「そー言えば」
きっちり朝食を食べ終えた後、パプワが言った。
「今日は確か母の日だったな」
「あー、もうそんな日か」
カチャカチャと食器を片付けながら、リキッドが返事をする。
「去年は父の日を祝ってやったから、今年は母の日を祝ってやろうか」
ぽん、と日の丸扇子を広げ、なんとも羨ましい事を言い出すパプワ!
「なぁ、俺には?」
「シンタローは母親じゃなくて、友達だろう」
あっさり撃沈。
「んー、そうだな、祝ってくれるなら……」
リキッドは何故だか冷や汗をかいて言う。前に何かあったんだろうか……(ある訳が無いと言い切れないのが怖い)。
慎重に考えた結果だろうか、リキッドが口を開いた。
「そーだ!今日の昼飯、パプワが作ってくれよ。久しぶりにパプワの手料理食いたいし」
ふーん……”久しぶり”。
俺なんか全く無い。
「何だ、そんな事でいいのか?もっと凄い事も出来るぞ、ボクは」
子ども扱いするな、ってどうやらパプワが怒っているらしい。
リキッドは、そんなパプワに苦笑して、掌に頭をぽんと乗っけた。
「お前にとってはそんな事はもしれないけどな、俺にとっては十分凄い事だよ」
楽しみにしてるからな、とまた軽くぽんと叩いて手を離した。
で。
リキッドは何故だか引きつった顔で俺の方を見た。
んだよ、ガンも飛ばしてねぇし、パプワに触った手、「おぉっと手が滑った」とか言って叩き落としたりも眼魔砲飛ばしたりもしねぇだろ。
「シンタローさん………」
「何だよ」
「……鼻血、止めてくれます?」
…………………
あ、本当だ。出てら(だばだばだば)
「何時の間に………」
「パプワが”もっと凄い事出来るぞ”と言った時からです。
……何、想像したんですか」
「…………」
沈黙する俺に、垂れる鼻血の音が煩かった。
食材探しがてらに一緒に散歩〜とか思ったら、今日はボクが全部一人でする、とか言って一人で行ってしまわれた。
……母の日なんか嫌いだ。
と、言ってる場合でもなく、俺にも何かリキッドに祝え、と言われた。リキッドが真剣にパプワ、それはいい。それはいいから!!と言っていたりもしたが、それはさておき。
かなり大変しょーが無いから、エプロンでも作ってやる事にした。
リキッドの姿は、パプワハウスに無い。大方侍の所にでも転がり込んでいるんだろう。そのままずっと転がり込んだままになってくんないかなー。まぁ、あの侍、あんま甲斐性ないみたいだから、無理か。
と、パプワがチャッピーと連れ立って帰って来た。肩に、大きな布の袋を担いで。何だか蠢いている。……何が入っているんだ……というか捕まえたんだ、パプワ。
「シンタロー、リキッドを呼んで来てくれ。ついでに、トシゾーもな」
「あん?あいつも呼ぶのか」
「折角だからな。ほら、早く行け。すぐ出来るんだから」
しっしっ、と手を振って追い立てるパプワ。あー、チャッピーまでもそんな事を。
「パプワー、火には気をつけろよ」
「解っとるわい」
ふん、と胸を張るパプワが可愛かった。
えーっと。
俺がリキッドの所へ行って、侍同伴で帰ってくるまで……10分もかからなかったよーな……
テーブルには、出来たての、チーズの溶けた香り芳しいグラタン。
グラタンって、ホワイトソースとか、下準備とかに結構時間がかかるものだったような……
まぁ、とりあえず、それを見て、リキッドは喜んだ。
「あー、俺、こういうの好きなんスよv」
だろーなーと俺は思う。こいつ、実年齢以上にガキっぽいし。
それぞれ席について、手を合わせて頂きます。
ぱくり、と一口食べた後の感想は。
「お、美味ぇ」
「中々いけるな……」
もっと率直に感想言えよ、侍。
リキッドは隣のパプワにありがとうな、と言っていた。
「美味いんだけどよ、パプワ。これ、何が入ってるんだ?」
グラタンにはマカロニと……あと、何かの肉のような、違う何かがある。それが、旨味の根源だと俺は見た。
俺の質問に、パプワはちょっと考える素振りを見せて言った。
「お前ら、先カンブリア期の生物について、どう思う?」
…………………
「ちょっとパプワ、それどういう意味なんだよ!?」
「こっ、この料理と古代生物のとどーゆー関係が!?」
そんな騒ぐ俺達を他所にリキッドとパプワは、リキッドがうっすら涙を溜めて、いい子に育ったなぁ、とほのぼのなホームドラマを展開していた。
さて。パプワの手作りグラタン(原料不明)を平らげた後、パプワが明日の朝飯の材料を探しに行くと言い出した。これも母の日のプレゼントらしい。
「そこまでしなくても、材料はまだあるぜ?」
リキッドはそう言うが、パプワは行くと言って撤回しない。
「さぁ、シンタロー、行くぞ」
「俺もか!?」
「不服か」
「いえ、とんでもないデス」
だから、棍棒は仕舞おうね。
「と、言うわけで、出ー発!」
「はーい」
俺とパプワは、夜の島に繰り出した。
夜と言っても、ランニングで十分過ごせる温度だ。しかし、、やっぱり空気はひんやりしている。
「なぁ、本当に材料探しだけか?」
「実はな」
チャッピーから降りててくてく歩くパプワが言う。
「トシゾーと2人きりにしてあげたくてな。今まで、ボクとコタローの世話で2人きりにはなれなかったから」
やっぱり。どうもそういう都合じゃねーかなと思ったんだ。
「じゃぁ、歩き回らないで、何処かに腰降ろそうぜ。浜辺でいいか」
と、言う事で俺達は海へ向かった。
空の色ををそのまま写すような海は、今は真っ暗だった。
空には、満天の星。それすらも、海に写っているようだった。
「あー、星なんて久しぶりに見るぜ……」
「シンタローの住む所は星が無いのか」
俺の独り言に反応するパプワ。こいつにとっちゃ、そんな世界は想像も出来ないんだろう。俺がこの島の存在を、初めて訪れるまで、想像出来なかったように。
「正確には”見れない”んだけどな。スモッグが篭ったり、街の明かりが明る過ぎたりで」
星が見れなくて残念に思う。そんな自分が生まれたのも、やっぱり此処に来てからで。
俺は、そんな自分が大層気に入っている。
「なぁ、どれくらい時間潰す?」
「んー、今日が終わるまで」
て事は、あと4時間か。
あと4時間。
パプワとチャッピーと。
こうして、星を見て。
思いもよらぬ役得に、母の日を作った人々に、感謝したくなった俺だった。
ところで!
5月と言ったら母の日およびその他諸々のイベントの他に、この日がある!
俺の誕生日!
「シンタロー、誕生日おめでとう」
当日、パプワがそう言い、チャッピーも犬の言葉で祝福してくれた。リキッドもついでに言ってくれた。
そして待ちに待った言葉が!
「さぁ、シンタロー、何か欲しいものはあるか?」
何でも言え、と威張って言うパプワ。
オッケー、ちゃんと考えてるって!
「パプワの手料理が食いたいな」
リキッドのヤツにとっては久しぶりだったこの前の料理かもしれないが、俺にとっては初めてだったんだ。悔しいじゃないか。
せめて、俺だけに、俺の為に作られた料理が食べたい。原料不明なのは、この際どうだっていい(死なない限り)。
「料理」
「そう、料理」
リキッドの時は洋食だったから、俺の場合は和食かなーとか思っていたら。
「料理はこの前作ったから、違う事がいい」
ピシリ。
……俺は、自分が固まるのをリアルに感じた。
「え……っと、俺はパプワの料理が食べたいんですが……」
「だからそれはもういいと言ってるんだ。何度も言わすな。
早く言わんと何もしてやらんぞ」
そんなご無体な!
黄昏る俺の視界の隅っこに、あわあわしているリキッドはが入った。
チクショウ………
母の日なんて、母の日なんてッツ!!
母の日なんて、大嫌いだ------!!!
<END>
*オマケ*
「シンタローさん、また血………」
「…………」
「”何か欲しいものは”の下りで流していましたよ」
………若いな、俺。
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