別に閻魔大王に舌抜かれるのが怖いから、って訳でもないけど。
アイツとゆー人物を誰かに紹介するなら、傍若無人としかいいようがない。
「オイ!メシたかりに来たぜ」
それなとっても無礼な事だというのに、恥じる様子は微塵も見せずに言い切ったアラシ。
シンタローは、さっきまでの穏やかな昼下がりにさよならを告げた。
今日は、折角ヒーローの機嫌も良くて素直に昼寝してくれたから、ゆっくり読書でも出来るかと思ったのに……
はっきり言っても言わなくても、虫の居所が悪いヒーローより、普通のアラシの方が500億倍性質が悪い。
アラシという者を知っている人から見れば、物が重力に引っ張られて下に落ちるより解りきった事である。
「オマエな、いい加減いい年なんだから、自分のメシくらい自分で都合しろ!」
「ヤだ面倒臭ぇんだもん」
「面倒で済ますな!て言うか、どうせなら彼女にたかれ彼女に!」
アラシは彼女持ちだ。一応。
「そりゃ無理だ。別れたから」
……アラシは彼女持ちだっ”た”。
「別れたって、まだ1ヶ月も」
「だってよ、すぐ泣くし。苛め甲斐ってもんがない!」
「……………」
小学生じゃないんだから、と思ったが、アラシのモラルは小学生以下だろう。きっと。
「ま、身体の方は………」
アラシのセリフが途絶えた。
何だ?とシンタローがその矛先を見やれば。
「あーぅー」
アラシの気配に感づいたのか、起きてしまったらしい。今の所、初めて見る相手に、恐怖や嫌悪より好奇心が勝っているようで、興味津々と顔を見ている。
「わ!ヒーロー!いけませんそんなヤツに近寄っちゃ!!」
「失敬な!俺は感染病か!?」
「ワクチン打ったら治まる感染症の方が、まだマシだ!」
「んなにぉぉぉ………おおおおお!?」
アラシの声が裏返る。シンタローに気を取られ、髪を引っ張ろうとして立ち上がった事に気づかなかったのだ。
「いだだだだだ!!おい父親!どーにかしろ!!」
「きゃっきゃ♪」
「喜ぶな!」
「ヒーローたん、ご機嫌でしゅねーv」
「お前も喜ぶな!そして撮るな!!」
何時の間に出したのか、デジカメを手にしているシンタローだった。
いい加減、アラシがヤバいので、シンタローはヒーローを抱き上げ、遠ざけた。アラシは相手が子供だからと大目になれる出来た人物では断じてない。
「躾なってねぇぞ、そいつ」
くしゃくしゃになった髪を直し、言うアラシ。
「まぁ、そう言うなよ。きっと、色でタイガーと間違えたんだよ。よく遊んでくれるからな、アイツ」
「がー」
ヒーローはどうやら”タイガー”と言ってるつもりらしい。
うげ、とアラシは顔を歪ませた。
「冗談じゃねーよ、あんなのと一緒くたにすんな!
あーもう気分悪くした。帰る」
「そーかそーか、何の御持て成しも出来ませんで」
「お気遣いなきよう」
バタン、と乱暴にドアが閉まった。
ピーンポォーン。
またお客かよ、と起きたヒーローと戯れていたシンタローは、再度腰を上げた。
「誰だー?」
『おーい、いい酒実家からかっぱらったから飲もうぜー』
『ヒーローは?ヒーロ起きてる?』
気遣いのない悪友の次は気の置けない親友達だった。
「ヒーロー、バートとタイガーが来ましたよー」
解っているのかいないのか、うきゃぁと喜ぶヒーロー。
「おお、今日はすげーテンション高いな」
足によじ登るヒーローに、そういうバード。
「そうだな、一杯人に会ってちょっとはしゃいでるのかも」
「一杯って、他にも誰か?」
「まあな。アラシだけど」
「え、アラシ来てたのか?」
「来たというか、メシたかりに来て機嫌悪くして還った」
「相変わらず無茶苦茶だな」
全くだ、と思うシンタロー。後ろで早速タイガーがヒーローをあやしている(というか一緒に遊んでいる)。
「……アラシが来たにしては、何か様子が可笑しいよなー………」
「可笑しいって?」
酒の肴を適当に準備しながら訊いた。
「いや、俺にも具体的には……」
と、呟いている途中、気づいたのか、あ、と声を上げた。
「煙草だ、煙草の吸殻とか匂いがねぇんだ」
「……そう言えば、あいつ吸わなかったな」
「ヒーローが居るからじゃないか?」
話を聞きかじっていたタイガーが言った。
「まさか。風邪の見舞いですら煙草ふかしてるヤツだぜ?」
有り得ない、というバード。
「切らしてたか、持ってくるの忘れたんじゃねーの?」
「そんな所かな」
「そんな所だろ」
そんな事にしたけど。
今度来たら、何か作ってあげようかな、と思う。
<END>
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