MY DEAR KITTEN
その日の朝はまだ穏やかだった。正確まだ気が付いていないだけだった。
異変に一番最初に気づいたのはミヤギだった。というより異変の方から飛び込んできたのだ。そんな事はまだ知らないミヤギは呑気に寝ている。
「……花瓶割ったの、オラじゃねーって……」
どんな夢を見ているかは気にしないでそっとしておこう。
ミヤギの部屋目指し、足音が近づいて来る。
……タッ……タッ…タッ…タッタッタッタダダダダダ!バターンン!
「ミヤギくぅぅぅぅぅぅん!」
どふっ!!(いい感じに膝が当たった)
「っぐはぁ!」
走って勢いのついたトットリは勢いのついたままドアを開き、勢いのついたまま室内に駆け込み勢いのついたままミヤギの上に飛び乗った。勢いのいい奴だ。
「ぐふッ……ゲハッ……トットリか?」
ちょっぴり吐血しながら起き上がるミヤギ。あんた偉いよ。ていうか凄いよ。
「……ミヤギくーん……」
でもトットリは自分の身に起きた事ながら、上手く説明できないので、ミヤギの名前だけを連呼していた。
「どげし……」
た、トットリ。と言おうとしたミヤギの台詞が途中で終わる。目の当たりにした事実に目がテンになった。
「どげしたトットリーーーーーー!??」
台詞はさっきと同じだが、内容が違う。さっきのはなんでここに来たのかを尋ねたものだが、今度のは、
「うぇ〜(泣)、ミヤギく〜ん」
大きな瞳からぼろぼろと涙を流すトットリには、頭に三角耳、腰からはシッポが生えていた。
「なん、なん、なん、なん、……」
ミヤギは何だべかそれは、といいたい。
「昨日までは何ともなかったんに、今朝起きたらこんなのが生えてたっちゃ〜」
あうあうと三角耳を掴んでうろたえるトットリに、それって生える生えないっていうのんかな〜とどうでもいいツッコミを心内でやるミヤギだ。
「何かの病気かいや……」
だとしたら素敵な病気だべなー。(ミヤギの心の中)
「なぁ、どうしようミヤギくん」
「え……あ……とりあえず、それでメイド服着たら完璧……」
いきなり話を振られたミヤギはトンチンカンな事をいった。ある意味、非常に的を得ているとも言えなくもないが。
「うっさいのぉ〜。なんじゃい、朝っぱらから」
ランニングシャツに短パンというラフな姿でコージ参上。今の今まで寝ていた事が窺える。結構ドタバタやってたのでその音で目が覚めてしまったらしい。
ヒョッコリやって来たコージは騒音の元凶でsるミヤギの部屋を覗いた。するとトットリがミヤギの上にちょこんと跨っている。
「おう、ミヤギ、朝から夜這いかい。盛んじゃのー」
「違うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!豪快に笑んな!」
手近にあった枕を投げたがひょいと避けられた。おのれ!
「だいたいオラが夜這って、なしてこげな格好になる!?」
「途中、いろいろあったんじゃろなー」
「ねえっつの!!」
縁側で茶でもすすりそうにしみじみ言うコージだ。そんな調子でおちょくってたコージもトットリの姿に気づく。
「どうしたんじゃ!?その耳!アーンドシッポ!」
「僕が一番聞きたいっちゃー」
だろうな。
「よし!そのまま待っとれよ!」
びゅっと突風のように消えていった。
「なんだっちゃ?」
「さあ……」
やがて程なくして再び現れ、その手にはレンズつきフィルム(早い話が使い捨てカメラ)が!
「うぉーい、トットリィ、何かポーズとれ!」
「何すんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
げご!
トットリの投げた植物百科事典(ミヤギの)は当たった。
「おわ……こりゃ……」
「はー、人生何があるか解りませんなー」
「シンタロー!耳引っ張んなや!」
怒ったトットリに合わせてシッポの毛が逆立った。ちょっと遠く離れたミヤギは(何故なら押し倒しちゃいそうだから)そんな様子を見て、はー、可愛えなーとひたすら悦ってた。まさに役立たず!
「にしても、どうしてこんな……」
「ま、こーゆーのは日頃の行いどすな」
必死に論理的な説明を探すシンタローに、シンタローに心配されてるトットリをやっかんで意地の悪い事をいうアラシヤマだ。
「日頃の行いでその人の身に掛かる出来事が決まるんなら、アラシヤマは百回ぐらい火炙りになってるっちゃねv」
「その辺にしとけよ。アイツ壁に向かって「死」とか「呪」とか「殺」とかマジックで書き始めたから」
しかもここはミヤギの部屋だ。
「うわ、人魂漂っとる」
「いっそ浮遊霊と一緒に成仏するといいだっちゃ」
「もし?忍者はん、そればっかしは聞き捨てなりまへんな」
「え?だっていなくなったところで悲しむ人もおらんだろ」
……トットリの何が性質が悪いって、こんな台詞を真っ直ぐな双眸で言っちゃうところだろうな。あ、アラシヤマ剃刀出してきた。
「まぁ、アレはどうでもいいとして……これをどうするか、だな」
「だぁぁぁから、シッポ持つな!」
「そうじゃなー、ここままでいるわけにもイカンしなー。のぅ、ミヤギ」
「いや、むしろオラ的にはこれでも全然オッケー!」
「……お前、正直にも程があるぞ」
呆れかえるシンタローさんでした。
「仕方ない。ここはヤツに診せるか」
「ヤツって?」
「ドクター高松」
「ええぇぇぇぇぇぇぇ!イヤだっちゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
トットリはこれでもかっちゅーくらい拒絶の反応を示した。
「ンなこと言っても、仕様が無いじゃろが」
と、素っ気無く言うコージだが、彼自身ドクターに5リットルも血を抜き取られた覚えがあるのでトットリの気持ちは身に染みて解る。ヤツの手に掛かれば健康者もあっという間に病人になれるなのさ!
「だって……この前行ったら、裸にされたっちゃ……」
「なんじゃとて―――――!?」
遠くにいたはずのミヤギがよっこいしょ、とコージとシンタローをかきわけて顔を出す。
「ゆ……許せねー……オラだってまだ拝んでないってのに……!」
そーゆー問題違うだろ、とコージとシンタローは虚空に向けてズビツ!とツッコミを決めた。本人にやってもたぶん効かないだろうから。
「でもまぁ、行くしかないだろう。今は藁でも縋ったほうがいい」
何気に酷い事を言うシンタローであった。
「誰が藁ですか」
「……あの場にいなかったくせに、何故その台詞を言う……」
「細かい事を気にしてたら医者になれませんよ」
むしろ大雑把な方が医師に向いてないと思うのだが。
「それよりも何の用です。人の大切な時間を邪魔しに来たのですから、それ相応の理由がなければ新薬の実験台になってもらいますからね」
ドクター、あんたとことんマッドな人だね。
「大切な時間って……この「グンマ様のアルバム」第六集を茶ー啜りながら見とる事か?」
「当たり前でしょう。それ以外に私に大切な事がありますか?」
「……無い、な」
シンタローは認めた。認めざるを得なかった。
「ちなみに今現在では第十八集まであります」
「ンな事ぁどーでもいいだぁぁぁぁぁぁぁ!」
限りなく脱線する話にミヤギが強引に軌道修正をする。
「そもそもこんな所に来たんはトットリを診てもらうだめだろーがッ!」
「おや……これはこれは」
ミヤギの言葉に促されるようにトットリ(+ネコ耳&シッポ)を見た高松は、さも面白い物を見た、という感じで目を細めた。
「なかなか愉快に似合ってますね」
「あ、やっぱしそう思うけ?」
「同調してもらったからって嬉しがるな。馬鹿者」
にはっとだらしなく笑うミヤギ君だ。
「なぁ、ドクター、これはどーゆーこっちゃい」
「これは……ですね」
カツコツと、踵で足音を付けながら近寄り、トットリの肩にポン、と手を乗せ、
「私の薬の成果が完璧だと言う事です」
『待たんかい』
さらっと言ったすごい台詞に皆が倍角でハモった。
「て事は何か!?これはお前が原因か!?」
「はっ(嘲笑)当然でしょう。こんな素敵な芸当が出来るのは、私の薬か針の塔の呪いかトイ・ボックスぐらいなもんです」
「……何だか大した事に思えなくなって来たな……」
「つーか、ンナモン作ってどーすっ気だ?」
「勿論グンマ様に有効的に使わさせて貰うんですよ!」
きらーん、と背景に薔薇を携えて声高らかに宣言した。ドクター、今のあんたはオスカルより凄いよ。一同は呆れ帰った。
「それよりも!僕ぁちゃんと元通りになるっちゃね!?」
「もちろんですよ。誰の作った薬だと思ってるんです」
それを踏まえた上での発言なのだと思うが。
「中和剤なんか、お茶漬けを作るみたいなもんですよ」
「なんじゃ、作っとらんかったんかい」
「失礼な言い方しないでもらいたいですね。すぐ出来ますよ。一年もあれば」
『今すぐ作れぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
またハモった。
「一件落着……って言いたい所だけども……」
「ちっとも解決してないだわいや」
シッポを持て余すようにごろり、とベットに横になる。ここはトットリの部屋だ。なぜトットリの部屋にミヤギもいるかというと、ミヤギの部屋には現在、手首を掻っ切ったアラシヤマがいるからである。
「むー……こんなんじゃ外に出れないっちゃ……」
ピョイン、と髪から出た耳を引っ張る。
「あー、そんなにヘコむなって。中和剤はすぐ出来っし(おそらく)それに、その姿もなかなか似合ってんべ」
とことん自分に正直な男、ミヤギ。
「……ミヤギくんは優しいっちゃね」
ミヤギの発言を微妙に取り違えたトットリだった。どうやら慰めてるものと思ったらしい。
トットリはてってって、とそれこそネコのような足取りで来て、ポフンとミヤギの胸の中に収まった。
「僕、ミヤギのそーゆー所、好きだっちゃv」
にっこぉりと眩いばかりの笑顔を見せられ、ミヤギのボルテージは一気にドカンと上がった。
部屋に二人っきり。
至近距離。
ネコ耳・シッポ。
これはもしや添え膳というやつでは!(最後が何か違うような気もするが!)
「トットリ!」
「うわぁ!!?」
抱かれてた姿勢のままミヤギが倒れ込めば、当然トットリは押し倒される事になる訳で。
「み……ミヤギく……?」
「…………」
何か声でも掛けてやればいいのだろうが、いかんせんミヤギもいっぱいいっぱいで。そのままグッと顔を近づけ、そして!
がちゃり。
「ふー、やれやれ。こんな短時間で出来てしまいましたよ。……あ、取り込み中でしたか。気にしないで下さい。外で聞き耳立ててますから」
「取り込み込み中……って……あぁ!ミヤギくん!どーしたそんなに脱力して!!」
がっくりと何もしてないのに力尽きてるミヤギを支えて、あわあわするトットリだ。
……誰かが……オラの邪魔をして楽しんでる……
悪魔の存在を信じずにはいられないミヤギくんでした。彼の青い春はまだまだ続きそうだねv
<<エンド>>
みんな――!ネコ耳は好きか――!私は好きだ――!って事で作った話です。ネコ耳万歳!私の書く(あるいは描く)ミヤギはヘタレなのですが、この話ではまさにヘタレ極まれ!って感じでしたね。おまへ可愛いーしか言うとらんやないかい!!
ちなみにタイトルの意味はおおよそに「僕の可愛い小猫ちゃんv」ってフィーリングでしょうかね。ああ、何スかその目は。
……しかし……危うく途中で裏に行くところだったい……(ふぅ、危ない危ないv)