刻の切り抜き





 本日の朝食はサニーサイドアップの目玉焼き(黄身は半熟)カリカリのベーコンにサーモンとキュウリのサンドイッチ。
 飲み物は、俺はカフェオレ、パプワはオレンジジュース、チャッピーは牛乳で。
「美味いかー?」
「ボクは、もうちょっと黄身に火が通ってた方が好きだ」
 未だに素直に美味い、っつったためしがねぇよ、コイツは。
 そんな風に思っても、じゃぁ、次からそうしよう、ってすんなり頭に入れてしまう俺だった。
「シンタロー、ベーコンお代わり!」
 ペロリと同世代の倍以上食べるパプワは、何故か同世代の標準以下の体躯だった。
 俺ははいはい、と返事をして、フライパンに向かう。やっぱ、こういうのは焼きたてじゃねーと。
「ほらよ」
 と、片手で渡す。
 食料を手渡され、ぱ、と微かに明るむ顔。
 ----今だ!
 ざ!と隠し持ってたデジカメを構える!!
「はい、チー………ッツ!!」
 ズ、といい終える前に、食べ終わった皿が俺の顔面にべばし、と当たった。




「チクショー!!今日も撮れなかったぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
「……て言うか、今日も挑戦したっちゃね………」
 なんて諸行無常なトットリの呟きは脳内デリート。
 でも近くにあった百科事典をぶつけるのは忘れねぇ。
 さて、ここ数日の俺だが、パプワと熾烈な猛攻を繰り広げていた。
 まぁ、猛攻っつーか、俺は単にパプワの写真取りたいだけなんだけど、パプワのヤツがそれを拒む……というか、逃げるというか避けるというか。
 まさか祖父にでも魂取られるとか言われたんじゃ、とか思うくらいに拒否しまくるんだ。
 コタローは進んで撮らせてくれるのにな。やっぱ子供弟違うか---………
「そうだねぇ、シンちゃんも、小さい頃はカメラ見せたら、自分から近寄って来たもんねぇ」
「親父。不法侵入は頂けねぇな」
 しかも人のモノローグ読みやがって。
「自分の経営する学校に入って、何処が不法なんだい?」
「あんたの場合、存在自体が不法なんだよ」
 ふんだんに詰め込んだ俺の皮肉も、あっはっは、シンちゃんは面白いなぁ、の一言で終わる。
「さて!シンちゃんのそんな悩みの解消グッズを紹介しよう!!」
 親父は、パカパパーンと猫型ロボットがアイテム出す時の効果音を、実際に背負って(何処かにテープを仕込んでいるらしい……暇な)それを出した。
 ぱっと見、胃カメラや内視鏡と似ている……が、それよりもっとコンパクトだった。
「何だ、コレ」
 親父は無意味にふふんと威張り(本当に無意味だ)、
「こっちの先端がレンズになっているんだ。だから、それを襟にうまい具合に隠して、それから袖に通して反対のスイッチは手に持つ!これで可愛いあの子のベストショットは頂きさ☆」
 親父のセリフを受け、「早い話が隠し撮りアイテムやないどすか」と、言い合う皆に親父が黒板消しクリーナーを放る。
「ほほ〜………」
 俺は、ゆらりと立ち上がる。
「……最近、写真撮られた覚えが無いってのに、親父のアルバムが着々増える訳だ………!!」
「……じゃ、部外者が帰るよ」
「待て----!!この際持ってる盗撮グッズ置いて行け---------!!!」
「あっはっは、捕まえてごらんよーvvv」
 校舎すぐ横の花壇をスキップで逃げていく親父。あれを追いかけたら、俺も同類だと思われかねないから、ここで追うのは危険だ。ち、後で覚えとけよ!(あー、何か丸っきり悪役のセリフだ)。
「あーあ、胸クソ悪ぃ!!
 ……でも、やっぱこのままだと、非常手段を選ぶ場合も………」
「……何だかんだで、カエルの子はカエルだっちゃ」
 今度は、英和辞典をぶつけた。
「そんな嫌がっとるんだったら、もう止めたったらどうじゃ」
 毎日毎日喧嘩になるのなら、とコージは言う。
「でもなぁ……やっぱ、何か記録残して置きたいっつーか」
 思い出や記憶だけじゃ、いつか歪んだり、形を違えたりするかもしれないし。
 ……人には、”忘却”って、厄介な能力があるからなぁ。そのおかげで、生きて行けれるんだとしても。
「それに、よ」
 ちょっと照れくさいから、頭をかきながら言ってみる。
「何か追いかけっこみたいで、パプワもちょっと楽しんでるかなーって」
『それはナイナイ』
 シンクロした動きで否定した皆のを熨した時、窓ガラス一枚も割らずに済んだ、己の手腕が素晴らしい。




 ……起きてる時はあれほど抵抗するくせに。
「……思いっきり寝顔無防備」
 思わず、声に出してしまった。
 寝室のドアに、バリケードでも張られるかと思ったんだが……そんな事は、一度も無かった。
 やっぱり、鬼ごっこみたいなのを、楽しんでるのかなー………
 だったら、ちょっと。
 うん、嬉しい。
 ……で、ちょっと迷惑。
 素直に、写真撮らせてくれよ、パプワ。
 ……ずっと、一緒に居てくれる訳じゃねぇんだろ?




 ----て事でシンちゃん、この子の面倒頼むねv
 ----馬鹿ヤロー!何でこの俺がこんなちみっ子の世話なんざ!!
 ----そんな事言わないで。シンちゃん、コタローやグンマの世話上手じゃないか。
 ----あれはコタローだからだッ!つーかグンマは同じ歳……まぁ、確かに世話してっけども。
 ----それにね、ずっとって訳じゃないよ。


 この子が法律的にある程度責任を背負える時まで----十代後半くらいかな。




 そんな、親父のやり取りが脳裏に過ぎる。
 あれから、何年も----1年も経ってないのにな。
「パプワ………」
 癖は無いけど硬質な、その髪をそっと撫でる。
「どうしような。俺、お前の誕生日心から祝えねぇかも」
 カチコチと時が進んでいく。
 ただただ流れる時間を、欠片でも切り取って残して置きたい。。
 でも、もしもそう出来たら俺はそれを、ずっと眺めてしまいそうだから。
 やっぱり、撮らない方がいいかもしれない。
「……お前、それが解ってんのかもな」


 今日も、あの機械の中に、映像は何も残ってはいない。





<END>





シンパプ現代パロです。ついにやっちまった!!!

舞台裏としては、パプワ君はどこぞのどでかい財閥のたった一人の血縁者で、カムイじいちゃがこの度死去されたのでその所存をどうしようと顧問弁護士のジャンがうんうん悩んで友達のサービスに相談してマジックがそれを立ち聞きしてシンちゃんよろしく、て流れで。

シンちゃんは最初ふざけんなコラ!とか言いながら、いつしかこの話のよーな感じになっていく訳ですよ。
あー、どうしようかなー、シリーズなんのかなー。

シンちゃんは……うーん、高校生?もうちょっとかな。
パプワは……やっぱ10歳くらにしとかないとシンちゃんが大変だろうか。