重苦しい服は脱ぎ捨て、ついで今日は総帥の看板も少しお休み。
上をランニングシャツだけにして、髪を括ってさぁ行くか。
あの島へ。
「はーい、どなたでうぇおぅぉぉぉおおおおお!!」
「煩い上に邪魔」
戸口に立ってシンタローの姿を見て驚愕しまくったリキッドを、裏拳で撃破。
「シンタロー?」
「よ、パプワ」
とてとてとチャッピーを連れ立って近寄るパプワに片手を挙げて軽い挨拶。以前の再会のように。
言わないでいい事かもしれないが、リキッドの時とはえらい違いだ。
「……シンタローさん?一体何の用ですか?」
復活したリキッドが恐る恐る尋ねる。
「何だよ、用が無ぇと来ちゃいけねーのかよ」
用が無いのに来てもいい身分じゃないだろうに、とリキッドは思った。
「それに、前の時はゆっくりパプワと話も出来なかったしな」
朝まで語りつくしてまだ何か喋るつもりなのか、とリキッドは思った。
「シンタロー、何時まで居るんだ?」
「前と同じ。24時間て所だな」
「そうか。
だったらメシは作れるな。よし、今日の晩飯はオマエが作れ!」
早速メーシ、メーシ、と囃し立てるパプワだ。
シンタローはそれに苦笑で応える。
「ホンット変わんねーよな、オマエは」
まぁ、自分もそのつもりなのだが。
「あ、その前に」
前回と違い、リュック持参で来たシンタロー。それから何か、ファンシーな袋を取り出す。
「親父がパプワに渡してくれってさ」
「え、て事は、マジック総帥ッスよね」
一体何を渡すつもりなのか、と少し不安になるリキッド。
「ま、危険物じゃねー事は確かだから」
思いっきり下らない物かもしれないが、と付け加える。
パプワは島暮らしには縁の無い物体をしげしげと見詰め、リボンを解き始めた。
シュル、と解き、がそごそと箱と梱包材を取って行き、やがてシンプルな箱が現れる。
こんな厳重に可愛らしいラッピングを父親がしたのかと思うと、なんとも複雑なシンタローであった。
「何だろうな、チャッピー」
意見を求められ、あぅん?と自分にも解らないよと答えたチャッピー。
かぽり、と箱を開き、”それ”は出た。
「!……こっ、これは………!!」
リキッドは再び驚愕した。
何故って、出てきたそれは!
マジック作(かなりの確率で間違いない)シンタローぬいぐるみであった。
「き、危険物……!!」
「何でそーなる!単に俺の人形だろうが!!」
「………………」
「……おい、”だからこそですよ”ってなその目はなんだ」
「気のせいですよ、ほら、南国の太陽が見せた幻じゃないッスか?」
「おー、シンタローだ」
シンタローの、リキッドに対するこいつ死ぬまで殴っちゃろうかという殺意は一旦引っ込ませ、パプワに意識を向ける。
このシンちゃんぬいぐるみは、パプワが抱き締められるように、マジックが持っているものより若干小さいサイズだ。て事は、わざわざ作っただろうか。
「あれ、これ手紙じゃないッスか?」
空き箱を何かに再利用できないかなーと主婦スピリッツで考えていたリキッドは、入っていたそれに気づく。
「あー、本当だな。どれ」
と、誰に向けられたのかも解らない手紙を勝手に読む俺様なシンタロー。
パプワもにゅ、と顔を出し、読む。
『やぁ、パプワくんとシンちゃんへvv
この度は無事再会オメデトウ!その場に立ち会えなかったのは残念だけど(シンちゃんが全壊した部屋の修復に当たってたからね。おっと、これに責任は感じなくていいヨ☆)
ついてはその記念にとお互いのぬいぐるみを作って渡すことにしたよ。一人寝が寂しい夜は是非これを抱いて眠ってくれたまえ。ちなみにシンちゃんへのパプワ君ぬいぐるみは今作ってるから、帰宅したらいの一番に私の所へ来るよーに。それじゃ!』
文面を一通り読み終えて、リキッドは「こういう父親に育てられてこういう子になったんだな……」と納得していた。
「……一体何を考えてんだか………」
まるで頭痛を堪えるみたいに、頭を押さえるシンタロー。実際、痛みを感じているのかもしれない。
そして。
横目でパプワの様子を伺った。
まさか、要らんこんな物と投げ飛ばされる事は無いと思うが。
「つまりこれは贈り物か」
「まぁ、……うん、そうなるな」
「これは、どう使えばいいんだ?」
ぬいぐるみの使用法を尋ねられたのは初めてだ……とキンタローなら言うだろうか。
「そうだなー、親父はとりあえず、いつも抱いてるぜ?」
シンタローさん、さりげなく希望と要望を交えてる!と気づいたリキッドだ。
「そうか、なら、いつも持っていないといけないな」
あ、シンタローさん今小さくガッツポーズ取った。
「それじゃシンタロー、食材探しに出かけるぞ!」
「ラジャー」
籠を引っさげ、外へ出る2人と1匹。
「そんじゃ、留守頼むぜ」
「はい、いってらっしゃい」
自分のぬいぐるみを抱っこしているパプワにご満悦なシンタロー。
でも。
リキッドは思い描いた。そう、遠くない未来の事。
それは、始終抱っこされているぬいぐるみに嫉妬するシンタローの姿だった。
ちなみにその未来予想図は、その日の就寝時に現実となった(早いよ)
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