あぶあぶ。
あぶあぶあぶあぶ。
なんて実際には起こってない粗食音が聴こえそうで、パプワが何してるかっつーと自分の腕齧ってんだよな。
「何やってんだお前は」
齧ってるというより唇で食んでいたのは、歯形は無かった。涎に塗れた腕を口元を拭ってやる。
「いや、いつ頃なんだろうな、と思ってな」
すぐには解らない答えが返って来た。
「いつ頃、何が」
「美味しくなる頃だ」
は?
また訳の判らん事を。
「ボクは美味しくなるんだろう?」
「だから、美味しくって……」
何だよ、と聞こうとして。
「そして、お前がボクを食べるんだろうが」
……疑問は解消された。
「………パプワ………」
何かいろんな意味を込めて震えそうになる腕を叱咤して、なるべく気軽に肩に手を置いた。
「誰だ?お前にンな事吹き込んだヤツぁ………」
「言われた訳じゃないぞ。勝手に聞いたんだ」
パプワ曰く、今日散歩に出かけたら、洗濯物を干しているリキッドに侍が話しかけていたらしい。
”シンタローのやつ、パプワくんの食事にあれこで口出すのはさっさと成長させて美味しく頂こうっていう魂胆じゃねーのか?気を付けた方がいいぜ、絶対”
侍ブッ殺ス。
殺意の矛先が判明した俺は、そのまま怒鳴り込もうとした。
したのだが。
「お前、本当にボクを食べる気か?」
くん、とズボンを引っ張って、そんな事を言って俺を引き止める。
パプワの言う”食べる”って単語には、それ以上の意味は含んでない事は丸解りだった。
だから、俺に動揺する理由はない。そうだしてないんだしてないんだったら!!!
あぁでも上目遣いにこのセリフは堪える!!!
「シンタロー」
「はい、何でしょう」
思わず敬語になったのは、別に疚しい事がある訳じゃあないぞー。……きっと。
「本当に食いたいのか?」
「……えーと」
何て答えればよいのやら。学校の教科書や訓練は、こんな事は教えてくれなかった(そりゃそーだよ)。
「そうなら、どうするんだよ」
「お前がどうしても食いたいというなら、食わせてやらん事もない。その代わりもっと働けよ」
「誰でもいい、って言ったら?」
「止めさせる。友達に友達を食わせる訳にはいかん」
と、言うパプワ。
そこに何かしらの独占欲とか嫉妬とかを希望するのは、ありえない事だろうかね。
だって。
「なぁ、パプワ」
「何だ」
「俺達、友達だよな?」
「そうだぞ」
「だったら、お前を俺が食うことを認める事は、今言った事に矛盾すんじゃねーの?」
「------」
「……自己犠牲?」
「違うぞ」
「じゃ、何でだよ」
「……………」
あ、パプワが言葉に詰まった。珍しい……と、眺めている場合でもない。
「〜〜〜あー、何だ」
俺はパプワの頭をぐしゃぐしゃとかき回し。
本当は、もっと聞きたい事はあるんだけども。
俺が率先して他のヤツを食いたいとか言ったらどーすんだとか、それ聞いた時どー思ったんだ、とか。
結局俺は大人でパプワは子供で。
ずるい大人は、無垢な子供を絡め取る手段を、いくつも知っている。
「俺は、お前を食ったりしねーよ。あいつらが聞いたのは……まぁ、言葉の例えってヤツで。
ほら、”キツネに抓まれたような”っつっても、本当に抓まれた訳じゃないだろ?」
自分でもいい加減だなーと思ういい訳だったが、パプワは納得してくれたみたいだ。何だかんだで、子供だなぁ。
「じゃぁ、食べるのは例えだとして。
お前はボクになにするつもりなんだ」
「え。」
パプワの質問に、手が止まる。
「とりあえず、何かするのは間違いないんだろう?
何を、する気なんだ」
「え〜〜〜〜と」
そのまま本音を晒して事を進展させないのは、俺に甲斐性がないからじゃなくて理性があるからですよ、皆さん。
「言えないのか」
む、とパプワの眼が剣呑になる。
その後勿論チャッピーけしかけられて、俺は自分の血を沢山流して。
でも、その後侍にそれ以上の流血、侍(とついでの家政夫)させたから、さて今日のメシでも作ろうかな。
<終わってしまえ>
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