そんな訳で単身赴任(仮)なシンタローは、日曜の夜にさっくりガンマ団に帰らなくてはなりません。
「じゃぁな、パプワ。次の週末また来るからな。絶対来るからな。絶対の、絶対の、絶対に来るからな-------!!!」
「シンタローさん、落ち着いて!」
来週来るんでしょ!とパプワの掌を両手で包んで離さないシンタローを宥める。
リキッドの言葉に、ふぅ、と冷静を取り戻すシンタロー。でも手はそのままだ。
「……でも、シンタローさん……ぁ、別に来るなって事じゃないですけど、総帥業やってて毎週末にこっち来れるんスか?」
約束が破られて、パプワだって哀しくない訳が無い。
無茶な内容なら、しないで欲しいというのがリキッドの言い分だ。
「お前みてーなヤンキーに心配される俺様じゃねぇっての。
大体今まではパプワ会えなさを埋める為にしなくていい雑用もこなして来たんだから、これからはむしろ俺の仕事を押し付けてでも来てやるぜ!!」
「…………」
ガンマ団各位の方に、そっとお悔やみ申し上げます。リキッドは心の中で呟く。
「それじゃ、パプワ」
シンタローは其処で言葉を区切り、ふと考え込んだ。。
「なぁ、リキッド。第三者の意見を聞きたい」
「何スか?」
「こーゆー時、パプワに俺は「行ってらっしゃい」と言ってもらえばいいのか、それとも「また来いよ」と言ってもらった方がいいのか」
「……………」
リキッドはとても「どっちでもいーじゃねーかよー」とやさぐれたかったが、今やヤンキー精神より育ってしまった使用人根性がそれを邪魔した。
「シンタロー」
大人2人が(とても)どうでもいい事で悩んでいるのを他所に、パプワが言う。
「元気にしてろよ」
わぅッとチャッピーも言う。
……それがパプワらしい送りの言葉だな。
「あぁ」
ぽふん、と乗せた手で、くしゃりと撫でた。
「……キンタロー、今日は」
「10回訊かれても100回訊かれても水曜日は水曜日だ。土曜日まであと2日ある」
これ以上訊くな、と言葉の外に詰め込んで言うキンタロー。
「シンちゃん、もっと前向きに考えなよ!」
明るくグンマが言う。
「”あと2日もある”じゃなくて、”もう2日しかない”って思うんだよ!ほら、何かあっという間じゃない!」
「……お前の精神構造はプレハブより単純でいいなぁ……」
「えへへーv」
「褒められてないぞ、グンマ」
仕事の手は休めず、的確な意見を飛ばす器用な男、キンタローであった。
「……つーか俺、ふと思ったんだけどよ」
それまでぐったりと机の上に乗っけていた頭を上げて言う。
「あの島とこっちで話が出来る通信機とか、作んねーのかよ。
飛行船より電波の方が送るの簡単じゃねぇの?」
自分の専門分野ではないから、あまりな事は言えないが。
「いや、出来るぞ……と、言うか出来たと言った方がいいかもな」
「仕組みはだいたい同じだからね。する事と言ったら、余分な物を省く事かな」
「マジか!?だったらさくっと作ってくれよ!!」
いきり立つシンタローに、グンマは苦悶の表情を浮かべた。
「それが……まだ、重要な問題が残っていて………」
「……重要な問題って………?」
深刻なグンマに、つられて深刻な顔になるシンタロー」
「……シンちゃん………」
グンマは真剣に尋ねた。
「通信機。チューリップ型とくまさん型、どっちがいい?」
「………………………………」
数秒後、ゴヅン、と、とても痛そうな音が響いた。
そして、ちょん、と味も素っ気も無いトランシーバーのような物がシンタローに手渡された。
「ほほーぅ、これが」
その後ろでグンマがチクショーと連呼しながら日記を書いていた。
「って、手渡されてもむこうが持ってなきゃ、何にもなんねーな……」
ふーとどうしようもなさを注ぎ込んだ溜息を吐いた。
「いや、そうでもないぞ」
とはキンタロー。
「マジック叔父貴に子機を渡しておいた」
いよいよ無意味な。
「何であげるんだよ」
「だって、欲しいって言ったんだもん」
日記を書き終えたグンマが言った。
「だからってそんな…………」
ピーッ!
『やほーシンちゃーん!!』
短く鋭い電子音の後に、毎度おなじみお騒がせな声がした。
「キンタロー。これ壊れてる」
『シンちゃん元気ー?パパは元気だよー』
「雑音は無いし音声もクリアだと思うが」
そんな事じゃないんだよ、キンちゃん。
「にしても、やけにグッドタイミングできやがったな………」
もしかして盗聴器でもあるんじゃないだろうか。もしあったら訴えてム所に放り込んでやると、本人は知らないが兄弟の絆をちょっと見せたシンタローだ。
「そりゃーそうだよ」
グンマが何故か威張って言う。
「だってシンちゃんにこれ渡して連絡してって、お父様から言われてたもんね。今までころっと忘れてたけど」
ゴイン!!
「シンちゃんが殴った---------!!!!」
うわーんとタンコブこさえて泣きながら日記を綴るグンマであった。
「おい、親父!今何処居やがるんだよ!今日の晩飯はどーすんだ!!」
盛大に怒りながらも最後が大変所帯くさい。
『さーて、何処かなー。シンちゃんが一番良く知ってる場所かな?』
「何ふざけた事……あ、もしかして俺の部屋とか言ったら」
『これで話出来るのか?』
『あう?』
セリフを言い終える前に、シンタローが今一番聞きたい声が機械を通して耳に届く。
「な……ぁ………?」
『シンタロー、ちゃんと仕事しとるかー?』
「パ、パプ、パプワ……?な、なんで………」
『だって今パプワ島来てるからね』
けろりと何でも無いように言うマジック。
「どどど、どーして!!」
『隠居の身で暇なんだよ。シンちゃん遊んでくれないし』
「総帥の座俺に渡したからあんたが暇なんだろーが!!」
『うん?パプワ君達、クッキーはもういいのかい?』
『後で皆が来たら、また貰うぞ』
「聞け------!!俺を無視するな--------!!!」
『じゃーシンちゃん、週末に会おうねーv』
ブツ。
居つく気かこの親父。
て言うか無断で切りやがってぇぇぇぇぇぇ!!
「〜〜〜ッ、おい、キンタロー!!今週予定の仕事、全部持って来い!
出来次第俺は島に行く!!文句があるならかかってきやがれ!!!!!」
文句なんか無い無い、とキンタローは、黙って仕事をまとめてどさりと置いた。
ちなみに島に行ったマジックから自分の幼少期の失敗談をパプワが聞いている事にぎゃふんとなるのは、もう少し先のお話。
<終わり>
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