桜、散りぬるを



 今年の桜は例年より遥かに開花が早く、世間の人は実に慌しく花見をする。
 自分もその1人他ならないが、横に居る人物が居なければ全く無関係だっただろう。
 その人物は自分の顔より一回り大きい綿飴を嬉しそうに眺めている。
「……なして、ンなもん買うかね……」
 ぼそりと、しかし聞こえるように呟くと、解り易いくらいむっとする。
「悪いだか?」
「子供が買うもんだべ」
「何言ってるっちゃ」
 トットリは主張する。
「祭りと言えば綿飴にセルロイドのお面だっちゃ。あと、水ヨーヨとかそれから……」
 などと指折りで数えて行き、一往復した所で数えるのを止めた後、目の前の綿飴に齧り付く。
 ふわふわと飛んで行ってしまいそうなそれを、口と手を使って食べる。と、綿飴を持ってる手を引いて、ミヤギも食んだ。
「甘ぇな」
 と、素直に感想を述べる。
「砂糖の味しかしねぇ」
「そりゃ、砂糖が原料だから……」
 トットリが横取りしたのを平然と受け入れる。いつも自分がしている事だからだ。
「小さい頃は、ボク、これの原料が砂糖だって知らんかった」
 そう言って嬉しそうに食べる。
「……………」

 自分は、砂糖からしか出来ていないからつまらないと思う

 でも、トットリは砂糖からしか出来ていないから、凄いと思う

 …………ま、違いなんて気にしてたらきりが無いし。
 などと達観したふりをしても、やっぱり寂しい。
「ミヤギくぅぅぅぅぅぅぅぅん!」
「あ………?」
 つらつらと考え事をしていたミヤギは、いつの間にか側にトットリが居ない事に気がつかないでいた。
 密集する人の波を掻き分け、何とか元の位置に収まった。
「さっきから呼んでるのに、スタスタ一人で……」
 むぅ、と剥れる。あの人込みの中で、綿飴がちゃんと無事なあたり、さすがと言うか。
「おめーがとろいっから」
 なんて言えばさっき以上に噛み付くトットリ。
 この時だけは、トットリが自分の事しか考えていないから嬉しいのではあるが、あまりやる過ぎて嫌われてしまっては元も子も無い。程ほどに切り上げた。
「ん?」
 ふと、もう片方の手に、トットリは温かさを感じた。
「こーすりゃ、逸れねぇべ?」
 ……さっきの剥れた顔も好きだが。
 やっぱり一番好きなのは笑った顔。
 しかし自分の気持ちがバレてしまうかもしれないというリスクがある。トットリの笑顔は容易く自分の熱を上げるのだ。
 トットリが喋りかけるのに応える会話で、適当に歩くと屋台のある道を逸れた。
「戻るか?」
「んー、このまま」
 人込みにはもう懲りたトットリだった。
 しかし屋台の無い所、というのは桜のない所でもあり、これでは花見にはならない。
 まぁ、ミヤギにしてみれば、ごく至近距離にトットリが居るからかなりご満悦なのだが。手も繋いでるし。
 ……って、人込みから逸れないように、という要目で手を繋いだのだから、人込みを離れればそうする必要性がなくなるのでは。
 横目でそろりとトットリを伺ったが、別に大して不快とは感じていないようだから。

 もう少し、このまま。

 このまま歩いていたら、ひらり、と白いのが目を掠める。
 季節柄雪であるはずがなかった。
 桜である。
 発信源を二人でいろいろ推理を口論しながら探し、そうして見つけた。
 さっき居た花見会場は、山の麓の一角にあった。そこからどんどん奥に入って、見つけた。
 一本の、まだ若い桜の樹。それでもその存在を確固したものとしていた。
 その樹の麓まで近づき、はらはら落ちる花弁を浴びた。
「ミヤギくん」
「何だ」
「綺麗っちゃね」
「…………」

「そーだな」

 同じ事を思っていると解るととても嬉しい




「……ところでミヤギくん、何時まで手繋いどるん?」
「……トットリの事だから、誰も居ない所ではぐれないとも言い切れんし」
「またそんな事言う!!」
「あああああッ!ええからおめーは黙ってオラの言う事聞いとりゃええんだ!!」
「ミヤギくんの横暴!人権侵害――――!!」
 それでも手は繋いだままだったりして(笑)

 うーん、久しぶり(過ぎる)ミヤトト小説。誰かワタシに東北弁を伝授プリーズ(実はそれがなかなか書けない原因だったり……)
 このネタ、ジバク(現ちみ爆)でやるかあやかし天馬にとっとくか悩んだのですが、桜っちゅーのもあるのでジャパニーズコンビにv何気に現トップとかぶってますね。