”永遠”て何だ?
ずっと続く事だよ、ずっと。
ずっと?
そう、明日も明後日も明々後日も明々々後日も、ずっと
「お-----そ------いぃぃぃぃ-------!!!」 と叫んでも実力行使にでないのは、育ちがいいのか暴れて服に皺を作りたくないからなのか。 はたまた手近に程よい凶器が無いからなのか。 「っだぁぁぁ!もううっせーな!! だいだいミートパイなんてとめどなく手間隙かけるモン昼飯に食わせろっていったのは、ソコにいるお前だろうがロタロー!!」 「僕食わせろだなんて品の無いこと言って無いもん。 ただ、ミートパイにしてくれなきゃ重し付けて青い海に沈めてやるって言っただけだもん」 「それは脅迫だって自覚してくれ。頼むから」 ケロリとして言った顔にはあくまで罪の欠片もなかった。 さすがあの獅子舞の甥だ……と、リキッドは血の絆というものの強さを知ったとか。 「だいたいなんでンなに慌ててんだよ。今日は雨は降らねーぞ?」 ここは南国(だと思う)昨日の宿題もなければ明日の残業もない場所である。 何かにスケジュールを決められるというのなら、それは天候以外あまり思いつかない。 「だって今日はカオルちゃんの所へ行くつもりなんだもん。 夕方になると、水が冷たくなるじゃないか」 水そのものは温度の変化をしにくいものなので、正確には水を冷たく感じるようになるのだが。 「ぶぁっかやろー。子供が冷たい暑い寒いで文句言うんじゃねーよ。 俺なんか……俺なんか昔………昔ッ………!!」 うっかり特選部隊の頃を思い出してしまい、リキッドから血の涙が溢れる。 「お前の残酷メモリアルなんてどうでもいいから、早くお昼ごはん作ってよ」 過去にトラウマを抱える男に対して、なんとも無常なセリフだ。 ロタローはくるっと顔の向きを変え、顔の表情もこれまた変えて。 「で、パプワくん!カオルちゃんてそんなに散髪上手いの?」 「あぁ、ハサミを持たせたらこの島一だ」 持たせたらというか、すでに持っているんですけどね。ハサミ。 「そうかぁ。パプワくんが言うなら間違いないよね!だったら僕の髪触るのも特別に許可しちゃおうv」 何様だお前は、と全身全霊かけてロタローにツッコミたいリキッドだった。
「日ぃ暮れる前に帰って来いよー!!」 果たして自分の声が届いているのかいないのか。 ちゃんと聞き入れてくれているのかいないのかは解らないが、元気良く遠ざかる2人と1匹の背中に声を掛けた。 (……なーんか、全然違和感ねぇなー) 毎日毎日虫網や釣竿などを持って出かけるパプワとロタローは、本当に友達通しで、もう何年も前からこうして過ごしていたような錯覚に捕らわれる程だった。 リキッドは以前にもロタロー……コタローに会った事がある。 会話も無く、ただ自分の隊長と同じに居たのを通りがかりに見た、というものだが。 あの時もコタローは、無邪気という言葉は当て嵌まったのだろうが、恐ろしく何かが冷たくてあまりに無機質だった。 それは多分、複雑な家庭環境と育った境遇のせいなのだろうが。 現に記憶を一切無くている彼は、あんなに楽しげで子犬みたいにはしゃいではないか。 (もし……記憶が戻ったら……) 何もこのまま記憶を無くしたままが良いとは本気で考えてはいない。 過去は現在の土台で、未来も支える大切なものだから、これからも生きる存在としてきちんと認識してもらわないとならない。
でも。
もし記憶が戻って
また
”君の相手は、僕だよ”
「………………」 島を破壊されるのも困るが(ていうか困るどころの騒ぎじゃないが)。 何よりも自分が一番回避したいのは、それだろう。 もう、あんな。 誰も悪くないのに皆が傷つくのは、嫌なんだ。 洗濯物干しを歓迎するような青空を見上げてなんとなく呟く。 そうとは自分で思ってないが、祈り、あるいは願いだったのかもしれない。 「ずーっと続かねぇかなー。今日みたいな日が(ロタローにいびられるのは除く)」
やっぱり 永遠なんて
刹那と邂逅に囚われ過ぎた人が視る
妄想にしか過ぎないんでしょうか
…………何処、だろう。此処……
パプワ島に似てるけど、何かちょっと違うな
あぁ、そうだ、パプワくんは何処だろう
今日は何して遊ぼうかな
パプワくんパプワくん
居た居た、おーい、パプワ………
あ!
誰だよ、何でパプワくんに酷い事するんだよ
やめろよやめろよ、パプワくんは僕の大切な友達だぞ
やめろよやめろよ、誰だよお前は
誰なんだよ
誰
誰
誰………---------?
「………ロタロー?ロタロー?」 「ッッ!!」 声に呼び戻されるように、夢から醒める。 喉がからからだ。少し頭痛もしている気がする。 「……ワ、くん……… パプワくんパプワくんパプワくん!!」 「どうした。腹でも痛くなったか?」 昼にうっかり池に落ちたからな(そのあと同然リキッドに八つ当たり)。 ぎゅぅぅぅ、と渾身の力で縋りつかれ、勿論そんなに強く抱き締められては痛いけど、それくらい何でもない。 背中を優しく摩り、優しくぽんぽんと叩く。 ”あの人”にされて嬉しかった事を、ゆっくり思い出して実行する。 「……凄く嫌な夢見た…… ……何の夢だったかは忘れちゃったけど……とにかく嫌な夢……」 息が上がって汗が滲む。 重い病気にかかった時か、辛い運動をした時みたいだ。 「ごめんね。起こしちゃって…… 寝よう?」 とは言ったものの、今夜は寝れそうには無い。 また、さっきみたいな夢を繰り返すのかと思うと。 (今日は徹夜かもね。 美容に悪いなぁ……) 「…………。 ”Just
as long You stand, stand by
me”」 スキンケアを心配するロタローに、柔らかな旋律が降注いだ。 「………パプワ、くん?」 「知り合いにこれを口ずさみながら、物事をする男が居てな。 どうしてかと聞いたら、そうした方が楽しいからだそうだ」
「……つーか歌でも歌ってなきゃやってらんねーって言うか。 んまぁ、永遠に続く訳ないから、その時までがんばれ俺!とかいう自分を称える意味合いも込めて」 「”永遠”て何だ?」 「ずっと続く事だよ。ずっと」
「……お前はこれを聞いて、楽しくはならんか?」 その答えは、程なく聴こえた寝息が教えてくれた。
ぼく達はいつか別れるんだろうけど
それは避けられないんだろうけど
でもぼく達が居た事で何かを得て
それを誰かに伝えて、その誰かも誰かに伝えて
ぼく達が灰になって塵になって消えた後でも、まだ誰かに伝わっているんだとしたら
……だったら、ぼく達も”永遠”だな。シンタロー。
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