大人酒飲み養成講座





 それはある日。
「オマエらー!」
『ごめんさない』
「……何を唐突に謝ってんだよ」
 状況を少し説明すると、刺客4人集が固まってたむろしている所を偶然シンタローが発見し、呼びかけたら相手全員が平謝りしたのだ。
「いや、おぬしと関わると最終的に攻撃されて怪我するんで、それを少しでも抑えようかと」
「アラシヤマを人身御供にあげるから、手加減して欲しいっちゃ。ボクとミヤギくんは」
「相変わらず人をないがしろにする忍者はんですな」
「安心していいべ。アラシヤマだけだから」
「あーもうオマエら煩い!別に俺は日本に帰されない寂しさを紛らわす為に八つ当たりしようって訳じゃねーよ!
 今は」
 最後に物凄い引っ掛かりのある単語を残したシンタローだ。
「酒を造ろうかと思ってよ。人手が欲しいんだ」
「酒?」
 鸚鵡返しにアラシヤマが訊いた。
「酒って、アルコールの酒どすか?」
「その酒だ」
「でもシンタロー、酒ってナントカ法で許可な無しでの製造を禁止してるんじゃないだらあか?」
「いいか、トットリ。よく考えてごらん」
 シンタローは言った。
「此処は、日本じゃない」
 なるほど。
「幸い米はあるからな。日本酒まではいかないにしろ、どぶろくくらいは出来るぜ。順調に行けば、一ヶ月もしないで完成するだろ」
 酒、と聞いて皆の目が変わる。この島には自由と自然は山ほどあるが、いかんせん娯楽が足りない。特に、大人の。
「よし!それじゃいっちょ、やったろうかのぅ!」
「もちろん、分け前くれるっちゃよね?」
「くぅー、久しぶりに酒が飲めるべ……!」
「シンタローはんと晩酌……えぇでんなぁ」
「やー、方法知ってから是非一回造ってみたかったんだよなー。日本でやったら犯罪者だもんな」
 五者五様の反応を見せ、ともあれ酒は造られた。




 で。20日後。
 酒は立派に皆の前に姿を現していた。
 それを、皆のコップに入れていく。
「おぉぉおー!!本当に出来たべー!」
「やりゃぁ出来るもんじゃのー」
「何せ、指導者が良かったからな」
「シンタロー、肉体労働はボクらぁに任せっきりだったわいや」
「仕方ねーだろ、ウチには扶養家族が1人と1匹いるんだからよ」
「み、みなはん……ワテにも一杯おくれやす……」
 出遅れたアラシヤマがコップを持ってうろうろしていた。
「て、シンタロー。そのパプワくんたち、どうしたっちゃ?」
「ちゃんと出かけるって言ったし、メシ作って来たから、大丈夫だろ」
 何か久しぶりに飲み会に行くお母さんみたいだなぁ、と皆思ったが口にはしなかった。
 殴られるから。




 ガサガサと皆が酒を楽しんでいる最中で、後ろの茂みが揺れる。
 何かと思えば、パプワとチャッピーの登場だ。
 シンタローの帰りが遅いので、迎えに来たのだ。シンタローがちょこっと心配なのと、明日の朝食が大分心配だからだ。
「シンタロー」
 と呼びかけてみるが、シンタローはパプワにも気づかないで、撃沈寸前のアラシヤマの首を締めて「俺の酒が飲めねぇのかー!」と喚いていた。古典的な酔っ払いであった。
 シンタローの代わりに、それから逃れた他3人がパプワの存在に気づいた。
「おー、パプワくんでねぇか」
 酒くさいな、とコージを見てパプワは思った。
「ま、おぬしも色々抱えるものもあるじゃろ。今夜はそれを流しちまえ。
 て事で一杯」
 子供にどぶろくの入ったコップを渡す無責任な大人、コージ。
「あー、コージ、シンタローにばれたら殴られるっちゃよ?」
「平気じゃ、あんなんになっとるし」
 シンタローはコブラツイストをアラシヤマにかけていた。
「その後蹴られて締められて抉られて埋められるかもしれないっちゃよ?」
「……どうなるんじゃ、ワシは」
「でーじょうぶだってトットリィ!何せパプワくんだべ?ほれ、飲め飲め!」
 無責任な大人その2、ミヤギが勧める。
 パプワはコップの中の、今まで口にした事の無い液体に不信感を募られていたが、皆が、というかシンタローが平気にごくごく飲んでいるので、飲む事にした。
 ごくり。
 ばたん。
『………………』
 あっと言う間の出来事で、誰も何も出来なかった。
 気づけば、コブラツイストかけたままのシンタローがこちらを見ている。
 凄い冷たい目で見ている。
 標準を決めた狙撃手みたいな目で見ている。
『………………』
「シンタロー!コージがパプワくんに酒を!!」
「オラ達が必死に止めるのを無視してー!!」
「ワシかー!?ワシだけが悪いんかー!!?」
「………とりあえず、チャッピー。噛め!!」
「あうッ!」
 シンタローの合図がなくともスタンバイだったチャッピーは、早速襲い掛かった。
「ぎゃー!」
「わー!」
「どぇー!」
「何でワテまで!!」
 地獄絵図になった4人はさておき。
「パプワ?おい、パプワ」
 倒れたパプワを覗き込む。
 よく見れば、ただ眠っているだけのようだった。
(さすがのコイツでも、酒には弱かったか……当たり前のような、意外のような)
 少し赤いような頬に指を滑らせ、柔らかく苦笑して、抱き上げる。
 何時もだったら暴れる所だが、今は大人しく身を預けている。何だか、別人のようだ。
「さ、チャッピー。帰るぜ」
 南国とは言え、野宿はさせられない。
「わう!」
 シンタローの呼びかけに応え、後ろをついていくチャッピー。
 去っていく姿を見て、ほっと安堵の溜息をつく4人。
「た、助かったべ……」
「シンタローは、よく耐えていりんさるわ……」
「あー、死ぬかと思ったのぉ……」
「だから、何でワテまで………」
 ずたぼろに
「おー、そうだ、忘れ物」
 シンタローはくるり、と回って、みんなに向かって、とても笑顔で。
「眼魔砲」




 子供に酒は絶対に勧めない事。
 皆は正しい酒飲みへの第一歩を歩き出した。




<END>





何、これ。
何だかシンタローがパプワにすっげぇ優しい……
在り得ねぇ……てかもうキショい……
は。そう言えばシンタローさん酒入ってたんだわ。それか原因!!
リキッドがチョコ作れるくらいだから、シンタローさん酒くらい造れるわよねーって事で出来たお話です。

タイトルは某かすかに話題の広告より(笑)
面白いなぁ。