提燈持ってあっちにふらふらこっちにふらふら。
「あ!」
と叫んだのはリキッドで。
「ジャック・オ・ランタンだー!すげー、これ、シンタローさんが作ったんスか!?」
「ガキみたいにはしゃぐなよ」
目鼻を刳り貫いたカボチャの置物をみて、目を輝かすリキッドに、呆れた溜息を漏らす。
「へへ、これ見るのも久しぶりだなー。て言うか、何時の間に作ったんですか?」
「何言ってんだ。たった今カボチャの煮つけ食ったばっかりだろ」
「……うわぁ、和洋折衷」
食材は決して無駄にしない、主婦の鑑なガンマ団総帥であった。
「”ジャック・オ・ランタン”て何だ?」
にゅ、と2人の会話に文字通り顔を突っ込むパプワである。
あのな、とシンタローが説明する。
「こんな風に提燈みたいにしたカボチャの事を、そう言うんだよ」
ぽん、とそれを叩き、言う。
「それは解ったが、それがどうしてそんな名前なんだ?」
「……うーん、それは、……ちょっと解らないです」
「役立たず」
「………………」
パプワの短い一言にぐっさり傷ついたシンちゃんでした。
「あ、それ、俺知ってますよ」
何気なくさらっと言ったリキッド。手にはランタンに居れる蝋燭を持っていた。
「ジャックっていう狡賢い男が居て、生前の悪さのせいで天国にも地獄にもいけなくて、罪を償う為にカブのランタン持ってあの世とこの世を行き来しているから、”ジャック・オ・ランタン”----提燈のジャック、て呼ばれるようになったんです。それは、さまよう霊魂の代名詞になったもんで、そのままハロウィンに使われるようになったんですね。で、カボチャの方が色も大きさも派手で目立つから、今はカブではなくてカボチャになってるんです」
「へー、リキッドはもの知りだな」
「いや、そんな、あまり褒めるなよパプワ」
「まぁ、誰にでも1つはとりえはあるよな、とりえは」
「いや、そんな、あまり睨まないで下さいよシンタローさん」
リキッドがしっかりとジャック・オ・ランタンを握っているのは、当然眼魔砲除けの為だった。
「わーい、提燈提燈」
「こらこら、あまり振り回すんじゃありません」
蝋燭を入れて完全体となったランタンを振り回し、はしゃぐパプワ。
「皆に見せて来るぞ」
チャッピーにまたがり、外へ出る。
「あまり、遅くなるなよ」
「解っとるわい」
素っ気無く返し、てけてけ歩き出した。
「ったく。じっとする時は寝てる時だけか」
寝てる時も時々じっとしてないが。
「シンタローさん、そんなに寂しいなら一緒についていけばいいじゃないですか」
「そうは言ってもな------
おい、誰が寂しそうなんだ、誰が」
「いいいい、いえ、俺個人がそういう風に見えたものですから、違ってたらすいません心の底から謝ります------!!」
ぎろり、と剣呑な目で睨まれて、ヘビの前に立ったような気持ちだ。あぁ、心臓に悪い。
しばらくして、パプワが帰って来た。
「なぁ、シンタロー」
「んー、何だ」
「”ゆず湯”はいつやるんだ。”ゆず湯”は」
ランタンを机に置き、シンタローに言う。
「何スか、”ゆず湯”って」
今度はリキッドがクエスチョンマークを飛ばす番だ。
「何だ、知らんのか」
と言ったのは今度はパプワ。
「冬至にはゆず湯に入るもんだ。肌も強くなるし、風邪もひかんようになる。なぁ、シンタロー」
「……………」
「どうした。呆けた顔をして」
「いや、よく覚えてたな……と」
シンタローがそう言うと、パプワはふんと鼻を鳴らす。
「ボクは、一度言われた事は忘れんぞ。そういう事で、貴様も忘れるんじゃないぞ」
「別に、何も忘れてねーだろうが」
非難めいたもの言いに、つい喧嘩腰に言う。当然この後には、パプワがチャッピー!とか言ってがぶ、とかやられるくせに。
そんな様子を見て、シンタローさんも一度ランタン持って彷徨ってみるべきなんじゃないだろうか、と思うリキッド。
罪を償う為じゃなくて。”素直さ”を見つける為に。
でもそうしたら、一生戻って来ないかもなぁ、とやっぱりがぶりとやられてるシンタローを見て、こっそり思った。
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