ、っと最後に人を見下す笑みをするアラシヤマだった。
「まぁ最もアラシヤマの場合、顔を出すと子供が脅えるからっちゅー理由も込みだと思うっちゃ」
「そういうあんさんは中学生と間違われるからでっしゃろ」
「……………」
「……………」
2人が後ろの方で喧嘩を勃発させる寸前。
「ん?」
コージが何やら声のようなものを発し、やおら学園祭の注意事項の書かれたプリントを引っ張り出す。
「………おぉ、やっぱりそうじゃ」
1人でうんうん頷くコージに、何事かと疑問に思う。
コージはパプワに向かって言う。にやり、というような笑みを浮かべて。
「のう、もーっとパフェ食いたくないか?」
「?」
あーぁ、近くのコンビニに使ってる銘柄置いて無いもんだから、時間食ったなぁ。
マヨネーズ無しで持ちこたえてくれたかな、あいつら……
教室に近づくと、人が引いては居ないから、最悪の事態は逃れたようだ。
って言うか。
人、多くないか……?
「そこのお前、寄って行けー。ピラフが美味いぞー」
………今の声……って………
まさか…………
半ば強引に人を掻き分け、その声に近づいていく。
まさか、という文字も近づくみたいに大きくなる。
そして。
やっぱり。
「パプワじゃねーかって、パプワ-------------!!!?」
「人の名前を大声で復唱するな耳障りだな」
すごし!と持ってた旗で攻撃されるがそれにめげている状況ではない!!
「何だお前その格好--------!!」
「白いシャツと黒いズボンと腰下のエプロン」
「上に一個余分なのがついてるでしょーが!!耳!猫耳!!!」
そうだ、パプワの格好は一見すればフツーのちっちゃいギャルソンなのだが、頭部にピン、と三角の耳が立っていてなんともファンシーだった。
このままお持ち帰りしたいくらい可愛い。
………えーっと。
「と、とにかく……取りなさい、こんなもん!」
ぐい、っとそれを引っ張ると、
「痛い!何をする!」
「どぇ、」
悲鳴半ばに俺は床に叩き付けられた。どういう投げ方をされたかは知らないが、人垣から拍手と感嘆の声が発せられた。
「なんか騒がしいっちゃねー。
…………あ」
ドアを潜って来たトットリと、床に倒れている俺とが眼が合った。
「……説明しろよ、全部」
あわわ、あわわと蒼白になるトットリを、俺はギロ!っと睨んだ(倒れたまま)。
「全くお前らは何を考えてるんだ!!」
とりあえず全員に一発ずつ拳骨食らわして正座させる。
「い、いやぁだからっちゃねー、シンタロー。マヨネーズが残り少ない側としては、なるべくそれを使わんものを注文して欲しいんだわいや」
「シンタローはんが居ない時に値引きとかよーしませんし、ワテらは表に立てまへんし」
「そんな時、丁度折りよくパプワ君が来たもんで………」
「だからって使っていいと思ってるのか!!」
「じゃけぇ、学園祭の注意事項第21条には自クラスの催し物の宣伝のみに関し、他校生の友人及び親族ならびにペットの協力を許可すると」
「普段ダイナミックレベルのがさつさ度合いのくせに、こういう時だけ隅から隅までプリントチェックしてんじゃねーよコージ!
その注意事項とやらには常識を逸した格好は禁ずるとか何とか書かれてねーのか」
「全長1メートル以上の物は持ち歩き禁止とはあるけんのう」
それは本当に学園祭の注意事項か。
「……ったく……パプワもパプワだ。普段何もしないくせによ」
「人が久々に労働意欲を燃やしてやったというのに、何だその言い草は」
「パプワ、凶器も選ぼう。さすがの俺も金おろしはちょっと困る」
ちなみに未だ付けっぱなしの猫耳も困る。どうも気に入ったらしい(人の気も知らないで……)。
「どうせ何か物に吊られたんだろ。何くれるっつった?」
「パフェ食い放題!!」
パプワは意気揚々と言ったが、そこまで言ってないよってな具合にみんなが首を振っている。しかし、無視しよう。
「んー、パフェはアイス使うからなぁ。だから、食い放題にするならケーキにしてもらいなさい」
「解ったー」
だから食い放題じゃないって、と皆がまた首を振っている。しかし、また無視しよう。
「よし、話が纏まった所で通常営業開始!ほら、持ち場に戻れ」
のそのそと立ち上がる(足が痺れたらしい)皆。
「でも、シンタロー、これでも色々自制した結果なんだっちゃよ」
「当初の計画じゃ猫耳でメイド服じゃったけんのう。はっはっは」
「いやーぁ、オラはいけると思うべ?パプワ君くらいの年齢ならまだ笑って許せる範囲だべ」
「あっはっはっはっは」
いいよね、2人くらい減っちゃっても。
しかし一番殴りたいのは想像しちゃった自分だってのは此処だけの話。
さて、後日。パプワの労働に対する報酬を皆がした。つまり、ケーキ食い放題。
「じゃ、この辺のやつ、上から順番に持ってきてくれ」
ウキウキ、って感じのパプワが側の給仕に注文する。普段生意気だけど、こういう時は素直な子供って感じがするよな。
その横で何か陰鬱な声でぼそぼそと喋っている。
「……ミヤギ君、此処、ケーキが一個千円以上するっちゃよ……」
「オラのほぼ3日分の食費に等しいべ………」
「シ、シンタローはん!話が違うやないどすか!普通にいつも行ってる店って……!!」
「んー?俺は普通にいつも行ってるけどー?」
「ワシらの基準に合わせてくれんと!」
「知らね。ンな事」
がっくりと首を落とす4人。
これで生活費何か月分かは知らないけど、命あるだけマシと思いやがれ。
「美味いな!シンタロー!」
「そーかそーか、もっと食えよ」
やめてぇー!と皆の聴こえない悲鳴がした。
<END>
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