初対面にしろそうでないにしろ、トットリに抱くイメージは”明”とか”陽”とか、まぁそんな感じだ。
しかし、現在目の前のトットリに相応しい言葉は、”アンニュイ”。
「どげした、トットリ?」
ミヤギはトットリに呼びかけた。
ん、と少し口ごもりながらも、言ってはくれた。何でもない、と言葉を濁したら徹底的に問いただそうと思っていたので、手間は省けた。
「ん、とね、ミヤギくん」
大きな目を伏しがちに呟く。
「最近、来ないんだっちゃ」
………………………………………………
「………………何が」
「野良猫。いつもはこの辺をうろついてる筈なんに」
「あぁ、猫!そうだべな!!猫!!!うん、猫!!!!」
硬直状態にあったミヤギはトットリの次のセリフで我に返る。ミヤギは何が来ないと思ったのかは……彼の名誉の為に黙って置こう。
「……何か、あったんかいな……」
そう呟き、ふいに自嘲気味に笑った。そういう表情を見ると、童顔だのガキ顔だの言われても、彼は自分と同じ歳なのだと知る。
「何か、おかしな話だっちゃ。つい昨日、敵対一個潰してきた僕が、猫一匹に心配しとるなんて」
「……ンな言い方せんでええべ」
ぐしゃぐしゃ、と髪のセットを崩すみたいに頭を掻き混ぜる。痛いっちゃよ、とトットリが笑いながら言った。
それに普段の彼が見えて、ちょっとは安心したけど。
どうも。
目の前のトットリは、情緒不安定というか。
心此処に非ずというか。其処までは行かなくても、何かに気を取られている事は確かだ。
猫の事もあるが、それ以外にも。
その、「それ以外」の方に重さがあると思う。むしろ、猫の事をそれと照らし合わしているような。
何かあったか?第2のパプワ島から帰ってこっち。
シンタローが不在だが、それと関係が……?
いや待て。
もう一人、どざくさにというか、帰って居ないヤツが居る。
それを踏まえて、ミヤギは考えた。
トットリは、野良猫が来ない事を心配に思っている。
野良猫。
その性質は、一匹で気ままに。愛想は無い。
ミヤギは居ない2人を思う浮かべる。野良猫の印象に近いのは。
とりあえず。
大勢の団員を統率する彼には、少なくとも”野良”の部分にイメージは結びつかない。
「……ご飯、ちゃんと食べよるかなぁ……」
エサと言わず、ご飯と言うのがトットリらしい。
雨に濡れてないか、誰かとケンカしてないか、と、思いつくままトットリの口から出るセリフが、ミヤギは猫へ向けてと意識しければならなくなった。
「ンなに心配せんでも、勝手にやっとるべ。心配するだけ無駄だべや」
「まぁ、……うん、そげだけども………」
相槌を打つのは条件反射なのか、返事はしても納得は出来てないようだった。
仕事の事を持ち出して、ようやくトットリの気を逸らす事に成功した。
しかし、野良猫が無事見つかってもそうでなくても、トットリは自分でも知らない場所で、必ず何処かで思うんだろう。その姿を確認するまでは。
(----帰って来たら、アイツ絶対殴っべ)
何が顔だけだ。さんざん馬鹿にしてくれて。
本当に顔だけなら、こんな。
こんな面白く無い事。
気づく筈も、無かったのに。
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