夢を見た。昔の事。
馬鹿みたいに毎日騒いで、跳ねて、走って。
馬鹿みたいに。
幸せ、だった
「だからね、科学者の僕が言うのもなんだけど、やっぱりプログラムっていうか数字には限界があると思うんだ」
神妙な顔をして、グンマが言う。
「どんなに複雑なプログラムを組んでも、人の頭脳には適わない----
だったら、僕はいっそそれをそのまま利用しようと思ったんだよ!!」
「----要するに-----」
俺は引きつる口を必死に堪え、言葉を紡ぐ。
「現在製作中のペットロボットのプログラムに実際の人物の性格をデジタル化したデータをインプットした所、ものの見事に暴走して何処行ったか解らなくなったと-----」
「…………。
えへへv」
「…………………」
ゴズ。
「ぶわ-----ん、痛いよ------!!」
「いい年こいて殴られて泣くな!ったく、仕事増やすなよお前は!!」
「あうぅぅー」
頭押さえて涙眼になるグンマ。
「で、全部で何匹だ?」
「えっとね、此処にいる皆分」
「て事は7匹か……頑張れ、お前ら」
俺が折角労いの言葉をかけてやったのに、何故かあいつらは不満そうだった。
「折角の盆じゃと言うんに……」
「ご先祖の供養も出来んべ」
「僕らぁをそんな事に使わんで欲しいだわいや!
アラシヤマ1人だけにしぃ!」
「忍者はん、さりげなく押し付けてまへんか?」
「何言ってんだよ、皆が揃うなんて滅多に無い事じゃねぇか。あぁ、俺って優しいなぁ」
『こンの……俺様が!!』
何か言ったけど、何処吹く風以下って事で。
「まー、とりあえず。さっきからミヤギの足元引っ付いてるコイツはトットリで間違いねぇな」
なんて言ってる傍から、ミヤギの足に身体を纏わり着かせている仔猫。さすがというか、外見からじゃとてもロボットだとは思えない出来だ。ヒゲの動きもなんともリアルだ。
「えー、それはきっと僕だよ。人懐こいもん」
「いや、お前はこっちで腹出して寝転んでるコイツだ」
その姿は、野生の欠片も見えない。
「そうかなぁ」
まだ認めないグンマに決定的証拠を見せる事にした。
「おいアラシヤマ。そのネコ抱っこしてみな」
「へ?はぁ………」
と、屈みこみ、ミヤギの傍に居る仔猫を抱きかかえようと手を翳すと。
ガップ。
噛み付くネコ。
「あいだ----------!!!」
「あぁ、トットリだ」
「トットリじゃのぅ」
満場一致、目出度し目出度し。
「離しはなれこのアホネコ---------!!」
「やったれ!もっと噛み付くっちゃ!!」
さーて、残りもさくさく探しますか。
んで。
各場所に広がっていた仔猫ズを順調に確保。
エサを漁っていた”コージ”に(ロボットのくせに……)高い所へ登って降りられなくなった”ミヤギ”(後先考えない)。ボールを前にしげしげと眺めていた”キンタロー”と(見るのが初めてだったんだな、多分)一番奥の部屋のさらに奥に居た”アラシヤマ”(言うまでもなく)を見つけた。
「……”シンタロー”がおらんべ」
「ふふん、さすが俺だ」
「威張ってる場合だらぁか?シンタロー」
「シンちゃーん!何処ー!!シンちゃ……でっ!!」
「アホみたいに呼ぶな!本当に俺が迷子になったみたいだろうが!」
グンマが日記帳に何か書きなぐってるが、まぁ、昔からだし。
「……相手がシンタローなら……」
キンタローが横で何か言ってる。
「グンマ。コタローの写真はあるか?」
「あぁ、うん。これ……」
と、グンマが写真を出し、キンタローに手渡す前に。
シャ!と小さい影が2人の間を通過した。
「……………」
影の行き着く先を見れば、コタローの写真に頬ずりしている仔猫がいた。
「あれだっちゃ」
「間違えねぇべ」
何だよ。
文句あるのかよ。
「あー、良かった!全部集まって!」
「本当、はた迷惑だっちゃ」
「今度何か奢らんかい」
ぶつぶつ言いながら、各自自分の仔猫を抱きかかえてグンマの研究室へ向かう。
「ふぅ、やれやれ……って、あれ?」
「どうした?」
「あれ?あれ?」
キンタローの呼びかけにも答えず、ただただ、うろうろするグンマ。
「あ-----!!やっぱり1匹足りないよ--------!!!」
「何ぃ?お前ここに居る人数分だって言ったじゃねぇか」
そうして、全員が皆持っている。
他に誰の性格が?
「おかしいなーおかしいなー。うわーん、どうしよう、シンちゃーん!!」
「知らん!1つくらい自分で解決してみろ!」
って言っても、どうせキンタローに泣き付いて、んであいつもあいつで付き合っちまうんだろうな。
ま、それで釣り合いが取れてるならいいさ。
「でも本当可笑しいよ。電源が入っただけじゃ、何をどうするかって指令が出ないから、動かない筈なのに……」
なんていうグンマの呟きを他所に、俺は仮眠室へ向かう。
いい加減、睡眠取らないと。
自発じゃなく、スケジュールで決めないと、俺はつい寝ることを疎かにしてしまうから。
キンタローからそれについて厳重注意を受けたのは、そんなに前じゃない。
……焦ってるんだろうか。
”あの日”を取り戻したくて。
でも、もう何処にもないような気がして………
”居る”よな、パプワ。お前は、ちゃんと。
何処に居るかはさっぱりだけど……
居るなら、それだけで-----
……居る、よな?
気づけば足は引きずるみたいに重くなって、目の前が仮眠室だった。
寝よう。寝れば、頭もすっきりするし、余計な事は考えない。
そうして、ガチャ、と開けると。
べっちょり。
「んなっ……!?」
何かが顔に張り付いた。
それをべり!と剥すと。
「……ネコ?」
仔猫だ。
腐ってもここはガンマ団。文字通り、ネコの子一匹通さないセキュリティを保持している。
て事はこのネコは団内で出来たもので……つまりグンマのだ。
こんな所に潜り込んでいやがったのか……
あーぁ、見つけたからにゃ仕方ない。持って行ってやるか。
首根っこ持ってひょい、と持ち上げると、もろに眼が合った。
すると。
びょっと空中の、つかまれたままでどうやってその飛翔力が出せるのか、また俺の顔に引っ付いて、しかも今度はばりばりと爪を立てた。
「イテテテテテ!何だおい!!」
溜まらず声をあげ、あわてて引っ掴む。
まだ、今度はもっと近くで眼が合う。
機械にしては、やけに力の篭った眼だな、と思った。
そうして、ふと。
思い出す。あの島であった、1つの思い出。
そして、コージが言ってた事。
”折角の盆じゃと言うんに……”
今は、盆だ。
いつかのその日に、あの島で。
俺はカムイにコタローに会いたいって言って……でも、行ったのは魂だけで、ヌイグルミに乗り移って……
ヌイグルミ………
「……………」
目の前には、ロボットの仔猫。原因不明で起動している。
「…………パプワ?」
ガバターン!!
「シンちゃぁぁぁん!やっぱりどう考えても変なんだよー!助けて……って、あぁ!ネコ!!」
部屋に入るなり、猫を見つけるなり、グンマは俺からネコを引っ手繰った。
いや、持ち主なんだけど、それはいいんだけど……
「おい、ちょっと………」
「あれ?動いてないのに、何で此処まで来れたの?」
「え?」
動いてない?
グンマの腕の中を覗き込めば、くったりとしているネコのロボット。眼はガラスで、室内灯を反射させるだけだった。
「何もかも変だよ……うーん………」
「………世の中、常識だけで片付いたら面白くねぇだろ。そーゆー事もあるって」
俺の言葉にグンマが振り返る。
「そうだね」
そうだ。
それで、いいんだ。
今日は、久しぶりにゆっくり眠れそうだった。
<END>
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